シィーがお腹を抱えて笑っている姿を、悔しそうに見つめるミリアーヌさん。
チカは内心でガッツポーズをとると、ニマニマした顔でミリアーヌさんを見つめながら、
「ぷぷっ、それで? 自称アイドル? のミリアーヌさんはどうしてここに?」
「うるさいわねっ! だいたい元はと言えば、チカちゃんが乙女の過去を探るような、卑しいことをしてたせいでしょっ!!」
「乙女って......」
「なに? なにか言いたげじゃない?」
──ミリアーヌさんは乙女って年齢じゃないよね?
「失礼ねっ!! これでも女神の中では若いほうなのよっ! ──あら? それってチカちゃんの創ったゲーム機じゃない」
ミリアーヌは興味深げにティターニアに近づいくと、ゲーム機を手に取った。
「ええ。シィーちゃんが複製してほしいと言うのでこれから複製しようかと」
「へぇー。ってティターニアのその喋り方はどうしたわけ? 昔はそんな喋り方じゃなかったわよね? あの甘えん坊でチビッちゃかったティターニアが、背までこんなに大っきくなっちゃって!」
「いつの話をしてるんですかっ!!」
「かえでぇー! かえでぇー! っていつも彼女にくっついて離れなか──」
「あああああっ──!」
ティターニア様は顔を真っ赤にしながら、慌ててミリアーヌさんの口を塞いだ。さっきまでのクールな雰囲気が、ミリアーヌさんのせいで台無しだ。
「もうっ! お願いですからやめてくださいませんか?」
「あはははっ! 久しぶりにちょっとからかっただけじゃない! 数百年ぶりの再会なんだから、もっと喜んでくれてもいいのよ? そうだっ! せっかくだし、昔話に花でも咲かせましょうよ!」
「はあー......」
ティターニアはため息をつくと、チカ達の方へ顔を向けた。
「みなさん。申し訳ないのですが、こんな状況なので、今日はここまでにしておきませんか?」
「あっ、うん」
「シィーちゃん、彼女達を城の客室に案内してあげて。── チカさん、それに白い猫ちゃん。疑うようなことを言ってごめんなさいね」
「だ、だいじょうぶですニャ!」
「私も気にしてないから大丈夫だよ」
「ありがとう。ぜひゆっくりと妖精の里を楽しんでいってね」
「じゃあチカもメリィもこっちにくるのっ!お部屋に案内するの!」
「あっ、待って! わたしミリアーヌさんに色々聞きたいことが── 」
「チカちゃんダメよぉー? いま貴女が考えてることには答えられないわ♪」
「── ねえ。その勝手に私の考えてることを読むのやめてよっ! プライバシーの侵害って言葉知ってる?」
「ぷぷっ! この世界にそんなものありませーん! 残念でしたーっ! 作る気もありませーん!」
「うぎぎっ......」
「もうっ! そんなにつくりたいならチカちゃんが作ればいいじゃない?」
「どうせできないんでしょっ!! そうそう簡単には騙されないよ」
「できるわよ?」
「えっ?」
「数百年後にはね!」
「私死んでんじゃんっ!!」
「ぷぷっ! あれれ? もしかしていま期待しちゃった? ねえねえ、期待しちゃった?」
ミリアーヌは楽しそうに身体を左右に揺らしながら、ニマニマした顔でチカを覗き込むようにジーッと見つめた。
「うぜぇぇぇーっ!! ホントにムカつくっ!」
「あはははっ!! 本当にチカちゃんで遊ぶのは飽きないわあー。これからも楽しみにしてるわね!」
「ぐぎぎぎ......。メリィちゃん、シィー! もう早くいこっ!!」
チカはそう言うと、不機嫌そうに扉を開けて、ひとりで外に出て行った。
「あっ! ちょっと待つのニャ! 置いてかないで欲しいのニャ!! ティターニア様! 私もこれで失礼しますのニャ」
「もうっ! チカは部屋の場所も知らないのに、一体どこにいくつもりなの!? ティターニア様、私もいってくるの!」
「え、えぇ。シィーちゃん。チカちゃんのことお願いね」
「もちろんなのっ!!」
◆◇◆◇
3人が去った後、呆然と様子を眺めていたティターニアはフゥッと小さく息を吐いた。
心を落ち着かせてから真剣な表情でミリアーヌのほうへ顔を向けると、すでにミリアーヌの表情から笑顔は消えていた。
チカ達に見せていた、無邪気で底抜けに明るい雰囲気は消え、女神に相応しい気高さと厳かな雰囲気を漂わせ、ただ真っ直ぐに扉の先を見つめていた。
「──もう演技はよろしいんですか?」
「ふふふっ。失礼ね。全てが演技というわけじゃないのよ?」
「それは知っています。昔のミリアーヌ様を見ているようで、少し懐かしさを感じていましたから。──でもどうしてあの子にあんな嘘を?」
「嘘ってなんのこと?」
「ミリアーヌ様が楽しむために彼女をこの世界に送った、なんて嘘ですよね?」
「ふふふっ。楽しませてもらってるわよ? チカちゃんは見ていて本当に飽きないもの」
「とぼけないでください! カエデが死んだあの日。最後に私と別れたあの日に。カエデのお墓の前でミリアーヌ様は言ってたじゃないですかっ!!」
──『こんな穢らわしい世界もう見たくもない。いっそ滅んでしまえばいいのに......』
「── ミリアーヌ様。貴女はチカちゃんを、いえ。この世界を一体どうするつもりなんですか?」
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