悪役令嬢でもわかる宇宙領地経営

艦隊指揮スキルカンスト令嬢のFラン辺境開拓と領地経営
ソエイム・チョーク
ソエイム・チョーク

閑話 あとかたづけ

公開日時: 2021年3月5日(金) 12:15
文字数:1,687

 メナストを追い返してから数日。

 あちこちの建設や輸送船の運行も、二、三日は混乱していたけれど、ようやく普段通りになった。

 それで、私もちょっとは暇ができた。


 寝室の隅に観葉植物を置いてみることにした。

 高さ一メートルぐらいのゴムの木の鉢植え。

 このゴムの木は、マルスド園芸店で育成してもらった。


 ゴムの木は、部屋に置いておく観葉植物としてはなかなかお手頃だ。

 鉢植えの中には、土の代わりに特殊な樹脂が入っている。

 指を突き刺すと穴が開くぐらい柔らかくて、吸水性や通気性も高い。


 本当は土を使った方が育ちやすいんだけど、樹脂のやつだと、ひっくり返しても散らばらないから都合がいい。

 なにかの事故で人工重力が消えた時でも、飛び散ったりしないで済むので安心、らしい。

 いや、人口重力が消えてる時点で、安心も何もないんだけど。


「よっ、と」

 ……結構重いなこれ。


 部屋の隅に設置して、少し離れた所から眺める。

 いい感じだ。

 もう一本発注して、次は執務室にも置いてみるのもアリかな。

「うん。ようやく私の部屋らしくなってきたわね」

 満足した私が言うと、マルレーネも頷く。

「いろいろと、長かったですね」

「ここに来た時は、本当に何もなかったからね……」

 まさか部屋すらないとは思わなかったけど。


 ふと、マルレーネが思い出したように言う。

「そう言えば、スクラップヤードはどうするおつもりですか?」

「うーん。どうしよう?」


 あれは悩みの種だ。

 早く片づけないといけないことはわかっているんだけど、あちこちに優先しなきゃいけない作業があって、手が足りない。

 また作業ドロイドの追加をおねだりしてみようか?

 でも、ドロイドが増えてもそれに命令を出すザストたちが追いつかないと結局無意味かな?

 じゃあ、作業員も増やそうか?

 しかしその要求を出すと、マッキンタイアは「建築のペースを早めて見ましょう」とか言い出すだろう。ちょっとまずいな。


 鉢植えにジョウロで水を掛けながら、ふと思いつく。

「いっそ、誰かに売っちゃおうかな」

「買う人なんて、いるんでしょうか?」

「ちょっと直すだけで動くようになる船よ。安ければ買うって人もいると思うんだけど……」


 ホランドは、チョーブル系の船はいらないと言っていたが、欲しい人だって探せばどこかにいるだろう。

 無傷で奪った船も多いんだから、そこそこ価値はある。

 ニュートリスでオークションにかければ、買い手もつくはず。


 アレクシアの自己転送艦は、ちょっと扱いが違うかもしれない。

 この前、ザストはHSハイパースペースコアを一個取り外したとか言ってたけど、その外した一個はマッキンタイアや開発局を通じて、ミスク帝国の研究所に持ち込まれたらしい。


 HSコアは国家の機密情報の塊だ。

 元となる技術は数百年前に旧帝国で作られた物。ミスク帝国にも設計図が伝わっている。

 けど、旧帝国が崩壊してから300年も経つと、どこの国も再設計を繰り返していて、作られた国によって違いが出てくるらしい。

 それを分析して、いい所は真似して、悪い所は外部から弱点を突けないか研究する。

 あれをオークションにかけるのは、ちょっとまずいかな。


 他の船? あちこちで鹵獲されてるから、研究所は興味がないってさ。


「売ってお金が入ったら、何か買えるかな」

「お嬢様。サキア様に返さないといけないお金が……」


 ああ、そうだった。私はお義母様に借金があったんだっけ。


***


 その後、スクラップヤードの船は無事に完売した。


 中でもいい値段が付いたのは、アグラヴェイン級狙撃駆逐艦だ。

 これはニュートリスの商人を経由して、最終的にチョーブル帝国に持ち込まれたらしい。

 チョーブル帝国から鹵獲した船をチョーブル帝国に買われるって……もうそれ、ただの身代金では?


 というか、チョーブル帝国だとしても、アグラヴェイン級みたいなマニアックな駆逐艦を欲する人なんて、そんなにいるのだろうか?

 エグリンみたいな変態エスパーでもなければ使いこなせないような物を?

 これは、どう考えても、メナストが……。


 ま、私の知ったことじゃないか。


 ちなみに売上金は星系開発費(皇帝から借金)の返済に使われて、私の手元には1クレジットも入って来なかった。残念。

(あとがき)


 今はいつで、この空間はどこなのだろう?


「そろそろ結論を出す時期かも知れませんね」

 妙なキラキラを背負ったギリシャ神話みたいな恰好をした女が、そこにいた。

 またかよ。


「あ、もしかして私が誰だか知らない人もいます? 恋愛小説の女神です、以後お見知りおきを」

 ……誰に自己紹介してるんだ?

 まあ、こいつはいつも言ってることがおかしいからなぁ。


「さて、クルミア・ティブリス。そろそろ問題の本質に迫って行こうと思います」

「……何の話?」

「あなたが悪役令嬢の条件を満たしていない、という話です」

「まだやるの?」

「今度は、悪役令嬢物のストーリー構造を分析します。物語の終わりには婚約破棄と断罪が待っています」

「はぁ……」

 断罪って何だっけ? 正ヒロインを虐めたとかの話?

 私は何もしてないけど……。


「破滅に対する悪役令嬢側の選択は主に二種類です。一つはそもそも虐めをせずに清く正しい生活を送ることで破滅を回避するタイプ。長編向きです」

「うん」

 私が清く正しく生きても、親がね……。

「もう一つは、婚約破棄を告げられた後に、虐めの部分に関して反論するタイプです。原始的裁判での勝訴を狙うわけですね。これは短編向きです」

「裁判?」

 なんか言ってることおかしくない?


「私、随分前に婚約破棄されて僻地に送られてるんだけど?」

「そうでしたね。もはや手遅れと……」

「……」

 何がどう手遅れなのか、よくわからないんだけど。

 どうせ、これも説明してくれないんだろうなぁ。

「メタ視点で見ても手遅れということです」

「……」

 説明するなら、私にわかるように言って欲しいなぁ。


「実は、第三のタイプとして、復讐ルートというのもあるんですよ。やってみますか?」

 え? 復讐?

「何で? っていうか、誰に?」

 私の場合、どっちかというと、連座処刑されなかったことを感謝する側の可能性すらあるんだけど?

「……あっ。復讐はアレと被るからダメですね。やっぱ今のなしで」

 はぁ?


「それと、来週から新章が始まるけど週2更新になります。ではまた」

 え? どういうことなの?

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