私達は朝食を食べながら昨晩の出来事について話を聞くことにした。
もちろん私の憤りはまだ治まってなんかいない。だって、もうひとりの自分からの初めての言葉が『犬見つけました』だよ......?
そんなの見れば分かるよ!! もっと別に書くことあったでしょ!?
チカは内心でもうひとりの自分への不快感を募らせながら、怯えた表情で立ち並ぶ首輪をつけた集団に視線を向けた。
さてと.....。もうひとりの自分のことは置いといて、そろそろ現実と向き合うかな.....。
チカは怖がらせないようになるべく優しい口調で彼等に話しかけた。
「貴方達の中で一番偉い人はだれ?」
「俺だ」
そう言って、隻眼の男はゆっくりと一歩前に足を進めた。額には汗が滲んでいる。
「貴方達はエルザさんと同じ黄昏のメンバーってことでいいのかな?」
「あぁ。その通りだ。俺たち黄昏は伯爵家からの依頼を受けて、兵士として公爵家に潜入していた。エルザもそのうちのひとりだ」
「なるほどね......。じゃあもう一つ。昨日の夜なにがあったのか私達に教えてもらえるかな?」
「意味がわからん。張本人のお前が誰よりも詳しいはずだろ?」
「ま、まあそうなんだけどね。ちょっと深~い事情があって、私はなにも覚えてないんだよね......」
「なっ!? あ、あれだけの事をしておいて何も覚えていないだと!?」
──ぐうの音もでない。この人達からしてみれば自分達に奴隷の首輪をつけた張本人だもんね......。
隻眼の男はひどく動揺した表情を浮かべながら、昨晩の出来事についてゆっくりと語りだした。
公爵家への襲撃。そして燦々たる公爵家の惨状......。
話を聞いていたチカの顔色はみるみるうちに青ざめていく。
隻眼の男の話が終わり、食堂が静寂に包まれる中。チカは紅茶の入ったカップを口元に運び、軽く頷くと、シィーの方へ顔を向けてニッコリと微笑んだ。
「シィー。妖精の里への扉を」
メリィは慌てた様子で椅子から立ち上がった。
「なに平然と逃げようとしてるのニャっ!?」
「だって無理だよ!! 公爵家だよ!? 絶対捕まるよ!?」
「今チカに逃げられたら、残された私達はどうすればいいのニャ!!」
「......一緒にくる?」
「だめニャっ!! 絶対にいかせないニャアアアアアッ!!」
「いやあああああっ!! メリィちゃん離してっ!! 今すぐ逃げないと手遅れになるからっ!!」
メリィとチカの叫び声が食堂に響き渡る中、食堂の扉が勢いよく開かれた。
「チカ様っ!! ハ、ハート女王陛下と勇者様がお見えになられました!!」
「ぎゃあああああっ!! シィー!! 早く扉を開けてっ!!」
「マリー!! 見てないで早く手伝うのニャアアアアッ!!」
二人の攻防を眺めながら、シィーとマリーはお互いの顔を見合わせると、呆れた顔で大きな溜息をついた。
◆◇◆◇
逃げることに失敗した私は、屋敷の食堂でハート様達と向かい合っていた。
ハート様は紅茶の入ったカップをゆっくりと口元に運ぶと、微笑みかけながら私の方を見つめた。
「ふふっ、突然の訪問でどうやら驚かせてしまったようですね」
「いえ......」
「いやー。逃げだそうとしてただけだと思いますよ?」
余計なことを言いだす遊者マサキ。
「ふふっ、マサキ様。憶測でそんなこと言ってはいけませんよ?」
「すいません......」
「さて今日来たのは他でもありません。昨晩のことです」
そう言って、ハート様は護衛の兵士へ視線を送った。視線を受けて護衛の兵士は精悍な顔つきで敬礼を返した。
「はっ! 報告致します! 昨晩未明、王都の複数の場所が何者かによる襲撃を受けました!」
──えっ......? 複数......?
「1つ目は伯爵邸。2つ目は公爵邸。3つ目は王都郊外にある今は使われていない廃墟の屋敷です!!」
黄昏のメンバーの肩がピクッと震える。兵士はさらに続けた。
「公爵邸は損傷はありましたが死者はなし。しかし残りの二箇所は完全に消失。死者の数は調査中です!!」
「なっ!?」
隻眼の男は驚きの声を上げた。よく見ると他の黄昏のメンバーも顔を青くしている。
「尚、公爵邸にて黒い猫の服を着た少女の目撃情報が多数確認されております!!」
はい。終わったー。そりゃそうだよ。公爵邸に死者がいないんだもん。こんな特徴的な服装、一度見たら忘れるわけがないよ......。
私がどんよりした気持ちでうつむいていると、メリィちゃんが私の耳元でこっそりと囁いた。
「お勤め頑張ってニャ......。たくさん差し入れ持っていくからニャ......」
「メリィちゃん!?」
慌てふためく私達の様子を見て、ハート様は手を口元に添えて軽く肩を揺らした。
「ふふっ、先に伝えておけばよかったですね。私はチカを処罰するつもりで来たわけではありませんよ?」
「えっ? 本当に?」
「えぇ。そもそも元を辿ればこちら側が招いたこと。それに公爵家からの証言で、伯爵家がチカの暗殺を企てていたことも分かっております」
さすがハート様だ。ちゃんと調べてくれたみたい。逃げださなくてホントよかった。
「チカに怪我もないようで安心しました。あまり無茶はしないで下さいね。いつでも私を頼ってくれて構わないのですよ?」
ハート様はそう言うと、私を見つめながらニッコリと微笑んだ。
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