悪役令嬢でもわかる宇宙領地経営

艦隊指揮スキルカンスト令嬢のFラン辺境開拓と領地経営
ソエイム・チョーク
ソエイム・チョーク

163 素晴らしい心がけですね(嫌味)

公開日時: 2022年12月9日(金) 12:15
文字数:3,376


 フレイルが乗って来た戦艦は、一般的なメガマウス級戦艦だ。


 私たちは艦長室に案内される。

 艦長室には会議室の様な長いテーブルが置かれていた。

 片端の席にフレイルが座っている 

 その近くの席には側近らしき人が数人。

 私たちと一緒にやって来たエリンはフレイルの後ろに立つ。


 レティシアとエルネストも来て、席に座っていた。

 私はエルネストの向かい側の席に座る。

 メリウスも私の隣に座る。

 マルレーネは、隣の控室で休憩中。


「これで全員?」

「いえ、あとは……」

 フレイルが答えようとするのとほぼ同時に、もう一人部屋に入って来た。

「お待たせしました」

 入って来たのは、ガートリクスだ。

 なんでいるの?

 いや、今回の作戦にはヤーフィン派の艦隊も参加していた。ここにいるのは、何もおかしくない。

 けど、私にも心の準備って物があるんだよな。

 1000光年ゲートで騙された件もあるし、どんな顔をすればいいのかわからない。

 とりあえず、今は無関心を装ってやり過ごそう。

 ガートリクスは、メリウスから席を二つぐらい開けたところに座る。


 フレイルが席を立ち、言う。

「今回は、アウジェレ基地攻略作戦にご協力いただき、ありがとう。今回の勝利により、カーリア29の開放に一歩近づくことができた」

 私たちは控えめに拍手する。


 作戦内容について、おさらいも兼ねて話が始まる。

 基本的にはエリンが喋って、時々質問や補足が入る。


 岩石戦艦が出てきた辺りで、エルネストが質問する。

「結局、これは何だったのだ?」

 私が答える。

「アウジェレの新兵器……というか、急造? どこかやけっぱちな感じがするけど、そこそこ危険な物だと判断したわ」

「このような抵抗をするアウジェレは、あまり見ないタイプでは?」

 側近の指摘。

 確かに私も見たことがないな。

 指揮官タイプがいなくなって、代わりに設計士タイプが出てきたのだろうか?

「ここで、急に指揮権が移り変わったんだっけ?」

 レティシアが言う。

「……急に勝手なことをしたのは悪かったわよ」

 あの時は、アレが最適だと思った。

 もう一回同じ状況になったとしても、その判断は変わらない。せいぜい事前に根回ししておくぐらいだ。

「一応、言い訳をさせてもらうと、あのタイミングで岩石戦艦を行動不能にする必要があった。そして、艦隊の防御も必要だった」

「一人で両方を指揮するわけにはいかなかったのか?」

「二つの状況を私一人で指示を出すと、伝達に混乱する可能性があったから……」

 これが一極集中の弊害だな。

 本当は、私を大佐ぐらいに任命して、その下に中佐少佐大尉と並べて、分割可能な伝達系統を組み上げるべきだった。

 そんな時間も人材もなかったから仕方ないんだけど。


「あ、あの……差し出がましいかもしれませんけど」

 メリウスが発言する。

「私に指揮権が渡った時は、さほど混乱はなかったと思います。連絡の量が増えたのは……」

 ちらりと、私の方に後ろめたそうな視線を送る。

「戦艦を撤退させるという命令が、浸透しなかったからだと思うのですが?」

「そうね……」


 エルネストも批難がましい視線を向ける。

「防衛部隊は攻撃部隊を守るために戦っているのだろう。肝心の攻撃部隊を撤退させるのは、考えにくいと思うのだが?」

「預かった船を危険にさらすわけにもいかないでしょ」

「しかし!」

「退かないことでより多くの戦果が取れるなら、犠牲を覚悟しなきゃいけない時もある。けど、あの時は、そういう状況じゃなかった」

 死なずに済むなら、その方がいい。

 どうせ、すぐ呼び戻せるし。


「ちょっと確認したいんだけど、メリウスに指揮権を渡したのは、予定外の行動だったの?」

 レティシアから、よくわからない質問が来る。

「予定外、だけど?」

「そうじゃなくて……内々で予定されていたとか、皇族から何か命令があったわけではないってこと?」

「あるわけないでしょ」

 何だこの質問?

 変な疑いを掛けられているような気がする。

 私の疑問にはエリンが答えてくれた。

「メリウスさんは第三皇子と、とても親しい間柄と言う話を聞きます。しかし、出身が四等貴族であり、身分的には釣り合わないと」

「ん?」

「もし、このような場面で大手柄を立てると、何かと話が進みやすくなる……という考え方もあるでしょう」

「……」

 なるほど。

 箔付けのために指揮権を渡したと?

「仮にそんな指示があったら、最初から指揮権を渡していたわよ」

 レティシアが疑るような視線を向けてくる。

「そんなことして大丈夫なの?」

「同じ学園の授業を受けてたから。メリウスに何ができるかは、だいたいわかってる」

 丸投げできるなら、そっちの方が私は楽できる。

 と、室内のあちこちから妙な視線を受けているような気がした。

 何か変なことを言っただろうか?


 とりあえず私はガートリクスの方を睨んでみる。

 何か言いたいことがあるなら言えば?

「クルミアさんは、自分が手柄を立てる気はないのですか?」

「なくはないけど、私がやらなくても解決するなら、こんなことはしてない」

 本当は、こんな問題に巻き込まれることなく、ナニモ74でのほほんと暮らしていたかったんだけど。

「何の利益も約束されていないのに、ここに戦いに来たと?」

「いや、利益とか約束とか、誰が私にそんな話を持って来るのよ……」

 私はただ、ナニモ74の安定を考えてこれがベストだと思ったからそうしただけだ。

 1000光年ゲート詐欺に騙された負い目もあるかも知れない。

 そして私を騙したのは、ガートリクス、おまえだぞ。


 だいたい、利益って何?

「……もしかして、メリウスを持ち上げれば私にも利益があるような密約があるとか、そういうの疑ってるわけ?」

 ないよ。

 サキア様はそんな気前良くないからね。

「なるほど。滅私奉公というわけですか。素晴らしい心がけですね」

 ガートリクスは、うんうんと頷く。

 なぜかバカにされてるような気がする。


 その話が終わった後は、特に何事もなく最後まで進む。

 砲台を、一つ一つ潰していく作業が簡単に説明されて、揚陸の用意について簡単な打ち合わせがあって、報告会は終わった。


 ガートリクスが言う。

「ところで、あなたの艦隊にはデメニギス級巡洋艦があったと思うのですが」

 ヨーランのことか。

「デメニギス級は探索に送り出したよ」

「探索、ですか?」

 ガートリクスは不審げに私を見る。

「アウジェレの製造拠点はここだけじゃない、必ず他にもある」

「根拠は?」

「小惑星の裏側に造船所があったけど、戦艦サイズのは見当たらなかった。たぶん、他にも拠点がある」

「戦闘開始前の時点では、裏側の状態はわかっていなかったと思いますが……」

 まあ、そうなんだけど。


 カーリア29では、既にアウジェレの拠点を一カ所、破壊している。そして二カ所目が今回の。

 三つ目四つ目もあると考えるのが妥当だ。


「具体的には、どうする気なのですか?」

「……脱出するアウジェレがいないか探らせて、いたら追いかけさせる予定だった」

「予定だった?」

「いたでしょ、堂々と逃げて行った、一番大きい奴が」

「岩石戦艦のことですか?」

「うん」

 最初はただの攻撃だと思ったし、そういう側面もあったんだろうけど。

 あれだけの体積があるなら、中にいろいろ詰め込めるだろう。

 脱出船の可能性は否定できない。


 なので、今は小惑星周辺をまんべんなく監視させている。

 今の所、他のルートで脱出しようとするアウジェレはいない。

 岩石戦艦がハズレだったら、手がかりなしだ。


「それにデメニギス級巡洋艦はステルス性が高いから、こういうのに向いてるはず」

「しかし、単独でやらせているのですか?」

「他にいないからね」

「随分信頼しているのですね」

 まあね。信頼はしている。

 少なくとも連絡もなしに死んだりはしないだろう。


 メリウスが言う。

「戦艦型のアウジェレがいるってことは、HSコアの製造工場もあるってことですよね」

「あるでしょうね」

「あれって、金属だけでは作れないはずでは?」

「うん。ガス惑星から汲み上げているか、氷小惑星も採掘しているのか……」

 そして、採掘の後は工場までの輸送もあるだろう。

 そういう痕跡を一つ一つ追いかけて、アウジェレを狩るのだ。


 ヨーラン、ちょっと短気な所があるからな。

 こういうのに向いてるかと言われると微妙な気もする。


 しかし、ガートリクスも目ざといな。

 よくヨーランのことに気付いたものだ。

 この作戦のために造船所の予定を変更してもらったんだけど、それを見てたのかな?


(お知らせ)


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