メイン会場はまだ盛り上がっているけれど、私は一人、会場の外に出る。
今日の仕事は終わりだ。
せっかくだから隣のエリアへと行ってみよう。
ここではお祭りのついでに、デミセなる物が開かれている。
昔の地球では、何かおめでたいことがあると、広場にいくつもの仮設店舗を設置して、お菓子やオモチャを売っていたらしい。
適当に店を見て回っていると、ジャージを着てエプロンをつけた少年に声を掛けられた。ラキンだ。
「クルミアさんも来ていたんですか! もう決闘の方は終わったんですか?」
「まあね。ラキンは行かなかったの?」
「ええ。ちょっとやる事があったので」
「そっか……まあ、どこかで動画で見れるようになってると思う」
「そうですか。結果はどうなりました?」
「いろいろあったけど、一応ヨーランが勝ったよ。……ところで、あんた、私服とかないの?」
なんでお祭りにまでジャージで来るんだ?
「そりゃ、ありますよ。けど、今日は半分仕事ですから」
「仕事?」
こんな所にいて、完全に遊んでるように見えるけど、今は休憩時間なのだろうか?
ラキンはデミセが並ぶ道を指さす。
「向こうの公園エリアですよ。あの奥で、植物に興味がありそうな人に解説をしたり……あと園芸店の屋台も出してます」
「へぇ。せっかくだから、そっちも見ていこうかな」
私とラキンは連れだってデミセの通路を歩く。
最初に目についたのは、色とりどりのヌイグルミが売られている店だった。
全部ヒヨコ?
「なんだろ……カラフルヒヨコのぬいぐるみ。へー、かわいい」
「そ、そうですね」
ラキンの表情が微妙にひきつっている。
なんだ? このぬいぐるみ、何かいわくのある商品なんだろうか?
まあいいや。一個買っちゃお。
「よう、お嬢。タコ焼き食べるか?」
ザストが露店の店員をやっていた。
「一ついくら?」
「300万クレジットだ」
「え? 高くない?」
並んでる他の店と比較して、相場の一万倍ぐらいの値段だ。
「冗談だよ。300クレジットだ」
「はいはい。それ、何が面白いの?」
「俺にもわからん。だが、マニュアルによると、タコ焼きを売る時はこうやって売るものらしい」
「そうなんだ……」
これも地球由来文化なんだろうか?
出てきたのは、紙のお皿に乗った、丸い球体のような食べ物が六個。
もちもちした衣の中に……なんか入っている。
「はふ……これは何?」
「タコの足だ」
「……」
タコ。海の悪魔とか言う、あれか。
「どうだ? これ、流行ると思うか?」
「微妙ね……」
ザストに少しわくわくしたような顔で聞かれ、私はそう答える。
選択肢の中に、あってもいいし、なくてもいい……ぐらいの感じか。
「この前の、エビの話で思いついたんだが、魚の養殖場を作ってみたくないか?」
「養殖場?」
「大きな空間を水で満たして、そこで魚を育てるんだ。実は前から、一度やってみたくてな……。第二惑星の地下がいいと思っているんだが……」
なるほど。
今後需要が高まる可能性を考えると、悪いアイディアではない。
そのアピールも兼ねて、今タコを出して来たのかな?
まあ、反対する理由はないか。
「私はアリだと思う。後で計画書を見せて」
「ああ。楽しみにしてな」
「……ティブリスさん。こっちもどうですか。イカ焼きですよ」
隣を見ると、そっちの店はポラヴァルがやっていた。
「イカ焼き? イカもあるの?」
タコとイカは、足がたくさんあるとか墨を吐くとか共通点が多くて、セットで扱われる印象がある。
タコ焼きと似たような料理かな? と思って見ると、そこには串に刺されたイカの丸焼きが並んでいた。
どういうことなの?
***
デミセの並びを抜けた先は、ちょっとした広さの吹き抜けのホールになっている。
お祭りが終わったら、仮設した物は全部片づけるつもりだけど、この辺りだけは公園のような感じで残しておくつもりだ。
吹き抜けの中央には、ガラスで隔てられた円筒形の囲いが作られている。
囲いの中は土が敷かれ、いろいろな植物が植えてある。
ここは、私が管理している「花壇」とは違って、地面に直接植えるようになっている。基本的に植物の入れ替えをしない構成だ。
囲いの中央は少し空間が開けられていて、小さな苗がいくつか植えられていた。
梅の苗だ。
ラキンが言う。
「今は、まだこんな感じですよ」
「そっか」
なんていうか、ヨーランたちへのささやかな歓迎の意とでも思ってもらえればいいかな、ぐらいの気持ちで作らせてみた。
お祭りに間に合わないことはわかってたんだけど……始めるのを後回しにしたら、完成もその分遅れるからね。
「言われてから、できるだけ急いでやったつもりですけど……ちゃんと花が咲くまでに2、3年はかかると思いますよ」
「でしょうね」
私だって、一か月でどうにかできるなんて思ってない。
いい仕事には、長い時間がかかるものだ。
近くにはマルスド園芸店の出店もある。
サボテンなどの鉢植えを並べて、集まった人々に売っていた。
「実は、お祭りが終わったら、この近くにマルスド園芸店の支店を出す計画なんです」
「いいわね」
植物好き、増えるといいなぁ。
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7月1週 ナニモ74の開発が始まる
7月2週 婚約破棄(卒業式の直前、学園は9月始業と仮定)
8月2週 ナニモ74到着(婚約破棄から一か月)
8月3週 3話(一週間後)
9月1週 4話前半(二週間後)
不明 ホランド到着(いつ?)
10月2週 本部ステーション完成(3話の二か月後)
10月3週 アレクシア襲来
11月1週 マルスド園芸店到着
11月3週 リブルーが来る
12月1週 メナストが来る
12月3週 農業ステーション1から3が完成、移民受け入れ開始
12月4週 たぶんこの頃にネズミ……
01月4週 皇帝クエスト審査
03月1週 ネズミ事件(三か月後)
03月2週 農業ステーション01、清掃完了
03月3週 45話がこのあたり
04月1週 47話 アレクシアと話す
04月2週 48話 工業ステーションへ行く
04月4週 49話 ポラヴァル到着(48の二週間後)
05月1週 52話 ドロイド(49の一週間後)
05月3週 53話 チェン傭兵団到着(二週間ぐらい)
05月4週 56から58話
06月1週 59話 (第四惑星、調査開始)
07月3週 祭り
07月4週 皇帝クエスト審査
(あとがき)
謎の真っ白な空間。
私の前に現れたのは、歩くギリシャ神話のコスプレだ。
「違います。コスプレではありません。私は本当に恋愛小説の女神なのです」
「そっか……」
こんな所で何してるんだろう。
暇な女神もいたもんだ。
「さて、クルミア・ティブリス。今回は……特に話題は用意されてませんね」
「なんで?」
「……章の区切りだからでは?」
「まあいいけど……それより、この年表、何?」
「見ての通りですよ」
一話からおよそ一年が経過していて、それのまとめ?
「作者が言うには「適当に「一か月後」とか書いてたから、足し算したら大変なことになってたらどうしようって不安だったけど、意外と大丈夫で安心した」だそうです」
「それ、大丈夫って言わないよ?」
普通は最初からちゃんと管理するよね?
「セントラルスクールが9月始業とか。初めて言及された設定では?」
「……」
設定とか言うな。
「これ、なんか一年分あるんだけど」
「ありますね」
「前の半分は、35話の直後の閑話に乗せた方がよかったよね?」
「それなんですけどね……」
恋愛小説の女神はため息交じりに言う。
「作者が、うっかり忘れていたらしいですよ」
……ばかなの?
「あのさ、今、祭りの会場でこれまでの星系開発の経緯を発表してるよね?」
「そうですね」
「それがこっちにも表示されてるって体にすれば、ごまかせたんじゃない?」
「……あっ!」
あっ、じゃないよ。
迂闊な女神もいたもんだ。
「それで、次回から第三部が始まるんだっけ?」
私が聞くと、恋愛小説の女神は、影のある笑みを浮かべる。
「……普通、そう思いますよね?」
「あれっ?」
始まらないの?
「もちろんあります、第三部。予定では、来週の金曜日からのはずです」
「じゃあ、次回は?」
「実は、2-3は、あと一話、残ってるんですよ」
「なんで? さっき章の区切りって言ったじゃん!」
……ばかなの?
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