【「異世界恋愛小説コンテスト」奨励賞受賞!】娼婦に婚約者の第二王子を奪われ、すべてを失った令嬢は、復讐のため第一王子と結婚して王妃になる。

林 真帆
林 真帆

ルードヴィッヒの正体

公開日時: 2022年10月17日(月) 19:03
更新日時: 2022年10月21日(金) 00:00
文字数:773

「エリス、君はスチュワート家のご令嬢だね」


 ――そこまで知られていたなんて……!


 テーブルの下で、両のこぶしがガタガタと震えた。


 本名を知られてしまったからには、婚約破棄をされた経緯も当然知られてしまっているだろう。


 そんなみっともないことを、ルードヴィッヒには知られたくなかった。


 ――どうしたらいい……?


 エリスは沈黙を守り、様子を見ることに徹した。





「……君の素性ばかりに言及するのは公平ではない。俺のことも話そう」


 いきなり話題が予想外の方向に変わった。


「うちの家名はアインホルンという」


「アインホルン……!」


 エリスは絶句した。


 絶句するのも無理のないことであった。


 アインホルン家は、この世界で最も名高い王族である――そして最も広大かつ偉大な王国、アインホルン王国を統治する一族である。


 王族らしいとは薄々感じてはいたが、まさかアインホルン家の一員だったとは。


「殿下……! 知らなかったこととはいえ、非礼の数々、誠に申し訳ございません!」


 エリスは慌てて立ち上がり、深々と頭を下げた。


 自国においては名門と言われるスチュワート家であったが、アインホルン家に比べればはるかに格下であった。公の場であれば、会話をする機会すら与えられない。それほどアインホルン家は圧倒的であった。





「頭を上げてくれ。君にそんなことをさせるために名乗ったわけじゃない。それに……今はもう〈殿下〉じゃないんだ」


「……?」


 エリスは、ルードヴィッヒの言っていることが理解できなかった――いや、いくつかの可能性に思い当たったのだが、そのうちの一つは、あまりに突飛すぎた。


「その……先日、父が退位した」


「お父様が退位……? もしかして……えっ?」


「即位の儀式は学校を卒業してからだが、こっちでできることは可能な限りやっている」


「先輩が国王陛下……ということでしょうか……?」


「そういうことになるな……」 

読み終わったら、ポイントを付けましょう!

ツイート