悪役令嬢でもわかる宇宙領地経営

艦隊指揮スキルカンスト令嬢のFラン辺境開拓と領地経営
ソエイム・チョーク
ソエイム・チョーク

1-3 メナスト・ラスティザーグ

023 宇宙戦艦、襲来

公開日時: 2021年1月31日(日) 13:10
文字数:3,979


 やばいことに気づいた。

 この星系は、開発開始からもうすぐ、4か月が経つ。

 私が着任してからカウントしても3か月半。

 つまり、皇帝クエストの最初の半年目標を迎えようとしているのだ。


 要求されるのは、本部ステーションの完成、基本建材の製造開始。ここまでは終わっている。

 そして問題は最後。農業ステーションの稼働、五万人の労働人口。

 間に合うかな?


 銀縁メガネにお伺いを立ててみる。

「まず、そんなに人いないんだけど、どこから連れてくればいいの?」

「開発局が、調達します」

「ちょ、調達って言った?」

 そう言えば、私、あんまり気にしたことないけど、星系領土の人口って、どこから出てきてたんだ?

 畑からとれるような物ではないよな。


 困惑する私に、銀縁メガネは教えてくれる。

「単に移民を募集するだけですよ。貴族のあなたが知らなかっただけで、平民の間では常時募集の広告が流れています。ただし、今回はペルト系列からの移民だけは別の星系に回される予定です」

「え、ペルト系列の人たちも移民してたの?」

「ペルト系の移民は、モチベーションが高いので、あちこちで重宝されていますよ」

「そ、そうなんだ……」

 銀縁メガネの生暖かい視線がつらい。

 なんでモチベーションが高いんだろうねー。そんなにペルト星系に帰るのが嫌なのかなー。私も帰りたくないけど、たぶんそれとは違う理由だよね……。

 もしかして、長年にわたってこうやって優秀な人材が流出していったから……いや、考えるのはやめよう。私にはもう関係ない。

「ところで、私の評判、低いかもなんだけど、人集まるの?」

「どうでしょうね。開発局の都合で頭数が足りなかった場合、あなたにペナルティーは発生しないので気にする必要はありません」

「そう……」

 足りなくなる可能性はあるのか。

「こちらの仕事の心配は不要です。あなたはハードウェアを用意すればいい。農業ステーション、間に合いますか?」

「四万人なら、いけると思う」

 収容人数二万人のステーションを、三つ作っている。

 三つ目の工事が間に合うかがギリギリ。

「不安要因は、そこですね」

「ねえ。一つのステーションに二万五千人を押し込むってのは、ダメ?」

「あまり好ましくないですね。それに、半年後に十万人の目標がありますよ?」

 休ませてはもらえないのか。

「その次は二十万人。それが終わったら要塞化した工場とジャンプゲート。終わりなどありません」

「無限に増えていくわけじゃないでしょ」

 いくら帝国が広大とは言え、人口は畑から生えてくるわけじゃない。

「8年目の目標が一億人で、そこで終わりです。あとは、問題が起こらなければ、時間が解決してくれるでしょう」

「そう……」

 一億人か。遠いなぁ。箱を用意するだけでも大変そう。


 人口は、国力だ。

 仕事は作業ドロイドに押し付けることができるけど、ドロイドに命令を入力する人間は必要だ。

 あと、兵器の操作。

 無人の戦闘艦は存在してはいけないことになっている。これは旧帝国が崩壊した後に、追加されたルールだ。人工知性に対する不信はかなり根強い。


 というわけで、人口を増やすのは国是になっているのだが……。

 一億人、全員他所から連れてくるの? 八年じゃ新しく生まれる人間もそんな多くないと思うし……意味あるのかな。


 まあ、ミスク帝国はそのやり方で数百年やってきたんだから、私が意見する必要はないか。


「それと、コンテナが届いています。いつ送りますか?」

「コンテナ、何それ?」

「……マルスド園芸店の追加貨物、とのことです」

「ん?」

 なんかあったっけ?

「あなたが要求していたけれど、なかなか許可が下りなかった物体の話です」

「あ、ああ……あれのことね。それの扱いは、ザストの方が詳しいと思う」

 ステルスコンテナ。ようやく届いたのか。


***


 リブルーが去ってから、二週間ぐらい過ぎた頃に、それは来た。

 私は、執務室に走る。

「はいはい、今度は何が来たの?」

「第四惑星の近傍に、正体不明の自己転送艦が出現しました」

 うげぇ。とうとう来たか。

「敵の戦力は?」

 また巡洋艦か何かだろうと私は思った。この前は18隻だったっかな? あと、駆逐艦とコルベット。

 だが、オペレーターは緊張した声で言う。

「自己転送艦1隻、戦艦1隻、巡洋艦6隻、駆逐艦12隻、探査船1隻、輸送船10隻です」

「は?」

 戦艦だと?

「種別はキラスティート級と思われます」

「西方造船所の高級量産型じゃん!」

 チョーブル帝国の貴族が旗艦に使うような船だ。

 こんな所をうろついてていい物じゃないんだけど?


 何にしても、戦艦はまずい。

 単に駆逐艦とか巡洋艦とかが大きくなって出てきた、というのとはわけが違う。


 戦艦は、自前のジャンプドライブを備えた移動式の戦闘プラットフォームだ。

 全長は1000メートル前後。

 火力と装甲は駆逐艦や巡洋艦の比ではない。

 それに加えて、大体の場合は荷電粒子砲を標準装備している。輸送船アタックを仕掛けても、一発で撃ち落とされてしまう。


 向こうがトーチカの攻略を始めてくれれば、対等な戦いになる可能性はある。

 ただし、戦艦一隻だけでは、トーチカ相手には戦力不足だ。

 リブルーの報告を受けていると仮定した場合、もっと戦力を持ってきてもおかしくないんだけど……。

 トーチカの射程内には入って来ないと思った方がよさそうだ。


 つまり、こちら側の戦力では絶対に沈められない、ということになる。


 でも、戦艦を無視すれば、残りの戦力はこちらの艦隊とほぼ同じ。

 いや、この構成は……わざとこっちの艦隊に数を合わせている? 偶然、じゃないよな? なんで?


 あと、探査船と輸送船ってなんだ?

 まさか、敵も無人輸送船アタックを仕掛ける気か?

 ……いや、私があんなことをしたのは、戦力を用意できなくて苦し紛れの反撃だった。

 敵は違う。ちゃんと準備する時間があったはずだ。

 意味がわからない。


 出現場所も妙だ。

 何も考えずにジャンプしてきたなら、前回と同じような何もない宙域に出現したはず。

 それが第四惑星の近くに来た。

「まさか、衛星の収容所が目的なの?」

 仲間を救出しに来た、ということはありえる。


 なんでバレた?

 収容所がどこにあるか、見抜かれるようなヘマをした覚えは、……なくもない。

 星系にある宇宙ステーションの数と規模を見れば、その中に収容所が存在しないのは明白。

 そしてリブルーが滞在している間に、私は収容所にも一度足を運んでいる。その動きが全て見られていた?


 だとすると、敵の狙いはアレクシアの奪還かな?

 それだけは阻止しなければ。

「……収容所の警備員に連絡。アレクシアを外に連れ出して。たぶん交渉に使えるわ」

「暴動が発生しませんか?」

 オペレーターの懸念は当然だ。

 下手をすれば、何が起こるかわからない。

 こちらの警備員は武装しているけど、海賊たちの動き次第では、血の道を開くことになるだろう。あいつらは模範囚に近いので、それは避けたい。

 それに万が一武器が奪われたりしたら目も当てられない。

「収容所の海賊たちは、外の状況を知る必要はないわ。私が呼んでいるとか言って、適当にごまかして、とにかく収容所の外まで連れ出して」

「わかりました」

「それと……、強制終了装置をスタンバイ。確認後に、職員は退避」

「きょ、強制終了装置ですか? それは、作動させると、収容所内部の全員が死亡する、あの装置のことで間違いありませんね?」

「それで間違いないわ」

 他にあってたまるか。

 とにかく、海賊たちをチョーブル帝国に帰すわけにはいかない。たとえ殺してでも、阻止しないと。


 私が次の手立てを考えていると、オペレーターが慌てた様子で報告してくる。

「……あの、マルスド園芸店の職員が20名ほど、収容所に入っているようですが?」

「なんですって?」

 ラキンの部下か。何やってんだ?

 あ、綿花の育成を指導しろって言ったのは私か。

 しかし、こんな時に……。

「退出させなさい。なんかあるでしょ。種子の保管庫で火災が発生したとか嘘をついて……あ、ちょっと待って! ダメだ! 今のなし!」

 やばいやばい。

 とんでもない命令を出すところだった。

 私は深呼吸して、心を落ち着ける。


 ちょっと海賊視点でシミュレートしてみよう。

 最初に、よくわからない理由でアレクシアが連れ出される。次に警備スタッフの姿が消える。そしてマルスド園芸店のスタッフも緊急事態で呼び出される。

 この状況になったら、海賊はどう考える?

 よほどのバカでなければ、自分たちが皆殺しにされる可能性を考え始めるのでは?


 じゃあ退出の順番を変えるか?

 マルスド園芸店を先に逃げさせてから、アレクシアを確保して……いや、アレクシアを連れ出すのをやんわり妨害されるには十分な状況だ。


 じゃあ、アレクシアを交渉材料にするのを諦めようか?

 でも、敵の考えが不明すぎる。使える手札は減らしたくない。


 マルスド園芸店のスタッフを見捨てるか?

 そんなことをした場合、ラキンは私を許さないんじゃないか。

 ……それでも、敵との戦いに負けて全滅するよりはましか?

「あ、ダメだ。お義母様の耳に入ったら私が処される」

 マルスド園芸店は、建前上、お義母様の管轄にある。

 軽視できない。


 アレクシア確保、海賊の拘束継続と強制終了、マルスド園芸店スタッフの脱出。

 三つを全部達成できる方法、なにかないか?


 ……一つだけ、可能性があるか。


 私はため息をつくと、ホランドに連絡を入れる。

「ホランド。傭兵は今どんな状況?」

 画面の向こうはヘテルルス級のブリッジ。慌ただしく出航準備が続いている

「出撃準備中だ。急がせた方がいいか?」

「今のまま続けて。それより、指揮権を誰かに移譲して。あんたには、やってもらわないといけないことがある」

「なんだ? また自己転送艦のエンジンを破壊しに行くのか?」

「違うわ。モーターカッター、今すぐ動かせる?」

 ホランドは数秒、沈黙した。

「意味がわからん。おまえ、何を考えてるんだ?」

「収容所に、私が行く必要があるの」



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