連続投稿第四弾!
アオイの話を聞いて一夜明け
屋敷に立て籠もり生活二日目。
居間と隣接した台所で、昨日見なかった光景が広がっていた。
トン、トン、トン!とリズミカルな音と鍋で何かを煮込み音に美味しそうな匂い。
それに反応して、居間で眠っている一番、嗅覚の優れている観月が気怠げに起きながら、音と匂いのする台所へ視線を向けた。
眼に写る光景に最初寝ぼけていた観月だったが、視界から入る情報に徐々に頭が覚醒し、眼を見開く。
「蒼…依…?」
台所に立ち、料理する和服姿の女性を見て、観月が無意識に呟いた。
名を呼ばれたからか。
女性は作業の手を止めて振り返った。
「おはようございます。お久しぶりです…観月さん」
アオイは柔らかく微笑みながら驚く観月に挨拶する。
観月はバッと弾かれるように立ち上がると、台所に立つアオイに詰め寄り、肩を掴んだ。
「アンタ、一体なんで?!どうして、此処に?!」
「えーと…観月さん。ちょっと落ち着いて…包丁使ってるから危ないです」
「そんな事、言ってる場合かい?!」
「わ、わ、わ」
目に見えて冷静さを欠いている観月をアオイは宥めようとするが肩を揺さぶられ、包丁で切りつけてしまわないようにと注意する。
二人の騒ぎ声に居間で寝ていた者達は寝ぼけ眼になりながら起き上がってくる。
「ん〜…どうかしたの?観月さん?」
「……一体、何事ですか?」
まず最初に波瑠が目を擦りながら、観月に尋ね。
次に沙耶が顔を叩いて、目を覚ましながら聞いた。
沙耶の性格なら、騒がしければ敵襲とでもいいそうだが、洸の築いた結界は術が不得手な彼女から見ても、容易く破れる代物でないのは理解できたので、敵が侵入してきたとは、思えなかったから、その台詞は出てこなかった。
その後ろに遥菜、綴が続いて四人は台所に目を向けた。
四人の視線が一斉に二人を視界に捉え、観月とアオイは少し困った表情を浮かべながら彼らの視線を受け止める。
状況を上手く飲み込めない四人であったが、顔見知りの観月に肩を揺さぶられる和服美人に視線が集中した。
『誰ですか?』
「えーと……?」
四人に見つめられ、また観月からの圧もあり、アオイはどう説明したものか、どこから話すべきか思案しながら目を彷徨わせた。
五人はアオイから口を開くのを待つ。
すると、
「朝から何を騒いでいるんですか?」
一人寝室を使っていた洸が居間に顔を出した。
波瑠らは現れた洸の方へ振り返る。
洸は振り返った四人と観月やアオイを怪訝な顔で見ていた。
「あ、アオイさん?料理の進行具合はどうですか?材料足ります?」
だが、そんな表情もすぐ解けて。
波瑠ら四人が壁になって見えにくくなっている台所に向かって洸は声を掛けた。
余りにも自然な態度に五人の瞳が驚きで見開かれる。
「皆縞……アンタ、なんでアオイを知ってるんだい?」
「えっ?…アオイさん、まだ説明していないんですか?」
不思議そうな顔を浮かべながら、洸はアオイに尋ねる。
「う、うん…ちょっと観月さんの勢いに押されちゃって。まだ説明してないわ」
「あー…すいません。僕が気を回すべきでしたね?」
頬を掻きながら洸は苦笑いして言った。
「皆縞くん。どういうこと?この人は一体…」
「ん?あぁ…彼女については朝ご飯を済ませてから説明するよ。夜谷達に無関係ではないからね。良いですか?観月さん、アオイさん」
二人へ了解の意思を聞く。
「私は構わないよ、アンタはどうだい?蒼依」
「私も問題ありません。良いですよ、皆縞君」
両人の了解が取れたので、話は朝ご飯を取り終えたらということになる。
「では、それで。観月さん、いい加減にアオイさんを離して上げたらどうですか?」
「あっ!済まないね…」
ハッとし、観月は掴んでいたアオイの肩から手を退けた。
アオイは淑やかな笑みながら「大丈夫ですよ」と観月の謝罪を受け入れると、朝食の作業に戻る。
「なにか手伝いますか?」
「大丈夫よ?あと少しで出来るから。皆さん、居間で待っていて下さい」
「分かりました。お願いします」
手伝いを断られ、手持ち無沙汰となった為、洸は波瑠達を率いて、居間の復旧をすることにした。
女子全員が寝るスペースを確保する為に一度、ちゃぶ台といった家具を撤去していたので、手分けしながらそれらを元の位置に戻していく。
復旧が終わる頃には、アオイも朝食を整え終わり。
全員、居間でアオイの作った朝食を頂いた。
そして、
「それでは説明に入りたいと思います」
朝食も取り終え、片付けも済ませ。
居間に一同を集めて座らせ、アオイを自身の隣に置き、洸は話し始める。
「彼女の名は"アオイ"。一種の守護霊みたいな方です」
「守護霊?」
「僕の使い魔であるルギヤと似たようなモノです。あの大樹の封印を護る為の防衛機構みたいなものさ」
洸はそう言ってアオイを紹介した。
「アオイです。皆さん宜しくお願いします」
ペコリと正座しながらアオイは波瑠らにお辞儀した。
「どうやって皆縞はアオイと会ったんだい?この屋敷はアンタの結界で外界から遮断されてるはずだよ。アンタ、まさか私らが寝てる間に外へ出たのかい?」
「まさか、外なんて出ませんよ。彼女がこの屋敷内に居るのを確認したのは、最初に屋敷で探知した時です。夜谷を敵の結界内から連れ出そうとしていた時に、彼女が助けてくれたので、魔力波長を覚えていました」
以前からアオイの事を知っているらしい観月の質問に洸は正直に答えた。
「観月さんは口ぶり的に以前から顔見知りのようですね」
「遠回しに聞かなくても良いよ。アンタの事だ。アオイから聞いてるんだろう?」
「えぇ。昨日、色々とお話させて頂きました」
ぶっきらぼうな様子の観月に洸は首肯し認めた。
「そうかい。で、アオイ?アンタが大樹から離れて大丈夫なのかい?状況が分からない訳じゃないだろう。何をしてるんだい?」
「観月さんや波瑠ちゃんの様子を見に来たんです」
「私と波瑠の?」
「はい。ですが……」
アオイは言い淀み、視線を洸へ向けた。
見られる本人は少し困った顔をして言う。
「彼女が屋敷の敷地内に入ってる中で、僕が結界を張ってしまいましたから、霊子体の彼女はそのせいで、此処から出られなくなったみたいです」
アオイとしても想定外であり、彼女の手落ちである。
「出られないって…どうして?」
「波瑠お姉さん。多分、観月さんがさっき言っていたようにこの屋敷を覆う結界は霊的なモノを遮断しています。術や幽霊とかを、それも内外問わず。結界内に入った霊体は必然、外に出られません。ですよね?洸お兄さん」
波瑠の疑問に綴が説明しながら、洸に聞いてきた。
「綴ちゃん、正解。実体を持つ僕らや使い魔のルギヤはともかく、弱い霊子体なら消滅するし、半端に強い霊子体は侵入逃走は不可能に近いよ」
「貴方の指す半端に強い霊子体の基準が分からない」
ボソリと沙耶が呟いた。
それが聞こえたのか、洸は更に補足する。
「本来なら少なくとも、アオイさんがその気になれば出られる程度の強度しかないよ。仮にも大樹の封印に関わる守護霊だ。しっかり龍脈から魔力供給がされてるなら、出られてるはずだよ」
洸のその言葉に観月がまさか…といった少し焦りが混じった顔で、アオイを見て言う。
「アオイ。もしかして封印が…龍脈の霊力が切れ掛けているのかい?」
「……はい。徐々にですが大樹への霊力供給が減少しています。今は私が大樹との"縁"を通して今まで蓄えていた霊力を与え、補強している状態です」
「なっ…?!」
アオイの告白に観月は驚いた。
そこまで不味い状態に陥っているとは思っていなかったのだろう。
「昨日、僕もアオイさんから、それを聞いてルギヤに封印の様子と大樹周辺の龍脈の流れを見に行ってもらってる所です」
「なる程…あの性悪猫、見ないと思ったら」
朝から姿を見せないルギヤを不審に思っていたのか。
沙耶が毒づきながら居ない事に納得する。
「報告待ちですが、状況が想定より悪くなっていた場合、少し強引ですが、此方から仕掛けないといけません。どうやら流暢に待ってる場合じゃないらしい」
「仕掛けるのは構いませんが、大丈夫ですか?此方には非戦闘員が四名居ますが?」
沙耶が波瑠、遥菜、綴、アオイと順々に見ながら尋ねる。
波瑠、遥菜は元より戦う人間ではなく、綴は多少なりと術の類を振るえるようだが実力未知数。アオイに至っては封印維持の為に霊力が枯渇しかけ、弱体化中。
正直、不安要素が多すぎる。
「綴ちゃんはともかく、アオイさんの方は僕がどうにか出来る。彼女と"契約"を繋いで疑似使い魔とします。どの道、封印の一部になっている彼女は、このままだと封印式に魔力を喰い尽くされて消えてしまいますし?」
「そうすると、アンタの負担がデカすぎるんじゃないかい?あの猫とアオイ、それに屋敷の結界維持となれば、幾らアンタでも戦闘に使える霊力が心許ないだろう?アオイと"縁"を繋いだとたん、アンタの霊力も封印に喰われるよ?」
観月の指摘は尤もだ。
洸自身も自覚している。
恐らくアオイと縁を繋げば、観月の言うとおり、封印術式と一体化している彼女を回復させるどころから、龍脈の霊力が足りない現状、封印に魔力を奪われていく可能性はある。
「…では、皆縞さん側が封印を外せばよいのでは?」
「はっ?なにいってんだい、この娘は?」
「いえ、今の皆縞さんは霊力?魔力?を制限しているのですよね?ならば、制限し蓄えている部分を解き放てば良いのではないかと?」
沙耶から思いも寄らぬ提案をされる。
観月やアオイは初めて聞く情報に首を傾げた。
沙耶は更に話を続ける。
「あの猫が言っていました。今の貴方は自身に封印を施して枷を掛けている状態だと。現在の状態でも充分に驚嘆しますが、まだ上があるのですよね?」
「皆縞…アンタ、マジかい?」
現状で全力でないとは。
驚きの言葉しか出てこない。
「まぁ…確かに"限定解除"をすれば、封印術式とアオイさんの現界を維持するのも、容易ですが…」
「なら、そうしたらいいのでは?洸お兄さん?」
何処か煮えきらない態度の洸に綴は不思議そうに小首を傾げる。
「供給される側の私が言うのもあれだけど、何か問題があるの、皆縞くん?」
「えぇ…まぁ…少し問題が」
はぁ…と溜息を突くと洸は話す。
「限定解除の条件が問題なんです」
「条件?」
「詳しい説明を省きますが、僕の制限を掛けていない魔力は少し特殊でして。制限を外した場合、封じていた分の魔力が身体に馴染む前に多少なりと漏れてしまう。そうなったら漏れだした魔力が外界に干渉して大変なことに」
「それって自分の意思に関わらず術みたいなモノが発動するということ?」
「あるていにいえば。それに近いです」
普段、余剰となる魔力は全て身体強化に回している。
でも、そうしても余る部分はある。
何もなければ垂れ流していても問題はないのだが、…洸の魔力が本来この世界とは異なるものであるからか。
漏れ出た魔力はこの世界の現象に影響をもたらしてしまうのだ。
幼少期、物心がつき、自身の内にある魔力を自覚した瞬間だ。制御から外れた魔力が原因でとんでもない事が起きたのを洸は今でも覚えている。
「だから、簡単に制限が外れないようにしているんです」
「一体、どんな厳しい条件を付けたの?」
波瑠が何気なく聞いた。
「ーぃーーーす」
「えっ?なに?」
良く聞こえず、波瑠は聞き返す。
洸は非常に気まずそうに答えた。
「制限している現時点の保有魔力が消費量の既定量を突破し、命の危機に瀕した時。それが僕が本来の力を取り戻す条件だよ」
これくらいの誓約を条件にして術式に組み込まなければ、漏れ出る魔力を抑えるに至らなかった。
そうしないといけないほどに、この世界では洸の本来の魔力と能力を封ずるには不可能であった。
己の命を掛けている同然の重い解除条件に。
そこまでしなければならないという事実に。
居間にいた全員は絶句するしかなかった。
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