【「異世界恋愛小説コンテスト」奨励賞受賞!】娼婦に婚約者の第二王子を奪われ、すべてを失った令嬢は、復讐のため第一王子と結婚して王妃になる。

林 真帆
林 真帆

第二章

没落

公開日時: 2021年8月27日(金) 15:56
更新日時: 2022年10月20日(木) 23:52
文字数:974

 エリスとエドワードの婚約が破棄されたという一報は、瞬く間に広がった。しかも、その原因となったのが『娼婦』ということで、人々の好奇心が殊更掻き立てられる要因となった。


 当事者のエリスはもちろんだが、ステュアート家全体が好奇の目に晒された。


 エリスは、家族とどのような顔をして接すればよいのかわからず、引きこもりがちになり、家族もエリスをどう扱っていいのかわからずにいた。


 エリスが引きこもっている間、ステュアート家は、危機に瀕していた。




 エリスの父であるステュアート伯爵は、エリスとエドワードの婚約を機に、事業の拡大に着手した。娘が皇太子と婚約、将来は国王の祖父となるステュアート伯爵に対し、誰もが喜んで出資した。ステュアート伯爵が何も言わなくても、向こうから出資の申し出をしてくるほどだった。担保はもちろん、王家とのコネクションである。


 そのコネクションが突如としてなくなった。ステュアート伯爵に担保としての価値はなくなったのである。


 そのため、出資者たちは一気に手のひらを返した。ステュアート伯爵に一斉に返済を求めたのである。


 もともとステュアート家は裕福であったが、桁が違った。ステュアート家の全財産を処分しても返済できるかわからない。


 そんな時、ステュアート家の負債を一手に引き受けようという者が現れた――マクレーン子爵、いや、マクレーン伯爵である。




 マクレーン伯爵の条件はこうだった。ステュアート家が持つ領地の内、一番辺境にあるものを除き、すべてマクレーン伯爵に譲り渡すこと。そして、その中には現在、エリスたちが住んでいる屋敷も含まれていた。


 他に返済の手立ての無いステュアート伯爵は、マクレーン伯爵の申し出を受け入れざるを得なかった。


 マクレーン伯爵夫妻は、残された辺境の土地に移り住むことになり、エリスと妹のシャーロットは、それぞれ別の遠方にある修道院に入ることになった。




 明日、エリスは修道院に向けて旅立つ予定であった。


 エリスが最後の荷造りをしているとき、ドアがノックされ、侍女のメアリーが入ってきた。


「エリス様、失礼いたします。ハーバート侯爵夫人がエリス様にお会いしたいとのことです」


「ハーバート侯爵夫人が……? 何のご用かしら」


「ハーバート侯爵家よりお迎えの馬車が来ていますので、今すぐ行かれた方がいいかと……」


「そうね。お待たせするわけにはいかないわね」

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