朝か……。
私は眠い目をこすりながら、ベッドから起き上がる。
昨日はあの後、残ったアウジェレ艦隊をひたすら追い掛け回して、それが終わったら砲台を一カ所ずつ潰して……本当に面倒だった。
でも、大した被害も出ずに目的は達成できたから、良かった方なのだろう。
一度寝たら疲れは取れた。
それでも、問題は山積みだ。
弾薬の消費が激しい。
昨日一日だけで、メリウスが持って来てくれた弾薬と同じぐらいは消費してしまったかもしれない。
また中央に要求したら、送ってくれるだろうか?
撃沈された船はないけれど、戦闘不能にまで追い込まれた船は多数。
修理が終わるまでにどれだけ時間が掛かるのか想像もつかない。
弾薬補給は、輸送船をこっちに持って来てやることになった。
けどカーリア29内のアウジェレはまだ残っているからな。
補給中を襲われる危険はある。
だから、追加の艦隊も持って来なければならない。
そして裏切り者がいる。
でも、その正体も目的もわからない。
そんな状況で、対立している派閥同士から船を借りて艦隊を率いて……。
本当にめんどくさい。
けど、一番の問題は超えたからな。
裏で何をしたところで、物理的にアウジェレに負けたら意味がない。
逆に、アウジェレに勝ってるなら、それ以外の部分で多少やらかしても、言い訳は立つだろう。
そう思うと気は楽だ。
そう言えば、昨日の戦いは外部ではどういう扱いになっているんだろう?
ニュースサイトを巡ってみる。
『カーリア29にて大規模な艦隊戦』
『クルミア率いる艦隊がアウジェレ基地の周辺を制圧した。アウジェレ殲滅に向けて大きな前進をすることとなった』
『出番に備えて士気を高める揚陸部隊』
これはいつも皇族に好意的なメディアかな。
戦況が良くなったのは今まで中央がやって来たことが実を結んだから。……という方向にまとめたいのだろう。
それと揚陸部隊にインタビューとかしている。
この新聞社はカーリア29のどこかに支局でもあるのだろうか?
……あるに決まってるか。
この星系は帝都から1ジャンプで来れる交通の要所だからな。
次。
『カーリア29にてアウジェレとの戦闘発生!』
『攻められるばかりだったカーリア29だが、この度は人間側がアウジェレの小惑星基地に侵攻し、勝利を収めた』
『攻撃型巡洋艦の勇ましい射撃シーン!』
ヤーフィン派の息がかかってるメディア。
攻撃型巡洋艦がレールガンを撃っている写真がデカデカと掲載されている。
急に参加するって言いだした時は、何を考えているのか疑ってしまったけど……。
もしかして、この写真を撮りたかっただけなの?
まあ、仲間外れにすると変な噂が立ったりするからね。
戦力が増えることは、私にとってもメリットがある。
次に何かする時も、少しは参加させた方がいいのかな。
シミュレーターと違って、現実ではこういう要素もあるから、いろいろ気を使わないといけない。
次。
『クルミア・ティブリスの大勝利、カーリア29の解放に一歩近づく』
『このような状況に置いても、帝都は多少の物資を送っただけである。国民に対する愛が欠けているのではないだろうか?』
反政府系のメディアは、今日は口調が穏やかだな。
勝ってる時はこんなもんか。
それでも皇族批判は忘れないと。
でも、こいつら、この前は私が黒幕とか言ってなかったっけ?
言ってることがいい加減過ぎて、ちょっと好きになれない。
次、チョーブル系の手が入っていると噂のメディア。
『チョーブル帝国にて、第12皇子が行方不明?』
『関係筋が語るところによれば、シアニオン皇子は数日前に予告なく公務を欠席。昨日より別の皇族が予定を代行する状況となっている。しかしこの件について、チョーブルの皇室報道官は病気などを否定するも、理由は明かそうとしない。チョーブルの内部で何が起こっているのか』
は?
これ、何の話?
本当にミスク帝国の人間に向けたニュースなの?
いや、他国の出来事でも重要なら知りたいけど……カーリア29の勝利よりも、こっちが大事なの?
……ああ、そうか。
チョーブルの皇室が不安定になるのは、ミスク帝国がアウジェレに手こずっているのが悪い、って言う理屈か。
次。
『ミスク帝国の危機、アンドロメダ星人は全てを見ている』
『アンドロメダ星人との接触が旧帝国の崩壊の一因となったことは皆さんもご存じかと思うが……』
『六階建ての塔!』
陰謀論が大好きなメディア。
……こいつらに期待した私がバカだった、としか言えない。
アンドロメダ星人って何? 皆さんご存じじゃないよ?
しかもよくわからない風刺画まである。
六階建てになっていて、人がたくさんいるけど、殆どが操り人形みたいになっている。
一階にいる人は二階の人に操られ、その二階の人も三階に操られ……
じゃあ、全員が六階から操られているってことなのかな?
一階にいるうちの一人、なんとなく私に似ている気がする?
二階と三階の人物は、殆どが覆面を被っている。
あ、三階にメリウスっぽいのがいるな。私より上の扱いなのが微妙に納得いかない。
けど、メリウスは下の誰かを操っているわけではない? 何これ?
四階にいるのは、服装的に皇族のような気がする。もしかしてサキア様もいるのだろうか?
五階はよくわからない。なんかトーガを着た人とか、頭にサメの被り物をした人とかがいる。
そして六階は……アンドロメダ最強、の文字Tシャツを着た人がいる。まさかとは思うが、これがアンドロメダ星人のつもりなの?
なんか、全然意味がわからなくて怖い。
どうせ陰謀論者の妄想なんだろうけど……それにしたってアンドロメダ星人はないでしょ。
***
朝食をとってから、艦隊指揮に入る。
とは言え、私がやることは特にない。
敵はほぼ全滅してるから、せいぜい隠れている敵に警戒するぐらいだ。
とりあえず、小惑星表面の後片づけ。
ゴチャゴチャした物がたくさんあると動くのに邪魔になるし、まだ動けるアウジェレが残っているかもしれない。
船自体は、残骸の中の狭いスペースであっても、殺人ドローンぐらいなら隠れているかもしれない。
熱源が無くなっていることを確認してから、トラクタービームで移動させる。
熱源が有ったら、砲撃で粉砕する。
作業中に、他の場所からアウジェレが襲ってくる可能性もあるから、外部に向けた警戒も怠るわけには行かない。
作業をしているうちに、輸送船と護衛艦隊がやって来た。
弾薬補給のためだ。
護衛艦隊の旗艦にはフレイルも乗っているという。
しかも、私に呼び出しをかけているという。
そうだ、大事なことを忘れていた。
私はフレイルの下で艦隊を指揮したことになっている。
つまり「上」に報告する義務もあったんだ。
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