悪役令嬢でもわかる宇宙領地経営

艦隊指揮スキルカンスト令嬢のFラン辺境開拓と領地経営
ソエイム・チョーク
ソエイム・チョーク

4-2 嘘と裏切りと疑いすぎのゲーム

122 まず建設の確認

公開日時: 2022年1月11日(火) 12:15
文字数:3,462


 ようやくナニモ74に帰って来た。

 この前、ニュートリスから戻ってきて、その後、一か月ぐらいバタバタしていたと思ったら、首都行き。

 腰を落ち着ける暇もない。


 本部ステーションの執務室。ここに来るのも久しぶりのような気がする。

 いや、首都に行く前の日も来たから、せいぜい2週間ぶりのはずなんだけど……。


 マルレーネが入れてくれた紅茶を飲んでいると、執務室に二人の男が入って来る。

 一人は作業服の男、ザスト。

 もう一人は背広を着て、銀縁の眼鏡をかけた男、マッキンタイア。


 私は応接セットの方に移動し、マルレーネが二人分の紅茶を入れる。


 マッキンタイアが言う。

「では、今後の建設計画について確認しましょう」

「とりあえず最優先で100光年ゲートでしょ」

 三か月と言う期限は、長いようで短い。

 もたもたしていると終わらない。


 ザストが自信ありげに言う。

「俺が立てた建設計画なら、二か月以内に終わる。材料が揃っていれば、の話だがな」

「材料は、今月中に届くはず。月末までに受領できる物として計画を進めましょう」

「既に骨組みの建設を始めている。今、宇宙要塞の建設に使っているドロイドを、少しずつ移動している所だ」

 少しずつ?

「移動用の輸送船が足りてないってこと?」

「いや、それほどじゃない。作業の効率化のためだ」

「どういうこと?」

「中途半端な所でいきなり作業を止めると、後で再開する時に影響が出るからな。段階的にドロイドを減らしていく。完全には引き払わず、細々と作業を続けることになる」

「ふーん」

 ザストがそう判断したなら、たぶんそれが正しいのだろう。

 私はマッキンタイアの方を見る。どう? 完璧でしょ?


「完成した100光年ゲートはどこと繋がるのですか?」

「えっ?」

 言われてみれば、ジャンプゲートは二つ一組で使う物だ。

 ナニモ74のゲートはどこと繋がるのか。ガートリクスは何も言ってなかった。

 たぶん、最寄りの100光年ゲートがある星系と繋げるんじゃないかな。

 そうじゃないと、交通網として使いづらい。


 名前なんだっけ? 確か、セルニア49。

 帰り道で通ったはずだけど、新しい100光年ゲートの建設は まだ始まっていなかった。


 でもそれは普通だ。

 私が話を受けたばかりなのだから、まだ建設が始まっていなかったとしても不思議はない。


 だが、マッキンタイアが考えていることは違ったらしい。

「お隣のグロムバック42には、この話は通してあるのですか?」

「してないけど……」

「それはいけませんよ。後回しにすると悪い結果になりかねないので、早いうちに、というか今日中に事情説明をしておいた方がいいでしょう」

「悪い結果ってどういうこと?」

「10光年ゲートの建設を延期することの言い訳が必要になりますね」

「言い訳?」

「ジャンプゲートは二つ一組ですよ。当然、我々が二年目標までに10光年ゲートを完成させるものとして、向こうもゲートを作ることになっているはずです」

「あ……」

 言われてみれば、そういうのもあるな。

「それは……いずれ100光年ゲートと10光年ゲートの両方が完成した時、向こうも恩恵を受けることになるから、それで帳消しにできないかな?」

「理屈としてはそうですが、急に予定を変えるのはよくないでしょう」

「まあ、それはそうね」

「問題は、建設だけではありません。民間企業からも不満が出るでしょう」

「民間?」

 なんで?

「ジャンプブリッジの輸送量は、毎日限界まで使っています。それでも、今のナニモ74に必要な物を運びきれていない。そこに加えて10光年ゲートの建設が延期するとなれば、多方面に悪影響が出るでしょう」

「100光年ゲートを完成させて、そっちから荷物を持って来ればいいんじゃないの?」

「ナニモ74の需要は、ある程度満たせますね」

「……うん?」

 他に何か問題があるの?

「グロムバック42では、こちらが予定通りに10光年ゲートを完成させるという前提で、各種生産を行っている。それが不良在庫になるわけです」

「ううん……」

 10光年ゲートを乗り継いでセルニア49まで運べばいい、と思ったけれど、無駄に遠回りさせることになるから、やっぱり不満は出るだろう。


 一方、セルニア49の方も、ナニモ74に物を売りつける都合で、品不足や値上がりが発生する。

 ナニモ74に物を売りつける予定の商人からしたら、好ましいことじゃない。


 ザストが助け舟を出すように言う。

「だが、開発局も交通局も許可は出してるんだよな?」

「ええ。なぜか、許可は出ています。どうしてこんな大幅に計画を変更できるのか、不思議で仕方ないのですがね」

 マッキンタイアは、今だ納得していないようだ。

「そんなに異常なの?」

「宇宙要塞の建設が終わっていない領地に100光年ゲートを作ってどうしようと言うのですか?」


 確かに、宇宙要塞の建設し、HSコア工場を作るのは大事だ。

 もしかすると、皇帝クエストも、10光年ゲートよりこっちが本命なんじゃないか。私も内心、そう思っている。

 それを飛ばしてでも、100光年ゲートを作る理由とは。


「絶対に、何か裏があるはずなのですが……」

「裏……」

 開発局の局長名義で許可が出たのに、裏がある?

 まさか、あの許可は偽造?

 いや、そんなわけはないか。仮に局長の許可を偽造できるとしたら、そっちの方が大問題だ。

 マッキンタイアは疑いすぎなんじゃないかな。


「じゃあ、上からの圧力とか?」

「上とは?」

「それは、皇族とかその辺り……」

 開発局に上から命令できるのは、内務省のトップとか皇族とか、それぐらいだ。

「何のために?」

「それは、100光年ゲートができたら、とりあえずニュースになるでしょ? それで何かの不満のガス抜きをするとか……」

「不満とは?」

「それは……ヤーフィン派を抑え込むためとか?」

 あの流れに同調する人たちが増えたらマズいから、適当なお祝いムードでごまかす、というのは……

 うーん、名案とは言えないかな?

 やらないよりはマシぐらいか。


 あれ? ガートリクスはヤーフィン派だったっけ?

 それなら、皇族には協力しない? いや、上からやれと言われたら、嫌でもやるか。

 交通局自体は、皇族派なのかな? あるいは内務省のトップが?


 ダメだ、全然わかんない。

 これだから中央は面倒なんだよな……。


「とにかく、グロムバック42の側には、挨拶をしておいてください」

「はーい」

 どうして帰りの船の中で言わなかったのか、みたいに怒られそう。

 まあ、私が迂闊だったのは事実なので仕方ない。


 何もかも、HSコアが足りないのが悪い。

 HSコアが大量にあれば、自己転送艦やジャンプブリッジを作れるし、ジャンプゲートの建設で悩んだりもしないだろう。

 交通量が増えれば、領地も国も発展し続けるという寸法だ。

「問題は山積みね」

 私が言うと、マッキンタイアが疲れたようにため息をつく。

「宇宙要塞を作って、HSコア工場を稼働させれば、その問題の解決に一歩近づくのですがね」

 ……はい。


 だけどさ、この100光年ゲートも必要だから作るわけで、そこを怒られても困るんだよね。

 今回は怒られるのも仕事のうちみたいな物だと思って諦めるけど。


「まあ、いいじゃないか。無事に完成させりゃ、どうにかなるさ」

 ザストが楽観的なことを言う。


「100光年ゲートの話はこの辺りにして、他に何かある?」

 私が聞くと、マッキンタイアは首を振る。

「改めて報告するほどの物はありません。平和な物です」

 ザストが思い出したように言う。

「そう言えば、第二惑星に新しい施設を建てている件だが……」

「あー、そんなのも、あったっけ」

 私がニュートリスに行ってる間に、何かいろいろやっていたようだ。

 こっちも忙しくて、全部丸投げしてたから、何をしたのかもあんまり聞いてない。


「まず人工衛星を使って、惑星全体の地表をスキャンした。そして金属分布が多い所に採掘場を建てた。これは試験的な物だがな」

「本格的な採掘はしないってこと?」

「資源なら他にもある。第二惑星の地表で大規模な建設が始まる時まで残しておきたい」

「そう」

 輸送を考えると、惑星と軌道上を行ったり来たりするのは効率が悪いからかな。

「もう一つ、金属分布が少ない所に、地下施設の建設を開始している。魚の養殖場だ」

「やっと始まったんだ」


 以前、チェン傭兵団がエビを食べたいとか言ってた。それ繋がりで養殖場を建設しようという話になった。

 あれから半年ぐらい経っている。

 専用のドリルマシンが手に入らなかったのと、他に優先しなければいけない物が多すぎたのとで、延期に次ぐ延期を重ねていた。


 ずいぶん時間が掛かったけど、どうにか建設にこぎつけたのか。


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