地球に転生した魔法使いの僕は厄介事に巻き込まれやすいようです

その魔法使いは旧きお伽噺話を解明し、滅ぼす。
嵩枦 燐
嵩枦 燐

第七話

公開日時: 2020年9月9日(水) 18:30
文字数:7,563

こんばんは、嵩枦燐です。

本日二回目の投稿。

どうぞ、ご覧下さい。




そうして、ルギヤが沙耶と合流していた頃。

洸は屋敷の縁側に座り、黄昏れるように空を見上げていた。

波瑠達は身元不明少女と仔犬を連れ、奥の寝室で纏まって就寝している。

洸が起きているのは、異性だからだとかそういう訳ではなく、現在結界で囲われている状態で即座に対処が可能なのが単純に洸だけだからだ。

洸も人間。寝ずの番は堪えるが、そこは魔法を使えばどうにでもなる為、中に居ても暇なので、月明かりが照る縁側でゆっくりしていた。

すると、


「眠れないのか?」


振り向かずに背後に現れた人影へ話しかける。

人影は少し動揺した気配を醸しながら、部屋の暗闇から月明かりで明るい縁側へと姿を見せ、洸とちょっと距離を置いて隣に腰掛けた。


「眠くなくても横になって身体を休めた方が良いぞ。いつ動きがあるか、分からないからな」


「うん…」


顔を俯かせ、横髪に隠れ、表情が伺えないが洸の言葉にコクリと波瑠は頷き返した。

だが、腰を上げて寝室へ戻る素振りも見せない。


「何か話したい事でもあるのか?」


と、聞いてみる。

直ぐに返答はこなかったが、波瑠は意を決したように口を開いた。


「…ごめんなさい」


「ん?何が?」


「…巻き込んでしまって…」


口から紡がれる謝罪の言葉。

しかし、彼女が謝る必要は何処にもない。


「別に夜谷は悪くない」


そう、こんな事は誰にも予期する事は出来ない。

事の発端になったのは千年以上昔の話であるし、いつ、この状況になったとしても不思議ではなかった。

たまたま、運悪く波瑠の世代に問題が起こっただけに過ぎない。


「悪いのは昔の人だろ?」


「…そう…かしら?」


「大層に封印なんて拵えたのは良いけど、永遠にかけ続けられる封じなんて存在しない。何処かで破れるのは目に見えて明らかなんだから。わざわざ人柱使って封印するなんて意味が分からん」


当時を生きていないから言える事かもしれない。

大樹の下に封じられている神様がどれだけの力を持っていたのか知らないし、神と相対した術者もどれだけ力があったか洸は知らない。

そもそも、洸にとって悪神、邪神の類いは悉く"滅ぼし尽さなければならない"モノという認識だ。

封印して自然に還すなどという遠回りな方法は取らず、基本は"見敵必殺"である。

方法の一つとして理解出来ても共感は出来ないだろう。


「封印っていうのはさ。維持に"代償"を伴うものだ。本当に最後の、どうしようもなくなったら使う手段なんだよ」


「そうなの?」


「さっき言ったろ?永遠に続く封印なんてない。維持するには、相応の代償を支払い続けるんだ。多分、今までもーー」


と、会話の途中で洸が会話を切った。

別に何かあったという訳ではない。

ただ饒舌に話し過ぎ、言わなくてもいい事を口にしようとしてしまった為だ。

だが、


「……私…よね?」


「……」


「観月さんの言葉が本当なら……お姫様と同じくらいの濃い"血"を持った人間、私なら封印を維持する為の代償にならない?」


「なるとは思うが…今はもう封印の維持に意味はない」


「どうして?だって、封印が消えたら…封印されてる神様が…」


「出てくるな」


不安な表情の波瑠へ洸は当然といった調子で言う。

下手に誤魔化す事でもない。


「でも、それが何か問題か?」


「えっ?」


「出てくるなら、今度こそ仕留めればいい」


昔は出来なかった。

けど、今回は昔と状況が異なる。


「千年以上も封じ込められていたんだ。昔より良い勝負は出来るだろ?皆で掛かれば勝てるかも?」


封印された状態だと内部は刻が静止した状態となる。

観月の話を聞く限りでは、封印には封じている"神"の力を奪い、自然へと還元して弱体化させていく術式が組み込まれているらしい。


「皆縞君がそんな危ない真似する必要も理由もないのよ?」


「そうだな」


正直なところ、神様と関わるなんざ、洸としても御免被りたい。


「けど、戦わないとこの場所から離れられないしな」 


連中の狙いは波瑠だが、それを庇護する洸は間違いなく敵方にとって優先的な排除対象だ。

戦いは避けては通れない。


「夜谷が気にすることはない」


波瑠に罪はない。

罪があるとすれば、それは己の力を高めようと波瑠の血に宿る力を欲した神だろう。


「今回の件は夜谷だけに被害がいく訳じゃない。最終的に現状を野放しにすれば、神が復活して多くの人に災いが降り掛かる」


此処で食い止めなければ、被害は波瑠やこの場に居る者達だけに留まらない。

"神"とは、気まぐれだ。

元々が超自然的存在であるが故に、思考や意思が備わっていても天気の移ろいのように考え、行動する。 

存在する神の総てが善良という訳ではないのだ。

人の営みに災厄を撒き散らす、はた迷惑な存在も少なくない。


「夜谷の為だけに動く訳じゃないよ。僕が嫌だから、そうするんだ」


「…神様が相手でも?」


「相手が神様なら尚更だね」


普通の中学二年生、皆縞 洸としてではなく。

本来この世在らざる知識と力を持った"魔法使い"皆縞 洸として我欲に塗れ、人の世を荒らす邪神を決して許容しない。


「大丈夫。どうにかなるよ」


洸は波瑠に向かってそう言い放った。

神という人が及ばぬ超常的存在が敵役だというのに。

彼の決意と自信は揺るぐ事もなく、その口元に象られる微笑みと態度に表れる。

波瑠はそんな彼の大言壮語、傲岸不遜とも云える台詞と姿勢に不安な表情から一点、可笑しそうにクスりと笑う。


「やっぱり変わってるわね」


「そう?」


「そう。変人ね」


「おい、助けてもらっておいて、それはないだろ」


「ふふふ…ごめんなさい」


好んで神に喧嘩を売り、戦おうとする輩は世界広しといえど居るはずも無い。

神の"領域"に自己を到達させたい術者は居るかも知れないが、少なくとも洸にその気はない。


「さ、少し寝ろ。僕は役目上、眠る訳にはいかないから、此処にいるけど」 


「うん…。ありがとう、皆縞くん」


洸に寝る様に促されると、波瑠は少し躊躇いながらも腰を上げて、軽く一礼しながらお礼を言いつつ、寝室へと戻っていった。



それから明け方近く。

まだ波瑠達が寝床から起きていない頃。

ルギヤと沙耶の二人は徒歩にて、屋敷の近くまで移動してきていた。


「今更ですがこんなゆっくり移動して大丈夫ですか?」


「気付かんか?森全体に何やら"術"が展開されておるのが。下手に走り回って罠に掛かり、体力を消費するよりはよかろう」


「そうですが……」


「それよりも、どの様な術か、お主に解るか?」


「恥ずかしながら、"見鬼"の才はあっても術の見極めは少々苦手で……。恐らくは幻術に類するものとしか」


「それが分かれば上等よ。ワタシも然程、お主らの扱う術の心得はない。無いが、この術には覚えがある」


面白く無さそうに鼻を鳴らしながらルギヤは歩みを止めずに話す。


「今日の昼間だが、奇妙な三人組に襲撃されてな。その三人組の内の二人が使っていた術と酷似している」


「一体どうして?狙われる理由でも?」


「狙われているのは主の同級生でな。中々難儀な血筋のせいで、"魔"の者からつけ狙われているようだ」


「では、村の異変は……」


「住人を異空間で保護しているのは主の魔法だが、その様な蛮行にでたのは十中八九、昼間仕掛けた奴らのせいであろうよ」


でなければ、世間へ秘匿している魔法の中でも一際目立つ、時空間系統を使用する訳がない。


「そういえば、お主は何故、この村を訪れた?その様子だとあの三人組を追ってという訳でもなさそうだが?」


「私は兄と一緒にある男を追って此処へ訪れたのです」


「ほぉ、お主の他にこの地に入り込んだ者が居るのか…」


「はい。兄は私より先に森に入っていたのですが…」


「…なる程。主と交戦した可能性は高いな」


沙耶より一足早く、足を踏み入れているなら彼女を無力化した後に出会っている可能性は大いある。

更に交戦したなら、沙耶と同様に無力化もされているだろう。


「となれば、だ。こうして歩いていれば、お主と同じく何らかの形で封じられているだろ」


「何故ですか?」


「お主らを無力化したのは単純に時間がなかったのだろう」


動きを封じたなら、本来追撃している筈だ。

でも、それをしなかったということはトドメを刺す暇すら惜しかったか、それよりも優先すべき事項があったかだ。


「確かに何か焦っている雰囲気は感じました」


「推測だが、昼間に襲ってきた連中が娘を拐かしたのであろう。もう一人、主が世話になっている小娘も居たのだが、宿から姿を消しているのを見るに巻き込まれているはず。二人を守る為には己が制約を守っている状況ではなくなったのだろう」


「制約?」


「あぁ…。家族や命が危機に瀕さぬ限りは"魔法"を無闇矢鱈と行使しないというな。まぁ、主なりのルールだな」


魔法が"この世界"でも行使出来ると分かった時、自身が異質な存在であるのを洸は認識していた。

根本的な理や法則、積み重ねられた歴史が異なる場所で、異界の魔法を普通に扱える自体、異常な事だ。

"法則が異なる場所で異界の魔法が何の問題なく使える事など、魔法使いの常識的には普通あり得ない。


故に、一般人へ秘匿する為に洸は簡単に魔法を行使する事はせず、自分の周りの者達が害される、又は自分の命が危険に侵されければ魔法は使用しないと己に制約を架して生きてきた。


「だが、これ程の規模が大きい事象が起きれば、その制約も破らず得まい。よりによって、主の身近な人間を狙うとはどんな阿呆か知らぬが愚かよな」


「愚か…ですか?」


「彼我の戦力差が理解できぬのは生物としての危機察知能力が欠如している。あれを敵に回して只で済む訳がない」


憐憫が混じらせ、自嘲気味にルギヤが言った。


「主が腹を括ったのなら、この騒動は数日中に解決するであろうよ」


「状況を聞く限り、そうは思えないのですが?」


敵は複数な上に幻術を巧みに使う、搦手に長けているようだ。

こういう手合いは持久戦を想定し、相手が弱るまで根気良く待ち、弱った所を確実に仕留めにくる。

又聞きな為、沙耶は敵側の事を余り良くは知らないが、一度、襲撃に失敗しているなら、今度は成功するように慎重を期してくると思われる。


「断言してやる。決着はつく。彼奴に喧嘩を売って勝てるモノ等、この世に存在せん。例え、"神"であろうと、だ」


ヒトの理を超えた存在に対し、畏れを抱かず対峙出来うる稀有なる存在。

今世の理にも準じながら、それに抗する唯一無二。

それがルギヤが主と仰ぐ"皆縞 洸"という少年だった。






「お手数を掛け、申し訳ありませんでした」


早朝の第一声。

屋敷に逗留中の人間全員が居間に一同、会している中、観月を含めた民族学部の前で数時間前に屋敷内にて保護した身元不明な少女と仔犬らしき生物が深々と土下座の姿勢を取り、謝罪してきた。


「いやいや、何事もなく起きてくれて良かった。具合が悪い所とかはないか?」


「はい。私もこの仔も問題なく」


少女は下げていた頭を上げ、洸の問いに頷き返した。


「まず自己紹介を。僕は皆縞 洸。東京の京成中学二年だ。こっちは同級生の夜谷波瑠、先輩の児島遥菜、引率者でOGの弥生観月さんだ」


洸が順番に居る人物達の紹介をする。

一人一人、対面している少女と視線を交わし、軽く会釈した。


「では、私からも。賀茂かも  つづりと申します。東京の學秀院小学校の五年生です。この仔は友達のシロくんです」


ペコリと、少女…賀茂 綴が仔犬を抱えながら自己紹介し、四人へ改まって頭を下げた。

外見は年相応、小学生くらいと思っていた洸達だったが、どうやら当たりらしい。

少し驚いた点を上げれば、通っている学校。

東京で學秀院と云えば、富裕層の子息子女が通う名門私立である。

それだけで育ちの良さは充分伺えた。

更に、


「學秀院の学生で、"賀茂"ね……もしかして、賀茂グループの?」


「あ、はい。多分、御推察通りです。祖父は賀茂グループの会長をしていました」


洸の言葉に綴は頷き返した。

賀茂グループとは、戦後急成長した企業の一つだ。

日用品から家電や車等と幅広い分野に手を広げている。

昨今では珍しい一族経営で、現最高責任者も創業者一族の者が務めており、その上の会長職もまた同様。

その創業者一族の名が"賀茂"であり、同じ名字を名乗った綴は所謂、本家筋の人間と認識して良いだろう。


「会長をしていたというのは?」


「昨月から体調を崩されて、つい一週間前に亡くなりました」


「それはお悔やみを…。けど、ニュースに流れていないね」


「企業側としての都合でお父様が情報を差し控えさせていますから」


「流石、賀茂グループ」


大企業ともなれば、メディアへの情報統制を行う影響力はあるようだ。


「それで?賀茂家のご令嬢が、こんな辺鄙な山近い村の捨てられた屋敷に何の用事かな?」


「家の用事というか、何というか…」


綴は歯切れ悪い口調で言葉を濁す。

そんな彼女の様子に観月を口を開く。


「大方、次の鬼切ノ頭に関わる事じゃないのかい?」


「っ!?」


観月の指摘に綴が驚きを露にした。

洸は話の要領を得れず、尋ねる。


「どういう事です?」


「言ったろ?今代の鬼切ノ頭が死んだって」


「それって…まさか」


「そう。今代の鬼切ノ頭、"賀茂清十郎"。賀茂グループの前会長様だよ」


洸の疑問に観月が何でもない事の様に答えた。

充分に衝撃的な情報である。


「賀茂グループは表向きの顔。裏では鬼切り役の家々を統率、管理する役目を負っている。元は陰陽寮に属する一族で、未だに神祇庁からの影響が強い家系さね」


「陰陽寮って…あの安倍晴明で有名な?」


「あの坊やの師匠の一族が賀茂家さ。まぁ、陰陽師って云えば、道満か晴明が有名どころではあるだろうねぇ」


「まるで顔見知りの様な口ぶりですね」


「私がいつから生きてると思ってるんだい?」


確かに。

奈良から現代に至るまで生きている以上、観月は日本の歴史を実際に体感してきている存在。

生きた歴史そのもの云えるだろう。

安倍晴明などの歴史上の有名な人物と顔を合わせていても不思議はない。


「じゃあ、ほんとに?」


「実際に道満や晴明とは顔見知りだよ。そのお陰で賀茂家の人間とも繋がりが出来た。以来、その子の一族が鬼切りの上役みたいなものになってからは、少し距離を置きながらも、縁は切らしてなかったよ」


「じゃあ、亡くなった賀茂前会長とも?」


「知己ではあったよ。死ぬ数日前にも顔を出してお別れを告げたしね」


自分の一族が滅ぶ要因ともなった退魔師達の総領にも関わらずに付き合えるのは、ある意味、観月の懐の大きさが解る。

綴としても祖父と知り合いな様子の外見年齢二十代の美女と洸の言葉に困惑しているような表情を浮かべていた。


「お祖父様と知り合い……だったのですか?」


「あぁ、清十郎とは彼奴が若い時に何度があったよ。まさか、孫まで産まれてたのは知らなかったけどね」


観月と賀茂前会長では娘か孫くらいの年の差があり、知人だとは傍から見てはわからないはずだ。

実際は観月の方が遥かに年長者で、家族でないなら若い愛人と見られても可笑しくない。


「では……貴女が"山月ノ民"ですか?」


「ん?その呼び方を知ってるのに、清十郎は私の名前を教えなかったのかい?」


綴の問いに観月は首を傾げつつ、聞き返した。

綴の口にする"山月ノ民"というのは、どうやら今は亡き観月達の一族の呼び名らしい。


「今より幼い頃、お祖父様から聞いた事があるだけです。遥か昔、月神の加護を受けた一族がいた。その末裔は今も現代に生きている。いずれお前の前にも姿を表す時がくると」


「あいつは仰々しい物言いを……でも、ホントに触り程度の情報しか教えてないんだね。ま、私がそう頼んだからだけど」


かつて滅ぼした異端の民が生存しているとなれば、鬼切り役達も動かざる得ない。

幾ら人に似ていようと人に非ざる者を見過ごすような輩達ではない。


「それじゃあ、この娘は賀茂家の直系で此方側の事情にも通じてると思って構いませんか?」


「うーん…その辺りどうなんだい?」


洸が観月に尋ねると、観月は綴へ問い掛ける。


「現在の賀茂家本家は私以外に術等を扱える人間がいませんから小さい頃よりお祖父様に色々と聞かされていましたし、修行もつけてもらっていました。"裏"の事情は把握しているつもりです」


綴が答えた。

小学生ながら、こんな怪しげな場所に来るのだから、相応の自衛手段はあって然るべきだろう。

祖父から直に観月の存在を間接的に教えられている事も考慮すれば、彼女は次期、鬼切ノ頭に近しい立場にあるとも思われる。


「なら、話は早い。現状を教えると、僕らは正体不明の三人に村で襲撃を受けて、夜谷……彼女の両親が遺した屋敷内に立て籠もっている状態だ」


「あぁ…この仰々しい結界はその為ですか…」


綴が屋敷に侵入した際にはなかったので、現状の屋敷の状態に起き抜けとはいえ、術者として不自然さは否応もなく感じていた。

洸の説明で得心がいく。


「この結界は弥生様が?」


「堅苦しい呼ばれ方は嫌いでね。観月で良いよ。そして、質問に答えるなら否、だよ。この屋敷に結界張ったのはソイツさ」


観月が洸を指差して言う。


「皆縞さんも術者なのですか?」


「君達の様に陰陽術や呪術という名称のついた術を扱ってはいないけど、広義でいうなら術者だよ」


「?どういう事ですか?」


「いずれ機会があれば話してあげよう」


首を傾げる綴に洸は意味ありげに微笑返す。

洸の魔法は異世界ものだ。

術を発動させる魔力を使用する事は、ほぼ同一の代物だが、術を構成する術式は異世界の言語と独自な構築式で成り立っている。

話して理解できるものではない。


「まぁ、それよりも。状況は理解できたかな?」


「概ねは。では、これからのどうするおつもりですか?」


「一先ずは現状維持だね。相手方の術者に屋敷の結界を解く程の技量はない。力づくで容易く壊れる代物でもないし」


「そう、ですよねぇ…」


綴も術者の端くれだ。

屋敷全体を覆う様に張られた結界が自分が見知ったモノの中でも強固であると思ってはいた。

そんな結界の中に居るのだから、わざわざ外へ討って出るよりも籠城した方が戦力消耗は少ないだろう。


「けど、いつまでもここに留まれませんよね?」


「勿論。人間である以上、食糧等の補給は必須だ。長々と籠城する気は毛頭ないさ」


そう…。

長期戦等ならない。

洸の内心では数日中に終わらせるつもりだ。

だから…


「情報収集も含めて、外にお使いを出しているんだ。それが戻り次第、行動を起こそうと思ってる」


「いつ頃に戻る予定なんですか?」


「もう間もなくさ。ほらーーー」


と言って、洸は屋敷の庭先を指差した。

すると、指差した方向の景色が陽炎の様に歪んだと思った次の瞬間、一匹の黒猫と制服姿の少女が姿を現した。

それに驚く素振りもなく、洸は黒猫へ声を掛ける。


「お帰り。首尾はどうだった?」


「まぁまぁだ。そちらは何やら面白い事になっているな」


「お前ほどじゃないさ」


退魔師の少女、草葉沙耶を連れて。

使い魔ルギヤは主たる洸の元へ舞い戻ってきた。



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