気づいたら辺り一面真っ白な空間にいた。
突然のことに驚き、慌てて周囲を確認すると頭上に旗のように長い紙みたいなのが浮いていることに気がついた。
「なにあれ? どうやって浮いてるの? ん? よく見るとなにか書いてあるような。えーと……」
『おめでとう! ようこそ新しい世界へ!(笑)』
「……えっ? なにこれ? すごく悪意を感じるんだけど。ここは一体どこなの?」
私は山川知佳22歳。両親と4つ下の妹の舞との4人家族だ。身長は小柄でよく高校生に間違われる。ホント失礼だよね?
大学をでて就職も決まったので、少し前から1人暮らしを始めた。社会にでるのは不安だけどいい出会いもあるかもしれないし、凄く楽しみだ!
全て順風満帆! のはずだったのに……。
◆◇◆◇
「たしかさっきまで部屋でスマホを見ながら横になっていたはずなんだけど……」
いつのまにか寝ちゃったのかな? それにしても面白い夢だなぁ。
「はじめまして! 私は女神ミリアーヌよ!」
「ひゃっ!?」
突然、背後から女性の声が聞こえてきたことに驚き、おもわず変な声が口から漏れる。
振り返ると、20歳前後の金色の髪をした女性が満面の笑みで私を見つめていた。
えっ、さっきまでそこにいなかったよね? それも貴族みたいな名前を名乗って、自分を女神って……。あー。あれかな? ちょっと残念な人なのかな?
「山川知佳ちゃん! あなたにはこれから私の世界に来てもらおうと思ってるの。たくさんの人たちの中からあなたは選ばれたのよ?おめでとうー!!」
そう言うと、金髪の自称女神様はニコニコしながら両手を上げて、私に拍手を送ってきた。
状況がまったく理解できない……。選ばれたってなに? 私もしかして死んじゃったの?
私の脳裏に次々に疑問と不安が湧いてくる。最悪な状況を想像しながら、意を決して恐る恐る口を開いた。
「はじめまして。えっと、部屋で何かが起こって私は死んじゃった。ってことですか……?」
「死んでないわよ? さっき言ったじゃない。選ばれたの! ほら最近下界のアニメとかで異世界転生とか転移とかっていうのが流行ってるみたいじゃない? それをみていた私たちのいる天界でもブームになっててね! 面白そうだし実際におくっちゃおっかーってことになったの!」
ミリアーヌさんは説明しながらニッコリ微笑んで楽しそうにしてる。
思ってたより最悪な状況だった。っていうか、全部あんたのせいじゃん! 勝手に私を選ばないでよっ!!
「あら? あんまりチカちゃん嬉しくなさそう? 大好きでしょ異世界! 未知の冒険があなたをまってるのよ?」
わかった。やっぱりこれ夢だ。明晰夢ってやつ? もう考えるのはやめよう。
そんなことより早く起きて冷蔵庫で冷やしておいたプリンを食べないと。就職祝いにと思ってすこし高いの買っちゃたから楽しみにしてたんだよねー。
私は夢から目覚めようと、目を閉じながら腕を強めにつねってみた。
「いたたっ!! で、でもこれで起きれたかな?」
私がゆっくりと目を開けると、自称女神様が『おめでとう!ようこそ新しい世界へ!(笑)』と書かれた紙を手に持ちながら、ニコニコした笑顔で私を見つめていた。
◆◇◆◇
「ミリアーヌさん。私は異世界とかに興味がないので帰ることはできませんか?」
「それは無理ね! ちかちゃんの世界からこの空間に呼ぶことはできても戻すことはできないの! 残念でした♪」
「残念でした♪ っじゃないよッ!!」
もしこれが夢じゃないのなら最悪だ。この自称女神様の言ってることが事実なら、私はもう二度と帰れないし家族にも会えないってことだ。
「あはは! そんな悲しそうな顔しないで? これからいってもらう世界にも人間はいるから。それにそれだけじゃないの!」
「それだけじゃない?」
「なんとっ! 獣人や妖精とかもいるのよ。それに魔法やスキルとかも存在するファンタジーな世界ってわけ!」
なんかゲームみたい。学生の頃にはまってたVR MMO RPGを思いだすなぁ。本当に戻れないなら不本意だけど、もうプラス思考で考えていくしかないのかな……。でも家族のことだけ心配だなー。急に私がいなくなってきっと心配してるよね……。
「あっ! あと魔物や魔王なんかもいるわね! でも安心して? あっちの世界の住人が召喚した勇者がいるから!」
「それなら安心だね! でも勇者がいるなら私はなんのために呼ばれたの?」
「それはね……」
ミリアーヌさんは急に真面目な表情で私を見つめる。私はミリアーヌさんのあまりの変化に戸惑いながら、思わず唾を飲み込んだ。
「……見てて面白くないのよね。ほら、私が召喚させたわけじゃないし。感情移入できないみたいな?」
「えっ……?」
「まぁ、私の管理する世界はだいたいこんな感じね! 詳しいことは実際にチカちゃん自身で新しい世界を楽しみながらゆっくり確認した方がいいと思うの!」
「 そうかもね……」
あんなくだらない理由で、突然こんなとこに連れてこられて、異世界を楽しんで! なんて言われても楽しめるわけないじゃん!!
「私もそれをみて楽しみたいし……」
「……グーパンチしていいですか?」
「きゃーっ!! チカちゃんって意外に攻撃的? そういうのよくないわよ~?」
ついイラッとして口にでちゃった。しょうがないよね? 楽しみたいが絶対本音だよ!
「あはは!! そう怒らないで? そうだ、チカちゃんのために加護をあげちゃう! 特別なものなのよ? 不安でビクビクしてるチカちゃんもこれで安心して旅立てるってわけ!」
ん? あれ? 私いま不安なんて口にだしたっけ。いやだしてないよね? 表情にでちゃってたのかな。
私が困惑しながら考え込んでいると、ミリアーヌさんが私の肩をポンポンと叩く。
「え、なに? 急にどうしたの?」
「だしてないわよ? ふふふっ! このミリアーヌ様に隠しごとなんてできるわけないじゃない!」
そう言うと、ミリアーヌさんは得意げな表情で胸を張った。
「えっ。じゃあ私が今まで考えてたこと全部ミリアーヌさんに伝わってたってこと?」
「あはは!感情から考えてたことまで、ぜ~んぶだだ漏れってわけ! あっ、あと加護についてはあっちの世界についたら『ステータス』って言えば詳しい内容が分かるようになっているわ」
私のプライバシーはどこですか? この駄女神ひどすぎるよ!!
「駄女神じゃないでしょ? ミリアーヌさんと呼びなさい! 駄女神なんて呼んでるとついうっかり、こわーい魔物さんがたくさんいるところに送っちゃうかもしれないわよ?」
「うわわっ!! やめてよ! そんなことされたらすぐ死んじゃうじゃん!!」
勝手に呼んどいて、この駄女神はなんて理不尽で恐ろしいことを言うんだ。こわいよこの駄女神!
「もう!女神に向かって失礼な子ね。くじ引きで適当にチカちゃんを呼んじゃったのは悪かったけど、私は慈愛に満ちた女神なのよ?」
「え?」
くじ引きだったの? たくさんの人から選ばれたってそういうこと? やっぱり駄女神じゃないか!! 誰が聞いたって絶対そう言うよ!
「チカちゃーん??」
ミリアーヌさんにガシッ!と両肩を捕まれる。
笑顔だけど目が笑ってないから、怖いんだよミリアーヌさんのその笑顔。
「ごめんなさい……」
「もうっ! じゃあそろそろ私の世界に送っちゃうわね!」
突然目の前が激しい光に包まれた。
私は思わず目を閉じた。
「あっチカちゃんが楽しみしてたプリンはもったいないから私が食べといてあげますっ! だから安心してね♪」
「ああああああっ!! ずっと楽しみにしてたのにーッ!!」
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