悪役令嬢でもわかる宇宙領地経営

艦隊指揮スキルカンスト令嬢のFラン辺境開拓と領地経営
ソエイム・チョーク
ソエイム・チョーク

4-3 主導権

133 選択肢ミス(前)

公開日時: 2022年4月1日(金) 12:15
文字数:3,144


 カーリア29にやってきてから、数日が過ぎた。

 私は巡洋艦の居室で、端末に表示される情報を眺めている。

 暇だ。

 やることが何もない。

 いや、できることが何もない、と言うべきか。


「あの、お嬢様……いいんですか?」


 マルレーネが不安そうに言う。


「いや、別にサボってるわけじゃないよ。情報収集とか、いろいろやってるから……」


 ここ数日はアウジェレも攻めてこないし、戦闘もない。

 平和なのはいいことだ。

 けれど、マルレーネはそうは思っていないようだ。


「お嬢様。友達を助けるためにここに来たのですよね?」

「いや、別にそう言うわけでは……」

「そうなのですか?」


 私にとって問題だったのは、ジャンプゲートをどう扱うかだ。

 こうやって艦隊を出した時点で目的を達成しているので、別に焦って何かをする必要はない。


 今、ナニモ74にとって最悪の状態とは何か?

 それはこのジャンプゲートをアウジェレに乗っ取られて、ナニモ74にアウジェレが広がること。


 しかし、今、このゲート周辺には、多数の艦隊が集結している。

 私たちの艦隊だけじゃない。

 レティシアが連れてきたトゥシャール派の艦隊。

 そしてヤーフィン派の艦隊も。

 これだけ戦力が集まっていれば、いくらアウジェレと言えども、陥落させることはできないだろう。


 だから、現状は理想的とも言える。

 言えるのだけれど……。


「私が、友達を助けるために?」

「いえ、そういう話も流れている、というだけです」


 誰が流したんだろう?

 いや、一応私も昔は一等貴族だったし、普通に考えればそうなるか。


「まあ、そう思われるのは構わないし、協力するのもやぶさかじゃないんだけど……」

「何が問題なのですか?」

「レティシアたちの艦隊も何もしてないみたいなのに、私たちが勝手なことをするのは、よくないでしょ」

「それはそうですけど……」


 マルレーネは、納得していないようだった。


 まあ、私もこのままでいいとは思ってないけど……

 じゃあ、そろそろ作戦を立てる段階に入ろうかな。


***


 というわけで、デメギニス級の艦長室に移動。

 ホランドとヨーランも呼び出す。

 マルレーネがお茶を入れてくれる。


 ホランドは、お茶を一口飲んで、ため息をつく。


「なんか、来てから何一つ動きがないな」

「そうね」


 こっちに来る前は、もっと切迫していると思っていた。

 いや、半年以上もやってるから、日常化してしまうのか。

 私がそんな風に思っていると、ヨーランが言う。


「ねえ、こっちに来てから三日も経ったけど、何もしてない。どういうこと?」

 内容はホランドが言ったことと変わらない。

 けど、口調からは不満を感じる。


「敵の襲撃があったわけでもないし、まだこれからでしょ」

「そうだけど、攻めてこないなら、やることあるでしょ? こっちから索敵するとか……」

「それは、これからやるんじゃないかな……」


 アウジェレの生産拠点が、この星系のどこかに作られている。

 それを見つけ出して破壊して回らなければ、この戦いは終わらない。

 ただし、索敵に力を裂きすぎて防衛を疎かにすると、重要施設が破壊されてしまう。


 まず防衛を固める。

 それから索敵を考えなければいけない。

 ただし、敵は時間とともに増えていくので、後回しにしていると、対処不能な数のアウジェレが襲ってくる危険がある。

 適度にちょっかいを出して、敵を引っ張り出す必要もある。


 破壊、防衛、索敵、挑発。

 四つの行動をバランスよく行う。それがアウジェレ対策だ。

 防衛は足りているようだし、索敵は特化した船が必要らしい。

 つまり、私たちの仕事は、破壊と挑発かな。


「それで、俺たちの配属はどこになったんだ?」

「えっ? 配属? そうね……どこになるんだろう」

 私が目を逸らすと、ホランドは険しい顔になる。

「おい、それはちょっと困るぞ? 三日も経ったのに、まだ決まってないのか?」

「……そうね」

「質問状を送らないと答えを教えてもらえないとか?」

「どう、なんだろう? 私も初日に質問したんだけど、……検討するから少し待ってくれ、みたいなことを言われて、そのまま」

「返事を催促した方が良くないか?」

「うーん……」


 三日は、どうだろう?

 忘れられてるとかではないと思うし、そのうち返事が来ると思うんだけど……


「ねえ、二人とも、何の話をしてるの? その配属って何? 知らないの私だけ?」

 話についてこれなかったヨーランが、困惑している。

「ああ、ごめんね。えっと、配属って言うのは……まあ、この艦隊をどこに配置するかって話よ」

「なんで、そんなの決めるの? ここじゃダメなの? 出撃する時、狭くてぶつかるとか?」

「いや……」

 そんな駐車スペースが不足してるみたいな話ではない。


「こういう時は、ある場所に敵が来たとしても、全員で戦いに行ったらダメなの。どこでなら戦っていいのか、それを決める必要がある」

「なんで? 敵が来てるなら、みんなで戦えばいいじゃない。それとも、交代で休むってこと?」

「ちょっと違うかな」

「バラバラに動くと誤射とか衝突事故が起こるから?」

「うーん、そうじゃなくて……」


 ヨーランの言っていることは、どれも間違ってはいない。

 何も決めずに適当に戦っていると、いずれ発生する問題だと思う。

 だけど、私が言いたいことはそうじゃないんだよな……。


 説明に困っていると、ホランドが言う。

「ニュートリスでの艦隊戦でも、配属を決めたそうじゃないか?」

「ああ、あったね。アレを使って説明するか……」

 ロカールから聞いたのかな?


「この前、ニュートリスでやった艦隊戦では、私とアレクシアが攻撃担当、あなたとロカールが防御担当、マルレーネがエンケラドゥス担当だったでしょ?」

「うん」

「例えば、私たち攻撃担当がうまく攻め込めない状態になって、一方、防御担当はかなり暇だったとする。この時、防御担当の艦隊を攻撃に参加させてもいいと思う?」


 ヨーランは数秒考えた後、言う。

「それは、場合にもよると思うけど……勝手に動いたら、アンタは怒るでしょ」

「どうして私が怒るの?」

「それは、例えばメナストの艦隊が、アタシがいなくなるのを待っていて、奇襲してくるかも知れないじゃない? その奇襲が成功して負けちゃったら……勝手に動いたアタシの責任じゃん」

「ならわかったも同然ね。勝手に戦ったら怒られるのよ」


 ヨーランも頷く。

「アウジェレが、複数個所を同時に襲うかもしれないってこと?」

「そういうこと。敵が来てるからって、一カ所に全員で突撃したら、戦線がグチャグチャになる。だから、担当する戦域を決めて、分担しないといけない」

「で? その大事な配置決めが後回しになってるって、どういうこと?」

「私に聞かれても……」


 連絡が来ないんだから仕方ない。

 ただ、擁護の余地はある。


 ヤーフィン派の艦隊が来る

 一週間遅れでトゥシャール派の艦隊が来る

 その直後にゲート封鎖と再接続

 それからさらに三日が過ぎて私たちがやってきて、三日経過


 ほんの二週間の間に、片づけなければいけない案件が大量に振りかかっている。

 送られた戦力を把握するだけでも一仕事なのに、首都からの補給路が閉ざされて、内政にも悪影響が出ているはず。

 あと、私は根回しもなしに、いきなり派兵を決断した。

 決まりかけていた配置を一からやり直すはめになってしまったかも。


「事情は理解はできるが、それでも急かした方がいいと思うぞ」

 ホランドが言う。

「わかってるわよ」

「俺の親父は、新しい星系に行った時は、必ず領主と面会していたようだが?」

「面会? 私も面会した方がいいのかな? けど、そんな予定、取れるかな」


 忙しい所に時間を作ってもらうとなると、多少のコネが必要になる。


 それまで部屋の隅で黙っていたマルレーネが、言う。

「あの、お嬢様。レティシアさんとは仲がいいんですよね? 頼んだら、仲介してもらえませんか?」

「それは……うーん」


 やるだけやってみるか?


(あとがき)



「……。やっと、帰ってきましたね」

 歩くギリシャ神話みたいな服装の女が言う。

 恋愛小説の女神。おまえも帰って来るのか。


「再開って、そういうことですから」

「別にいいけど、何を話すの?」


 この前は酷い結論を出して終わったような。

 というか、恋愛小説の女神名乗るなら、恋愛小説について語れよ。


「恋愛小説について語る? 私が?」

「なんで疑問形なの?」

 一応、神を名乗ってるんだから……。


 とたん、恋愛小説の女神の瞳から、光が消えた。


「最近のなろうでは、探しても恋愛小説が見つかりずらいですね」

「え?」

「特に、異世界恋愛……人を見捨てる時に放つような言葉を、タイトルにしている小説が、非常に多いです」

「……」

「あれって、本当に恋愛小説なのかな……ジャンル設定を、間違えているのでは?」

「……そうね」

「昔は良かった。ちゃんと長編を書く人たちがたくさんいて、その中で面白いのが上がって来ると言うシステムが、ちゃんと機能していた」

「時が流れれば、トレンドなんて変わる物でしょ?」

「それはそうでしょうけど……スカッと一発芸の短編がたたき売りされてる現状は、何か違うのでは?」

「……まあね」

 あれはもう、どうしようもないのかな。


「一方で、現代恋愛は、まあ、読めなくもないですが、昔から相変わらずって感じですか……」

「そう」

「これは、なんというか、ラノベとかでよくある、高校生ラブコメ系が流れ込んでいるんですかね? たぶん、男性向け。まあ、別にいいんですけど……」

「そう……」

 求めてるのは違うのかな?


「まあ、その辺りについては、余裕がある時に話しましょう」

「余裕?」

「あと、連載は再開するけど週一更新になるそうです」

「本当に余裕あるの? ストックは?」


 恋愛小説の女神は無言で空中を指さす。

 そこに文字が書かれていた。


『およそ一か月で2話ぐらい書いたよ』


 おいおいおい……


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