王都追放

「何か裏があるんです。私達が気付いていないだけで、大きい謎が隠されてあるんです。」
伊砂リオテ
伊砂リオテ

第3話 壁の中の村

公開日時: 2023年1月31日(火) 22:01
文字数:2,015

壁の上に立つと、風を強く感じた。

身体の違和感はなく、有り余る程だ。

「マール、この身体強化はいつまで持ちますか?」

「脚だけだし、ちゃんと時間も掛けてやったから、まあ五分程度はそのまま持つと思うよ。」

五分程度もあれば、簡易的な偵察は出来るだろう。

まぁ、上から覗き見るだけなのだが。

壁の太さは三メートル程で、立つ場所の余裕はある。

「さてさて、壁の中はどうなってるのかな〜?」

マールが壁の上から見渡す。

アレグリアもマールに習い、目を向ける

壁の中には幾つか家屋があり、川があり、

小さく人が見えた。皆幸せそうに暮らしている。

「普通の村だね。」

「そうですね。――いや、待って下さい。この壁の中に川があるのはおかしくないですか?」

「確かに。どうやって外と繋がってるんだろう。」

「ふむ……。まぁ、魔力を使ってるのでしょうね。そういうことが出来る人がこの村にいてもおかしくないです。」

アレグリアは村の様子を注意深く観察する。

何か怪しいことをしている様子もない。

「マール、降りてみましょう。」

「今降りたら、またここに戻るのに数分掛かっちゃうけど大丈夫?」

「大丈夫でしょう。話を聞いてみます。マールは残っていても構いませんよ。」

「もう、私もいくよ!アレグリアの強引野郎!」

アレグリアは罵声を耳にしながら、飛び降りた。

強い風を浴び、地面が近付いて見える。

そして、僅かな衝撃を脚に感じた。

その僅かな衝撃と似合わない轟音が響く。

遅れてもう一つ轟音が響き、砂埃が舞う。

ふと前を見ると、一人の男がいた。

「お前らっ、かべ、どこからっ!」

「慌てないで下さい。攻め入ってきた訳ではありません。」

「ああぁ…、ランド!ランドぉぉぉぉぉ!!」

「ちょっとちょっとぉ。……行っちゃった。アレグリア、やっぱり行かない方が良かったんじゃない?」

「まだ話を聞かないことにはわかりません。」

とはいえ、先程の男の動揺はとてつもなかった。

余程この村に来客が来るのが珍しいのだろうか。

――こんな壁があれば当然か。

アレグリアはそう考えながら、

ランドという人を待つことにした。

恐らく人の名前だろう。

「ランド……土地でも買わさせるのかな?」

マールがひとりごつ間、アレグリアは村の風景を見る。

壁の中、アレグリア達の前に広がる風景は

点々と家屋があり、畑が広がっている。

辺鄙なところではあるが、良いところだと思った。

「あっ、こんにちは〜、ブリムオン国の騎士団です。」

マールが何か発している。

見ると、数メートル先の前方に一人の少女が立っていた。

少女は茶髪のショートで、表示は険しく見える。

「私はアレグリア、彼女はマールです。少しお話をさせて頂きたいのですが。」

アレグリアが紹介する間も、その少女は押し黙っていた。

「貴方がランドですか?」

根気強く話しかけるが、反応はない。

突然、少女は片手を大きく振った。

それと同時に、視界を岩壁が埋め尽くさんとしていた。

岩壁は縦に延びていっており、

閉じ込められるとアレグリアは瞬時に悟った。

岩壁はアレグリアを囲うようにドーム状に生えており、

マールがどうなっているかは確認できない。

――どうやら、話し合いは出来ないらしい。

アレグリアは帯剣を抜き、剣を縦一閃に振るう。

同時に雷鳴が鳴り響き、

バゴンッという音ともに岩壁が縦に割れる。

「ランドさん、ですよね。戦うつもりはありません。ですのでどうかお話を――」

「よそ者の話は聞けません!」

ランドらしき少女が両手を前に伸ばすと

ランドの両極から蛇のような岩が二つ延び、

アレグリアに岩が襲いかかってくる。

アレグリアは身を翻し、躱す。

速度はなんとか目で追える程だ。

「ですから、戦いに来た訳では――」

「すみませんが、帰って下さい!」

「そんなわけにも行かないんだよね〜、私達寝床を探してるんだ。」

マールはいつの間にか、

岩壁のドームから抜け出していた。

岩壁に傷一つ付けることなく、どうやったのだろう?

「それならすみませんが、ワンス村では無理です!」

距離が離れているのに、少女が声を抑えて伝えてくる。

とにかく、この壁の中の村はワンス村というらしい。

「どうしてですか?訳を知りたいのですが。」

「無理です、そういう掟なんです。」

「ねぇランドちゃん。もっと大きい声で話してよ。」

マールが声量を抑えているらしいランドに呼び掛ける。

どうやら訳ありらしい。

「どうしても教えてくれないのですか?」

「はい、すみません。」

「なら、私達と戦って、私達が負ければ大人しく出ていきます。なんなら煮るなり焼くなりしても構いません。ただし、貴方が負けたらこのワンス村について教えて下さい。」

「ついでに寝床もね!」

マールが横から付け加える。

ランドより更に奥を見やると、

怯えた表情の村人達が何人も

私達を盗み見しているのが見えた。

ランドはその村人達を確認した後に

「わかりました、騎士団だかなんだか知りませんがワンス村のために倒してやります!」

遠方での初めての騎士団活動の火蓋が切られた。

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