悪役令嬢でもわかる宇宙領地経営

艦隊指揮スキルカンスト令嬢のFラン辺境開拓と領地経営
ソエイム・チョーク
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111 フィーリア姫とメリウス(前)

公開日時: 2021年12月3日(金) 12:15
文字数:4,043


 そして翌日。

 昨日は一等貴族のからお茶に誘われてしまった私だが……今日は別のお茶会に誘われている。

 その相手は、第四皇女、フィーリア・ナートルア。


 私とマルレーネは来客用の館から、車に乗って、皇族用の区画へと移動する。

 数十キロ四方のやたら巨大な宮殿と庭。徒歩で移動していたら時間がいくらあっても足りない。

 宮殿の地下には無数のトンネルが走っていて、そのいくつかは、自動運転の車に乗って移動できるようになっている。


「フィーリア様と会うのは、しばらくぶりですね」

「そうね。二年ぶりぐらいかな」

「……お嬢様、何か憂鬱そうですね?」

「そんなことはないと思うけど。強いて言うなら、ちょっと気まずいかな」


 私に婚約破棄をかましてくれたディフト。

 フィーリアはその実妹だ。

 気まずいというか、どんな顔で会えばいいのかわからない。

 でも、拒否するのもちょっとどうなのか。


 ディフトのことを抜きにしても、フィーリアとは仲良くしていた。

 だから会いたいという気持ちもある。

 六等貴族になった私が、皇族に会いたいなどと言えるわけがない。

 向こうから声を掛けてくれたなら、その機会を無碍にはできない。


 だからこそ、どんな顔で会えばいいのかわからないんだけどね。

 まあ、なるようにしかならないか。


「呼び出しのメールに、何の用なのか書いてなかったのが、ちょっと怖いかなぁ」

 お茶会は、本当なんだろうけど。


 サキア様とか居たらどうしよう?

 いや、どうする必要もないんだけど……。

 ディフトがいたら?

 それも気まずいなぁ。


 私が悩んでいると、マルレーネが励ますように言う。

「大丈夫です。何があっても私がお嬢様をお守りします」

「うーん」

 マルレーネの力ではどうにもならない気がする。

 今回は、特に何もないけどただ居心地が悪い、っていう状況になる確率が高い。


***


 皇族用のエリアに到着。

 エレベーターで上がれば、もう御所の内側だ。


 帝国一厳重とされるセキュリティーゲートを通って、係員に案内されて部屋へと通される。

 こんな所の案内にドロイドでなく人間を使うとは、本当、金があるな。


 通された部屋は、ホテルのロビーみたいな部屋だった。

 なんか高そうな絨毯、天井にはシャンデリア。

 壁際にはメイドたちが何人も控えている。


 部屋の中央にはテーブルがあって、既に二人の人間が席についていた。

 そのうちの一人、薄紫のドレスを来たショートカットの少女が席を立ち、こちらにやって来る。

「お姉さま。お久しぶりです」

「お久しぶりです。フィーリア様」

 私は貴族として完璧な挨拶を返す。


 フィーリア姫は、第四皇女。

 今の年齢、14歳だったかな。

 妙に意志の強い瞳を見ていると、なんか私が14歳だった頃よりしっかりしてるんじゃないかと思えてくる。

 それでいて、どことなく妹キャラっぽい感じを失っていない。

 こいつ、このまま大人になるのか? 末恐ろしい。


「それと私はもう、お姉さまと呼ばれるような人ではありません」

 ディフトの妹だから、私とディフトとが婚約していた頃はそれでもよかったんだけど、今となってはね。

 だがフィーリア姫は微笑む。

「お姉さまはお姉さまですよ」

「……」


 やっぱり微妙に気まずいな。

 特に、言葉遣いが難しい。

 昔は私の方が実質的に立場が上だった。

 でも今はもう違うのだ。


「お姉さまったら、全然連絡をくれないのですから」

「いえ……それは」

 連絡できるような立場じゃないし、忙しかったからね。

「この前、お母様とお会いになったのですよね」

「え、ええ」

 来たな。サキア様。あれも、もう半年以上前だ。


 ところでもう一人の出席者は誰なのかな?

 私がそちらを覗き込むように少し体を傾けると、フィーリア姫も察したのか、その名を呼ぶ。


「メリウスさん。何を恥ずかしがってるんですか」

「は、はい」

「……っ!」

 そこにいたのは、ある意味、ディフトと同じぐらい気まずい相手だった。

「あはは。ど、どうも」


 ピンク色のドレスに身を包んだ、ロングヘアの女。

 四等貴族のメリウス・リフトリン。

 ディフトが私との婚約中に、こっそりいちゃついていた相手でもある。


 なんでここに?

 フィーリア姫、あなたは何を企んで?


***


 席に着く私たち三人。

 メイドたちがお茶とお菓子を用意し始める。

 マルレーネも手伝っていて近くにいない。

 私にとっては完璧なアウェー感がある。


「ええと……これは、どういうお茶会なのでしょう?」

「旧交を温め合おうと思って、席を設けましたの。昔のように親しくしていきたいですから」

 フィーリア姫は、平然とそう言うが、本当だろうか?

 何か別の目的があるように思えてならない。


 私は、ちらりとメリウスの方を見る。

 メリウスは居心地が悪そうに縮こまったままだ。

 ふむ。こいつが言い出したって感じじゃないな。


 というか、これ客観的に見ると、私が虐めてるみたいに見えてしまいそう。気をつけねば。


「テラシード・ボタニカの話、聞きましたわ。お姉さま、ずいぶん大きく出たみたいですね」

 フィーリア姫が言う。

「ええ、まあ」

「きっと、未知なる植物を求めて、冒険の旅に出たりするのでしょう」

「……そ、そうね」

 やるの? 冒険?

 誰が? 私が?


 人類圏で流通している種については、お金で何とかなるだろう。

 けれど、本当に一兆種を目指すとなると、未踏の惑星に降りて、植物採集をする必要がある。

 ……本当にそこまでする必要あるんだろうか。

 やるとしても私が直接動くのは何か違う気がする。


「この間も、テラシード・ボタニカに関するデーターを巡って、チョーブル帝国と争奪戦をしたと聞きました」

「ええっ?」

 もしかしてニュートリスの話か?

 ああいうのも冒険と言っていいんだろうか?

 ……語る時の切り口次第か。


 ところで、さっきからメリウスが何もしゃべっていないのが気になる。

 いや、別にいいんだよ? 二人がそれでいいなら。

 でも今回は、たぶん違う気がする。


 私から言わないと話が進まないような気がした。

「あの、フィーリア様。そろそろ、はっきりさせてもらいたいのですが。彼女はなぜここにいるのですか?」

「……メリウスさんがいるのは、いけませんか?」

「いえ。逆です。今日の本題は彼女が関わっているような気がしたので」

「まあ、お姉さまったら、鋭いのですね」

 フィーリア姫は、柔らかにほほえむ。


「メリウスさんは、皇族の秘書見習いです。今は見習いなので、実務がない私に付いています」

「そんなことがあるんですか?」

「あるのでしょう。ちなみにお母様が決めました」

 サキア様が?

 これは裏があるな。

 とは言え、メリウスがフィーリア姫を御せるとは思えない。

 四等貴族のメリウスにキープしておくほどの価値があるわけもない。

 何が狙いなんだろう?


 フィーリア姫は、私の内心を見透かすように言う。

「では、本題に入りましょう。クルミア姉さま。お兄様の結婚相手について考えたことはありますか?」

「えっ?」

 お兄様って、ディフトのこと?


 ないよ。

 今まで自分のことで精一杯だったので。

 けど、私との婚約を破棄したのだから、次の結婚相手が必要になるのは、理解できる。

 別の誰かを宛がえばいいんじゃないの?


「お姉さま。これは、政略結婚なのです」

「皇族なら、それは仕方ないでしょう」

「だからいい相手がいないのです」

「……」


 貴族の結婚観には二種類ある。

 一つは、政略結婚して自分の勢力を伸ばそうと考える人たち。

 もう一つは、結婚なんて本人の自由でいいと考える人たち。


「政略結婚を考える貴族たちは、既に相手が決まっているのです。そして自由恋愛派は、こういう時に出てこない」

「なるほど」

 近い年齢の相手を探しようがないのか。


 私はメリウスをちらりと見る。

「でも、自由恋愛なら、ちょうどいい相手がいると思いますが?」

「そう。私もそう思います」

 フィーリア姫もメリウスの方を見る。


「メリウスさんでは困ると言う人たちもいるんですけどね」

「困るって、なんで……」

「私は困らないし、一等貴族の方々もさほど困らないでしょう」

 フィーリア姫は、はぐらかすように言う。

「……」

 ってことは、二等貴族や三等貴族か。

 安易に身分の壁を飛び越えられるのは困ると思ってるのかな。


「それで、本人の言い分はどうなってるんですか?」

 肝心のメリウスがどういうつもりなのかによっては、話の根元から変わる。


 私とフィーリア姫の視線を受けて、メリウスは戸惑ったように身を引く。

「私は、ディフト様をお慕いしています。けれど、身分の差は、いかんともしがたく……」

「煮え切らないなぁ。結婚したいのか、諦めるのか、はっきりしなさいよ」

 実際に可能かどうかは別として、意志表明ぐらいはしておいた方がいいんじゃないの?

「わ、私は……」

 メリウスは私とフィーリア姫の顔を交互に見る。


「わかった。自分がディフトから好かれているか、自信がないってって言うのね」

「……」

「ディフトは、私と言う婚約者がありながら、あなたと密会していた。けれど、あなたのことは好きでも何でもないと?」

「ご、ごめんなさい……」

 メリウスは泣きそうな顔になる。

 ああ、もう……。

「あなたね、そんなオドオドしていて、この先どうしようって言うの? ただでさえ、反対が多いってのに、本人がそんなんで結婚できると思ってるわけ?」

「それは、その……」

「そうやって、自分の望みを何もかも、諦め続ける人生を送ればいいのよ」

「そんなぁ……」

 私はフィーリア姫の方を見る。

「フィーリア様。メリウスは、ディフトと結婚する気はないとのことです」

「あら、それは残念ですわ。けど本人がそう言うなら仕方ありませんね。お兄様にもそう伝えておきましょう」

 フィーリア姫は、悲しそうに顔を伏せる。

「えっ、ええええっ……」

 メリウスは両手をわなわなと振るわせて、何か考え込んでいた。

 そして数秒後、勢いよく立ち上がり、宣言する。

「わ、私は、ディフト様と、け、結婚したいです!」


 フィーリアは顔を上げ、真剣な目でメリウスを見る。

「険しい道だと思いますよ?」

「知っています。でも私、諦めたくありません!」


 壁際で見ていたメイドたちから、拍手が上がった。

 ……。

 なんだこの茶番。



(あとがき)



「さて、新しい枠が始まりましたね」

 恋愛小説の女神が、またわけのわからないことを言っている。


「枠って何のこと?」

「私たちにはあまり関係ないけど、関係ある話です」

「どっちなの?」

「ある場所で変化があったのです。まず、あちらをご覧ください」


 私は示された方を見る。

 ん? 空中に何か文字が書いてある。


『せっかくなので、今日は無料話にしてみた』

 ふぁっ?

『前後編だけど、前だけでも話がまとまってるから、大丈夫かな、と思って』


「実はイラストがつく位置って有料話の文字数が関係してたんですよ。裏を返すと、もうイラストがつかないなら有料話である必要もないという理屈です」

「何の話をしてるのか全然わからないんだけど。そもそも何が有料だったの?」

「……私たちにはあまり関係ない話なので」


『なお、後編は有料話にする予定。……遊ぶ金欲しさに』

 こっちも、まだなんか言ってる

 犯行動機じゃあるまいし……。


『しばらくは続けてみるつもりだけど、いくら貰えるのかはよくわかってない。アクセス解析、せめてアクセスカウンターが必要なのでは?』

「……アクセスカウンターって何?」

「平成前半の匂いがする単語ですね。時の流れは恐ろしいものです」

『話は変わるけど、P〇5が抽選とかしなくても買えるようになるのっていつですか? ソ〇ーさん本当がんばってくださいお願いします』

 おい!

 それ、ここでするような話じゃないよね。


「話が逸れてきたようですね。まあ、そういうことなので、今後ともよろしくお願いします」


 そんな締め方でいいの?

 私には、何を言ってるのか全然わからなかったんだけど……。


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