女の子と言われたことは否定しないでスルーすることにした。
もしかしたらこの世界では、私ぐらいの年齢はまだ女の子なのかもしれない。
それ以外考えられない。
仲良くなったら聞いてみようかな。
『マリーメリィ商会』は武器防具だけではなく、街の人が普段着ている服や回復ポーション、魔道具など幅広く取り扱っているみたい。
メリィさんとマリーさんのほかにも、従業員さんが何人も働いてる。
もちろん全員が猫耳。
渋い感じのおじいさんまで猫耳をつけている。
笑わないように気をつけないけない。
我慢できるかな......。
それにしてもここの従業員さんはホント大変だ。いくらお給料が良くても、私は恥ずかしくて絶対できないよ。
従業員さんを眺めていると、メリィさんがニコニコした笑顔で私に近づいてきた。
「お嬢ちゃん。ちょっといいかニャ?」
「どうしましたメリィさん?」
「礼儀正しい子だニャ! でももっと砕けた感じで話してくれていいニャ! さんもいらないニャ!」
「ん。私もマリーでいい。」
メリィちゃんがそう言うとマリーちゃんも隣でウンウンっと頷いている。
本当にかわいい子だ。
「ありがとう。それじゃメリィちゃんどうしたの?」
「よかったらでいいんだけどニャ! チカがいま着てる服を売ってもらえないかニャ?」
「私の服を? どうして?」
周りを見渡すと強そうな防具や、街の人達が普段着るような服もたくさん店内に並んでいる。
「チカの服は勇者様が着てた服にそっくりニャ。いま勇者様の服は王都で大人気なのニャ!勇者様も変えの服を欲しがってるそうニャ。」
「そうなんだ。んー。どうしようかなぁ」
「私としても今後の商品の参考にしたいし、金貨3枚でどうかにゃ?」
「ん。私もチカに服をプレゼントする。それでどう?」
「めずらしいニャ! マリーがそんなこというなんて久しぶりニャ。よっぽどチカのこと気にいったのかニャ?」
「ん。チカは勇者様の服が大好き。マークがそう言ってた。だから同志」
「マークさんって?」
「街の門で兵士をしている目つきのわるい奴ニャ」
あー。あの人ね。
たしかに目つきが悪くて怖かった。
彼には絶対ネコが必要だと思う。
「それはそうと、どうするニャ?」
少し悩んで。
「メリーちゃんありがとー。じゃあ食事ができる美味しいお店とか教えてくれるならいいよー?」
「おーっ! ありがとニャ!! 勇者様がいる王都と違ってあまり参考にできるものがなかったから助かるニャ。お店の案内も任せるニャ! せっかくだし一緒にいくニャ!」
「ん...。私もいく。チカ楽しみにしてて」
なんていい子達。
マリーちゃんが選んでくれる服も楽しみだ。
◆◇◆◇
メリィちゃんから金貨を受け取り、バックの中にしまっていると、マリーちゃんが黒色の服を手に持って戻ってきた。
「これ。チカにぴったり。私が作った。着てくれる......?」
「うん! マリーちゃんありがと。すごく嬉しい! 大事に着るね」
「大事に......。はじめて言われた」
ん? もしかしてこっちの世界ではこういう感じには言わないのかな?
少しマリーちゃんの反応が気になりつつ、
受け取った服をひろげてみた。
『黒色の猫耳パーカー』だ。
困った......。
恥ずかしくて、このかわいい黒猫パーカーを着る勇気が私にはない。22歳でこれを着るのはもう罰ゲームだよ!
これは大事にバックにしまっておこう。
「わわっ! マリーがこんな顔するなんて久しぶりニャ。私もうれしいニャ!」
メリィちゃんの声でふと我に返り、服から視線をもどして、私もマリーちゃんのほうを見てみる。
「ん......。わたしとお揃いの黒猫パーカー。可愛いのに誰も着てくれなかった。でもチカは大事に着てくれる...... 。すごく嬉しい」
よほど嬉しかったのか、いままでほとんど無表情だったのに、マリーちゃんは恥ずかしそうに目を伏せめがちにして私をみてわずかに微笑んでいる。
「......」
私はマリーちゃんに笑顔を返して、静かに試着室にはいった。
だめだ......。もうバックにしまえない。恥ずかしさを我慢して猫になるしかない......。
──この日わたしは猫になった。
◆◇◆◇
メリィちゃんの案内で一緒に食事にいくためにマリーメリィ商会をでた。
マリーちゃんとは手を繋いでいる。
気に入られたのかな?
可愛いし、いい子そうだから嬉しいけどね。
「あそこが私オススメのお店ニャ! 隣が宿屋になってるから飲みすぎても安心な点が素晴らしいとこニャ!」
そう言うと、メリィちゃんは得意満面な笑みを浮かべた。
まだ少し距離があるのに、お店の外まで美味しそうなニオイが漂ってくる。お店の外観は木造でオシャレな居酒屋みたいなかんじだ。
いいお店を紹介してもらえた。
メリィちゃんに感謝だね!
お店の近くまでくると、入口には木材のスタンド式の看板があった。
提供している料理が書いてあるのかな?
【 キャットフード 】
目を擦ってもう一度よく見てみる。
やっぱりキャットフードって書いてある。
「いつまでも眺めてないで早くいくニャ!」
「ん。チカはやくいこ」
「えっ!? でもここって......」
二人に手を引っ張られながら中に入ると、お店の中はたくさんのお客さんで賑わっていた。
〈ぷっ! おいあれ見てみろよ。なんか一匹増えてるぞ。〉
私のことを言われた気がする。
気にしすぎかな?
確かにこの街にきてから私の世界の服を着ていたのは、メリィちゃんとマリーちゃんだけだった。でも王都で流行っていて大人気なら、猫もたくさんいるはずだよね。
この街も流行りがくればすぐに猫だらけだ。
私が目立つこともなくなるはずだ。
それにあまりに視線が気になるようなら王都にいくなり、別の街にいって猫耳パーカーを脱げばいいだけの話だ。
「いらっしゃいませ! あっメリィちゃんじゃない。いつものセットを3つでいいのー?」
「それでお願いするニャ! 私もうお腹がペコペコニャ!」
「ふふっ! はいはい。すぐ持っていくから席に座って待っててね」
猫缶じゃないよね?
信じてるからね?
席に案内されて、おしゃべりをしながら少し待っていると、美味しそうな料理が運ばれてきた。
「おまたせー♪ ゆっくりしていってね。」
「ありがとニャ! さあ食べるニャ!」
美味しそうな肉料理とスープのセット。
あと形は違うけどフランスパンぐらいの硬さのパンもついてた。
料理の味もとても美味しい。
メリィちゃんにキャットフードについて聞いたら、お店の名前だった。
──まぎらわしいんだよっ!!
「そういえば、チカはしばらくこの街に住むニャ? 冒険者にはなるのかニャ?」
「田舎から来たばかりでよく分からなくて。その冒険者って?」
「ん。いろいろなところで魔物を倒してお金をもらう仕事。」
「マリー! それじゃ分からないニャ! 冒険者っていうのはギルドで加入していろんな場所で依頼を達成して報酬をもらう仕事ニャ!」
「ん! 私もそう言った。」
「全然違うにゃ!」
「だいたい同じ。」
ギルドかあ。ゲームでもあったなあ。
学生の頃にはまっていた頃は眠気と戦いながら遊んでたっけ。
「ねえ冒険者って誰でもなれるの?」
「犯罪歴がなければ加入は誰でもできるニャ!でもチカの天職によっては冒険者はやめたほうがいいニャ。あぶないニャ。」
──天職?あっ、職業のことかな?
「うん。わたしは魔導。冒険者向き。」
「じゃあ私は向いてないかな。」
だって私の職業の欄は迷子だ。
なにも書かれてない。
それとも生粋のニート?
いつか目覚めてくれることを祈るしかない。
でもお金の問題があるんだよね。
今度ギルドにはいってみようかな?
「そういえば勇者様の天職は、勇者なのかな?」
「分からないニャ! でも昔の文献に載ってるかもしれないニャー。興味があるなら古代書庫に行ってみるといいニャ! あそこは色々な本があるニャ」
「んっ。空欄って噂もある」
「それは噂ニャ! 空欄なんてありえないニャ。生まれた時に天職は決まってるニャ」
勇者様も大変だ。
召喚されたらニートだった。
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