フレイルが乗って来た戦艦は、一般的なメガマウス級戦艦だ。
私たちは艦長室に案内される。
艦長室には会議室の様な長いテーブルが置かれていた。
片端の席にフレイルが座っている
その近くの席には側近らしき人が数人。
私たちと一緒にやって来たエリンはフレイルの後ろに立つ。
レティシアとエルネストも来て、席に座っていた。
私はエルネストの向かい側の席に座る。
メリウスも私の隣に座る。
マルレーネは、隣の控室で休憩中。
「これで全員?」
「いえ、あとは……」
フレイルが答えようとするのとほぼ同時に、もう一人部屋に入って来た。
「お待たせしました」
入って来たのは、ガートリクスだ。
なんでいるの?
いや、今回の作戦にはヤーフィン派の艦隊も参加していた。ここにいるのは、何もおかしくない。
けど、私にも心の準備って物があるんだよな。
1000光年ゲートで騙された件もあるし、どんな顔をすればいいのかわからない。
とりあえず、今は無関心を装ってやり過ごそう。
ガートリクスは、メリウスから席を二つぐらい開けたところに座る。
フレイルが席を立ち、言う。
「今回は、アウジェレ基地攻略作戦にご協力いただき、ありがとう。今回の勝利により、カーリア29の開放に一歩近づくことができた」
私たちは控えめに拍手する。
作戦内容について、おさらいも兼ねて話が始まる。
基本的にはエリンが喋って、時々質問や補足が入る。
岩石戦艦が出てきた辺りで、エルネストが質問する。
「結局、これは何だったのだ?」
私が答える。
「アウジェレの新兵器……というか、急造? どこかやけっぱちな感じがするけど、そこそこ危険な物だと判断したわ」
「このような抵抗をするアウジェレは、あまり見ないタイプでは?」
側近の指摘。
確かに私も見たことがないな。
指揮官タイプがいなくなって、代わりに設計士タイプが出てきたのだろうか?
「ここで、急に指揮権が移り変わったんだっけ?」
レティシアが言う。
「……急に勝手なことをしたのは悪かったわよ」
あの時は、アレが最適だと思った。
もう一回同じ状況になったとしても、その判断は変わらない。せいぜい事前に根回ししておくぐらいだ。
「一応、言い訳をさせてもらうと、あのタイミングで岩石戦艦を行動不能にする必要があった。そして、艦隊の防御も必要だった」
「一人で両方を指揮するわけにはいかなかったのか?」
「二つの状況を私一人で指示を出すと、伝達に混乱する可能性があったから……」
これが一極集中の弊害だな。
本当は、私を大佐ぐらいに任命して、その下に中佐少佐大尉と並べて、分割可能な伝達系統を組み上げるべきだった。
そんな時間も人材もなかったから仕方ないんだけど。
「あ、あの……差し出がましいかもしれませんけど」
メリウスが発言する。
「私に指揮権が渡った時は、さほど混乱はなかったと思います。連絡の量が増えたのは……」
ちらりと、私の方に後ろめたそうな視線を送る。
「戦艦を撤退させるという命令が、浸透しなかったからだと思うのですが?」
「そうね……」
エルネストも批難がましい視線を向ける。
「防衛部隊は攻撃部隊を守るために戦っているのだろう。肝心の攻撃部隊を撤退させるのは、考えにくいと思うのだが?」
「預かった船を危険にさらすわけにもいかないでしょ」
「しかし!」
「退かないことでより多くの戦果が取れるなら、犠牲を覚悟しなきゃいけない時もある。けど、あの時は、そういう状況じゃなかった」
死なずに済むなら、その方がいい。
どうせ、すぐ呼び戻せるし。
「ちょっと確認したいんだけど、メリウスに指揮権を渡したのは、予定外の行動だったの?」
レティシアから、よくわからない質問が来る。
「予定外、だけど?」
「そうじゃなくて……内々で予定されていたとか、皇族から何か命令があったわけではないってこと?」
「あるわけないでしょ」
何だこの質問?
変な疑いを掛けられているような気がする。
私の疑問にはエリンが答えてくれた。
「メリウスさんは第三皇子と、とても親しい間柄と言う話を聞きます。しかし、出身が四等貴族であり、身分的には釣り合わないと」
「ん?」
「もし、このような場面で大手柄を立てると、何かと話が進みやすくなる……という考え方もあるでしょう」
「……」
なるほど。
箔付けのために指揮権を渡したと?
「仮にそんな指示があったら、最初から指揮権を渡していたわよ」
レティシアが疑るような視線を向けてくる。
「そんなことして大丈夫なの?」
「同じ学園の授業を受けてたから。メリウスに何ができるかは、だいたいわかってる」
丸投げできるなら、そっちの方が私は楽できる。
と、室内のあちこちから妙な視線を受けているような気がした。
何か変なことを言っただろうか?
とりあえず私はガートリクスの方を睨んでみる。
何か言いたいことがあるなら言えば?
「クルミアさんは、自分が手柄を立てる気はないのですか?」
「なくはないけど、私がやらなくても解決するなら、こんなことはしてない」
本当は、こんな問題に巻き込まれることなく、ナニモ74でのほほんと暮らしていたかったんだけど。
「何の利益も約束されていないのに、ここに戦いに来たと?」
「いや、利益とか約束とか、誰が私にそんな話を持って来るのよ……」
私はただ、ナニモ74の安定を考えてこれがベストだと思ったからそうしただけだ。
1000光年ゲート詐欺に騙された負い目もあるかも知れない。
そして私を騙したのは、ガートリクス、おまえだぞ。
だいたい、利益って何?
「……もしかして、メリウスを持ち上げれば私にも利益があるような密約があるとか、そういうの疑ってるわけ?」
ないよ。
サキア様はそんな気前良くないからね。
「なるほど。滅私奉公というわけですか。素晴らしい心がけですね」
ガートリクスは、うんうんと頷く。
なぜかバカにされてるような気がする。
その話が終わった後は、特に何事もなく最後まで進む。
砲台を、一つ一つ潰していく作業が簡単に説明されて、揚陸の用意について簡単な打ち合わせがあって、報告会は終わった。
ガートリクスが言う。
「ところで、あなたの艦隊にはデメニギス級巡洋艦があったと思うのですが」
ヨーランのことか。
「デメニギス級は探索に送り出したよ」
「探索、ですか?」
ガートリクスは不審げに私を見る。
「アウジェレの製造拠点はここだけじゃない、必ず他にもある」
「根拠は?」
「小惑星の裏側に造船所があったけど、戦艦サイズのは見当たらなかった。たぶん、他にも拠点がある」
「戦闘開始前の時点では、裏側の状態はわかっていなかったと思いますが……」
まあ、そうなんだけど。
カーリア29では、既にアウジェレの拠点を一カ所、破壊している。そして二カ所目が今回の。
三つ目四つ目もあると考えるのが妥当だ。
「具体的には、どうする気なのですか?」
「……脱出するアウジェレがいないか探らせて、いたら追いかけさせる予定だった」
「予定だった?」
「いたでしょ、堂々と逃げて行った、一番大きい奴が」
「岩石戦艦のことですか?」
「うん」
最初はただの攻撃だと思ったし、そういう側面もあったんだろうけど。
あれだけの体積があるなら、中にいろいろ詰め込めるだろう。
脱出船の可能性は否定できない。
なので、今は小惑星周辺をまんべんなく監視させている。
今の所、他のルートで脱出しようとするアウジェレはいない。
岩石戦艦がハズレだったら、手がかりなしだ。
「それにデメニギス級巡洋艦はステルス性が高いから、こういうのに向いてるはず」
「しかし、単独でやらせているのですか?」
「他にいないからね」
「随分信頼しているのですね」
まあね。信頼はしている。
少なくとも連絡もなしに死んだりはしないだろう。
メリウスが言う。
「戦艦型のアウジェレがいるってことは、HSコアの製造工場もあるってことですよね」
「あるでしょうね」
「あれって、金属だけでは作れないはずでは?」
「うん。ガス惑星から汲み上げているか、氷小惑星も採掘しているのか……」
そして、採掘の後は工場までの輸送もあるだろう。
そういう痕跡を一つ一つ追いかけて、アウジェレを狩るのだ。
ヨーラン、ちょっと短気な所があるからな。
こういうのに向いてるかと言われると微妙な気もする。
しかし、ガートリクスも目ざといな。
よくヨーランのことに気付いたものだ。
この作戦のために造船所の予定を変更してもらったんだけど、それを見てたのかな?
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