悪役令嬢でもわかる宇宙領地経営

艦隊指揮スキルカンスト令嬢のFラン辺境開拓と領地経営
ソエイム・チョーク
ソエイム・チョーク

010 艦隊決戦

公開日時: 2020年11月21日(土) 20:17
更新日時: 2021年1月4日(月) 20:22
文字数:4,079


 傭兵艦隊は、海賊艦隊の後方に出現した。

 こちらの戦力は、巡洋艦6隻、駆逐艦11隻。

 巡洋艦はオネイロス級。尻尾の代わりに五本のラッパが生えたイルカ、といった形状。

 駆逐艦は……統一感がない。縦長のやつとか、箱みたいなのとか、蒸気機関車みたいなのとか、いろいろ。


 そして海賊側の戦力は、巡洋艦18隻、駆逐艦8隻、コルベット8隻。

 こちらは……どれもこれも統一感がないが、どこか直線的なデザインが目立つ。


 自己転送艦を取り囲んでいる海賊艦の半数は、最初からこちらを向いていた。

 一度目も後ろから仕掛けたから、用心はしているよね。

 でも、その並びは乱雑だ。何かの陣形を成しているようには見えない。


 一方、傭兵側は数こそ少ないが、登場時から陣形を組んでいる。

 ミサイル駆逐艦を前面に並べて、火力で初戦を押し切る形だ。

 傭兵たちは私が指示しなくとも、着々と進めていく。


 ここは副長もしっかりしてるな。ホランドが自信を失くすのも、わからなんではない。

「一番近い巡洋艦をロック。ターゲットペインター起動」

 傭兵の巡洋艦が、敵の巡洋艦に照準用レーザーを放つ。これはミサイルのロックオン用。

「駆逐艦隊、ミサイル射出」

 11隻の駆逐艦から放たれるミサイルが、一隻の巡洋艦に殺到する。

 海賊艦の側も、妨害装置をばらまいてミサイルを逸らそうとするが……こちらのミサイルは、巡洋艦からレーザー照射を掛けている。攪乱はほぼ無意味。

 迎撃もほとんど間に合わず、多数のミサイルが直撃し、閃光が瞬いた。

 爆発が収まった時、そこには、残骸だけが漂っていた。

「海賊艦、轟沈」

 まずは1隻。

 海賊側は慌てたように陣形を整え始めるが、傭兵側の巡洋艦が、レーザー照射を開始する。

「次の攻撃で残りのミサイルを全て発射。攻撃終了後に駆逐艦は散開して後退」

 またミサイルが放たれ、爆発が起こる。

 攻撃を受けた海賊の巡洋艦は、爆発が収まった後でも、まだ原形は残っていたが。

「敵巡洋艦からのアクティブレーダー信号が消失。機能停止した模様」

 これで2隻。

「手際が良いわね」

 私は思わず呟く。

 18隻ある巡洋艦のうち2隻を1回の攻撃で沈めたわけだから……あと8回繰り返せば、巡洋艦はいなくなる。

 もちろん、実際にはミサイルの在庫が足りないし、毎回奇襲が成功するとは限らないし、そんなやり方を繰り返しても駆逐艦が無傷で済むとは限らない。

 ただ、海賊側も同じように考えたなら、士気は下がっているはず。


 敵の駆逐艦とコルベットが、前に出てくる。

「D3がレーザー照射を受けています」

 狙いはこちらの駆逐艦らしい。

「発信源に砲撃。揺らして照射を妨害しろ」

「ダメです、発信源が少なくとも三か所……」

「……駆逐艦の方を狙え」

 傭兵側の巡洋艦がレールガンを掃射。これは着弾まで少し時間がかかる。

 一方、海賊側の駆逐艦とコルベットがミサイルを連射し始める。

 そのミサイルに、レールガンの弾幕が突っ込んだ。

 あちこちで誘爆が起こる。爆発の中、海賊側の駆逐艦が一隻、大破した。

 一方、残りのミサイルは、傭兵の駆逐艦に殺到して爆発。……あれは痛そう。

「D3中破……」

「早く後方に下げさせろ。戦闘続行」

 ここで私は口を出す。

「いえ、十分よ。D3はそのまま戦闘から離脱させて」

 傭兵に被害が出るのは嬉しくない。

 それに、こっちの戦いは勝つことが目標ではない。体を張りすぎるのはよくない。

 傭兵の駆逐艦隊は、どうにか後退に成功。D3は撤退し、残りの10隻は後方でミサイルのリロードに入る。


 一方、海賊側の巡洋艦に動きがあった。

 自己転送艦の向こう側にいた巡洋艦が、こちらに近づいて来る。

 戦力を集中されたら、こちらは圧倒的に不利だ。

「……全周防御は不要、って考えたのかしらね?」

「実際、こちらは全戦力を出していますからね。でも、あれが集結したら、耐え切れませんよ?」

「少し下がりましょう……」

 私はヴィジャボードを操作して、艦隊を並べ直す。予定とは少し陣形が変わる。

 海賊側の巡洋艦は、どれも同じ辺りを目指して動いているようだ。

 一点に集結させるつもりらしい。

「おかしいな。いくらなんでも無防備すぎる……」

 別動隊がいるかもとか考えてないのか。油断しすぎだよなぁ。


 海賊の巡洋艦、先に目標地点についたらしい物が、こちらにレールガンを撃ってくる。

 すぐにシールドを貫通されるほどではないけど、撃たれ続けるとまずい。

「C3を少し前に、他の巡洋艦は少し後退」

 やや陣形が崩れる。

 あまり下がり過ぎると、後ろで待機している駆逐艦にぶつかるから気をつけないと。


 海賊のコルベットが前に出てくる。

 巡洋艦を避ける様な、少し遠回りの軌道。後ろの駆逐艦のリロード作業を妨害する気か。

「砲撃で足止めして。相手が止まったらC3を後退」

 コルベット隊もそこまでやる気ではなかったのか、わりとあっさり諦めた。


 駆逐艦のリロード状況は……あと五分ぐらいかな。

「今のうちにEMPドローンを放出しといて……」

「EMPドローン放出……、予定より早いのでは?」

「相手がイノシシ過ぎる。たぶん、今出さないと間に合わない」

 私は、ヴィジャボードを見渡す。

 他にどれぐらい予定は変わったんだろう。

 いつの間にか、敵の駆逐艦が下がってる。ミサイルのリロードなのか、巡洋艦が抜けた穴を埋めるつもりなのか……。

 そして巡洋艦の終結具合は、あと5隻か。そろそろまずい。

「敵の迎撃体制に変化。EMPドローンが落とされています」

「EMPドローンの一つを作動させて、敵のレーダーが混乱した隙に残りを予定の配置にセット」


 ほぼ同時に、駆逐艦のリロードが完了する。

 私はこのミサイルをいつ撃つのがいいか、アイディアを数パターン検討した。

 うん。待ってても意味がないし、さっさと撃っちゃおう。

「ミサイルは今すぐ撃つから、発射可能位置に移動」

 巡洋艦を左右に分けて駆逐艦の通り道を開ける。

「レーザー照射はあえてC2のみで実行して。C4とC5は照準だけ合わせて、私の指示の後に照射」

 予想通り、海賊はC2を狙い撃ちしてきた。

 着弾の振動でC2の放つ照準レーザーがぶれて、見当違いの方向に飛んでいく。

「C4とC5はレーザー照射を開始。駆逐艦は上下に別れて敵との距離を保ちつつ離脱。十五秒後に全てのドローンのEMPを発動。C2は後退」

 今、私、いくつ指示出した? 四つか……多すぎたかな。

 ヴィジャボードの中で、傭兵艦隊は滅茶苦茶な動きをしていた。統一感が欠片もない。

 そしてEMPでこちらのレーダーも乱れる。

 隣に立っている副長が、小声で言う。

「……敗走しているみたいですね」

「見た目だけはね」

 私は苦笑いする。


 敗走の演技をして敵を油断させるのも、わりと古くからある戦術の一つだ。

 ただ、失敗例も多い。

 失敗の原因は単純で、連携が取れてないとか、味方が本当に敗走していると勘違いして自分も逃げたとかだ。

 通信体制が万全なこの時代でも、理性ではわかっていても、陣形がこんな風になるのはやっぱり怖い。

 EMPの効果が切れる。

 ほぼ同時に、遠くの方で爆発が起こった。

「ミサイル着弾。敵の巡洋艦、中破」

「ダメか……」

 撃沈まではいかなかった。

 巡洋艦が集結してると、ガーゴイル(ミサイル迎撃用のミサイル)とCIWS(同機関砲)も数が増えるからなー。ミサイルの効果も今一つだ。

 EMPの中でもちゃんと迎撃してくるとは、手練れだ。

「C4、C5も後退……」


 海賊の巡洋艦、16隻全てが集結した。

 こちらに側面を見せて、縦三段に整列し始める。

 陣形、というほどでもない。単に全艦で砲撃を仕掛けてくるだけだ。

 傭兵側で、射程にギリギリ入っているのは……戦闘開始時から動いていない2隻の巡洋艦だけ。片方は、今私が乗ってるこれなんだけど。

「後退! C1は右上、C6は左下」

 逃げるルートは開けてある。

 巡洋艦が被弾したのか、床や天井がガタガタと揺れる。

「C1小破。後方シールド発生装置、ダウン」

 ああ、これはマズイ。エンジンがむき出しだ。

「妨害系ばらまいて! 全力で逃げて!」

 普段から、味方を酷使しないようにするのは大事だ。

 こういう時、自分が乗っている船を逃げさせても不自然じゃなくなるからね。


 しかし、これで全ての船が、海賊艦隊から離れる動きをしている状況になった。

 いや、さっきは演技って言ったけど、これって本物の敗走と何が違うのかな……。

 どう見ても、普通に負けてるよね。


 私は隣にいる副長に聞いてみる。

「敵は、深追いしてくるタイプだと思う?」

「どうでしょう。さっき、イノシシと言ったのはあなたですが。特に反論はしませんよ」

「そうね……」

 実際、追ってくると思う。

 でも、敵が都合よく動いてくれることに期待してはいけない。

「全艦、再集結のポイントは、ここ」

 敵の巡洋艦の射程から大幅に離れた所に、船を集める。

「急いで駆逐艦のミサイルをリロード。もう一度攻撃を仕掛けるわよ」

「あの、リロードが終わる前に輸送船が……」

「いいから、やりなさい」

 この種の演技で手を抜いてはいけない。

 さてと、あとは敵の動きをよく見て、防御すればいい。

 海賊は次にどうするかな? まあ、巡洋艦が前進してくるだけだと思うけど。

「敵駆逐艦が前進! ミサイル攻撃が目的と推測」

「え、嘘でしょ……」

 仮に私たちを殲滅する気だとしても、16隻の巡洋艦だけでオーバーキルできるのに?

 これ、アレクシアが指示出してんの? バカなの?

 副長も困惑したように、私を見る。

「……どうしますか?」

「ミサイルを撃たれたら、迎撃すればいいんじゃないかな。……大事なのは巡洋艦の動きの方でしょ」

「そうですね」

 とはいえ、海賊の自己転送艦は、完全にがら空きだった。

 駆逐艦を突撃させられないのが残念だ。


 そして、無人の輸送船とヘテルルス級が、自己転送艦の側面に出現する。

「やっと来た! 全ての作業を中断。撤退に移るわよ!」

 当たっても、当たらなくても。もう私たちが戦う意味はない。

 異常を察知したのか、海賊艦隊の動きも乱れ始める。

「殿はC4とC5。輸送船が衝突した時の爆発を観測したら撤退」

 二隻の巡洋艦を残して、傭兵艦隊はインパルスドライブに向けて助走を開始。

 やれやれ、どうにか生き残ったか……。


読み終わったら、ポイントを付けましょう!

ツイート