宿屋の部屋のベットに座る。
アージェさんの事を考えて大きく溜息がでる。
なんとかアージェさんの誤解を解きたい。
けどまた質問攻めに合うのはもっと困る。
「ちかさん?溜息なんてついてどうしたんですか?なにかお悩みがあるのでしたら私が聞きますよ?」
「ありがと。ちょっと疲れただけだから気にしないで大丈夫だよ。」
「それならいいのですが...。」
アージェさんは心配そうな顔でまるで恋人にむけるような熱のこもった視線で私を見つめる。
思わず天井を見上げる。
DQNマスターにいいように扇動された理由がよく分かったよ。
アージェさんは悪い人じゃないんだけど、思い込みが強いんだ。
こういうタイプは扱いが難しいから苦手なんだよなあー...。
「ん?」
強い視線を感じてアージェさんの方を振り向く。
隣のベットに座りながら、満面の笑みを浮かべて私をジッーと見つめている。
「な、なに?」
「あっ。いえ!チカさんと同じ部屋に泊まれることがあまりに嬉しくて。」
アージェさんは頬を赤らめながら恥ずかしそうに視線を落とす。
ひっ...!
私の身体があぶない!!
いつでも逃げられるようにベットから慌てて立ち上がる。
アージェさんは不思議そうに首を傾《かし》げながら私を見上げる。
「えーと...。アージェさんごめんね。私にそういう趣味はないから、期待には答えられないよ。」
「ち、ちがいます!!誤解です!!そういう意味じゃないですよ!」
アージェさんは顔を真っ赤にして、慌てた様子で両手を軽く上げて左右に激しく振る。
本当かな~?
すごく怪しいんだけど。
アージェさんは大きく深呼吸をしてから私に視線を戻す。
「チカさんは私の憧れなんです...。今回の依頼もチカさんが参加すると分かって受注しました。」
なるほど。
だからこんなに簡単な依頼にアージェさんがいたのか。
ランクダウンしたとはいえBランクかCランクのはずだもんね。
「ん?でもなんで私が参加するってわかったの?」
「それは受付のメアリーさんに聞き出しました。」
この世界にプライバシーはないのだろうか...。
あとでメアリーさんとはお話をしないといけないね。
「だからもっとチカさんの事を知りたいんです。どうやってあんな強さを身につけたんですか?」
「えっと...。」
「私の命をかけて誓います。絶対に誰にも言いません。お願いします...。」
アージェさんは真剣な表情で深々と頭を下げる。
いやいや!
命はかけないでほしい。
ブリュナークや加護のことは命に関わるから言えないけど、強くなった経緯なら問題ないはずだ。
最悪、私が頭おかしい子ってアージェさんに思われる程度だしね。
「チカさん。やっぱりお答えいただけないでしょうか...?」
アージェさんは顔を上げる。
今にも泣きだしそうな表情で私を見つめる。
はあ...。
それは卑怯だよ。
もう!しょうがないなぁ~...。
「話してもいいけど信じてもらえないかもしれないよ?」
「大丈夫です。私はチカさんを信じます。」
「じゃあ話すけど私は別の世界からきたんだよ。」
「別の世界?別の大陸って意味ですか?」
「ううん。ここ世界じゃない全く別の世界だよ。」
「そんな...。それじゃまるで...。ゆう..」
アージェさんは驚いた表情で小さくボソボソ呟いて固まる。
なんて言ってるかまでは聞き取れない。
「その世界で一緒にいた憧れの人に少しでも追いつきたくて、たくさん魔物と戦ってた時期があったんだよ。」
「そうだったんですね...。」
アージェさんは視線を落として考え込んでいる。
ふと窓の外を見る。
いつの間にか夕陽が沈みかけて暗くなってきている。
あとはアージェさん次第かな。
私は妖精祭に行かないとね!
「じゃあ私は妖精祭を見に広場にいってくるね!」
「あっはい。私はもう少ししてから広場に行きますね。ありがとございました。」
「うん!じゃあまたあとでね。」
部屋をでて真っ直ぐ広場に向かった。
広場が近くなってくると、遠目から広場の中央付近に大きな炎が見えてきた。
その炎を囲うように屋台が並んでいる。
たくさんの人達が広場に集まっていて、とても賑やかだ。
妖精祭にきてよかった。
元の世界のお祭りみたいで凄く楽しそう!
さっそく広場にある屋台に並ぶ。
フランクフルトのような形をした美味しそうなお肉と果物が売られている。
ここで食べないって選択肢はないので、両方とも買うことにした。
落ち着いて食べられるところを探すために辺りを見渡す。
少し離れたところにちょうどいい岩を見つけたのでそこに腰掛けた。
キャンプファイヤーの炎も見える最高の場所だ。
美味しい食事を食べながら広場の様子を眺めているとキャンプファイヤーの近くに小さめのテーブルがあることに気がつく。
よく見てみるとテーブルの上に小さな木造りの箱が置かれている。
「おっ嬢ちゃん!来てくれたのか!」
声がした方に振り返る。
昼間の感じのいいおじさんだ。
上半身裸で祭りの男みたいになってる。
「おじさん。きたよおー!」
「よくきたな!楽しんでるか?」
「うん!凄く賑やかだね。」
「当たり前よ!この村で年に一回しかない妖精祭だからな!妖精様に喜んでもらうためにも派手にやらねえとな!」
「おじさん昼間もそう言ってたけど、妖精さんは来ないんでしょ?」
「何言ってんだ?妖精様は毎年くるぞ?」
「えっ!くるの?」
「あそこを見てみな。」
おじさんはキャンプファイヤーの近くにある小さめのテーブルと木箱を指差す。
「あの木箱には嬢ちゃんがいま食べている果物がたくさん入っているんだ。」
「そうなんだ。」
「あれを妖精様は毎年食べていくのさ!」
「おー!じゃあ妖精さんに逢えるんだね!」
「いや会えないぞ。」
「えっ?」
「誰も姿が見えないからな。もし姿が見えるなら会えるだろうがな?ガッハハハッ!!」
おじさんは口を大きく開けて大笑いしながら腕を組む。
なんだ結局逢えないのかあ。
期待しちゃったじゃん。
上げて落とされた気分だよ。
「大昔に一度だけ村人が妖精様の姿を見たことはあるらしいけどな!」
「そうなんだ?いいなぁ~...。」
「なんでも村が飢饉《ききん》で苦しんでいるときに、村人が村のすぐ裏にある森で食べられる物を探してたら妖精様に出会ったそうだ。」
「おー!それでどうなったの?」
「村が飢饉《ききん》で苦しんでいる事を知ると、不思議な力を使って村の植物を成長させて助けてくれたんだとさ。」
「へー!妖精さんってやっぱり小さくて可愛らしい感じなのかな?」
「どうなんだろうな?まるで女神様のような綺麗なお姿で、慈愛に満ちた優しい笑顔だったって村の伝承に残っているな。」
「私もいつか出逢ってみたいなあ。」
「ガッハハハ!そりゃ俺もだ!さてと俺は妖精祭の仕事があるからもういくぞ!嬢ちゃんゆっくり楽しんでくれ!」
「ありがと!頑張ってね!」
おじさんは私の肩を軽く叩き、広場の中央にあるテーブルと木箱が置いてある場所に向かってゆっくり歩いていった。
これから何するんだろ?
面白そうだし、ちょっとだけ見てようかな。
しばらくすると大人達がしゃがみ込んで祈りを捧げ始めた。
その大人達の周りをヒラヒラした可愛らしい衣装をきた子供達が踊っている。
小さい子供の演劇会を見ているみたいで、ほっこりとした気持ちになってくる。
「ん...?あれはなに?」
木箱からまるで蛍の光のようなものが出ていくのが見えた。
その淡い光は点滅を繰り返しながら徐々に広場から離れていく。
「ま、まさか!!妖精さん!?」
急いで立ち上がって淡い光を追いかける。
淡《あわ》い光はゆらゆらと空中を漂いながら、村の中に生えている一本の木の枝に止まった。
ドキドキしながらゆっくりと木に近づく。
はわわっ!!
本当に妖精さんだ。
妖精さんは肩ぐらいまでの長さの緑色のかわいいウェーブヘアーで、透き通るように綺麗な緑色のヒラヒラした服を着ている。
淡い光を発しながら木の枝に腰掛けている妖精さんが、凄く神秘的で思わず妖精さんに見惚《みと》れていた。
ーー次の瞬間。
クリっとした可愛らしい瞳と目が合った。
透き通った綺麗な声が辺りに響き渡る。
「チビ人間!何をずっと見ているの?やめてほしいの!」
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