碧天のアドヴァーサ

人として生きるのか、兵器として生きるのか。
ヨルムンガンド
ヨルムンガンド

成長

公開日時: 2020年9月16日(水) 21:10
文字数:2,778

 次の日、クリネはほんの僅かな不安を抱きつつ、集合場所となっていた公園へと足を運んだ。


 樹木が道に沿って植えられ、広場や、噴水、スポーツのできるスタジアムなど、豊富な設備が地域住民に好評である。


 クリネの自宅は、この公園に近く、この場所を提案したのも彼女だった。



 因みに、彼女は私服を着ていた。



 白地に、青の縦ストライプが入ったシャツワンピース。季節は春とはいえ、まだ肌寒さを感じるのでネイビー系のコートを羽織はおる。


カジュアルになり過ぎたかと思い、大きめのトートバッグもコーデの中に組み込んだ。


 靴は、落ち着いた色合いのスニーカー。そして左腕には、明らかに実用性よりもファッション性を優先した小さな腕時計があった。




 そして待ち合わせ場所には、予定時間の5分前に着いたというのに、やはりこちらも私服のルクの姿があった。



 ベージュのステンカラーコートの下に、春物のパーカーを着ている。下は細身のデニムパンツ。これにより、|所謂《いわゆる》Yラインシルエットが形成され、大人びた印象を纏っている。


 出会った時から、ずっと《《独特なデザインのネックレス》》は身につけている。それが、着こなしにとって、良いアクセントとなっている。



 「あっ、待ちました?」


 「大丈夫です。僕も、今来たばかりですよ」


 このやり取りは、傍から見ると《《付き合っている男女》》と思われるのを2人は気づいていない。

 

 「似合ってますよ、そのネックレス」


 「ほんとですか?」


 取り敢えず、褒めることにした。ずっとつけているということは、それだけ大切なものなのだろう。


 会話のきっかけにでもなればと思ったのだ。


 「これ、自分の師匠の手作りなんですよ」


 「へぇー、器用なんですね。その師匠さんは。きっと繊細な方なんでしょうね」


 「アハハ……」


 ルクの笑いが少し引き攣っていたようにも見えたが、気のせいだろう。






 そのあとも、他愛ない会話を続けた。


 キリのいいところで、クリネが最も聞きたかった話題を始める。


「それで、どうだったんですか?ハンターにはなれたんですか?」


 どうしても、少し嫌味っぽい声音になってしまう。

 

 言外に、ハンターになるのは無理だっただろう?と言っているようなものだ。


 それくらい、ハンターとは一朝一夕になれるものでは無いのだ。


 だが、彼の反応はクリネの予想を遥かに裏切るものだった。




 「ええ、なれましたよ。それも、筆記試験は省略してもらいました」




 軽く言葉を失うクリネ。


 目の前の少年は、「朝食にパンを食べました」と言うくらいの気軽さでものを言っている。


 (わ、私のあの努力はなんだったの?)

 

 現実が受け入れられなくて、困惑するクリネ。

 

 「?」

 

 その様子にルクは、訳が分からないと言わんばかりに首を傾げる。


 「い、いえ………よ、よ、良かったですね!ハンターになれて」


  「でも、駆け出しなことには変わりないです。いろいろ教えてくださいね!」

 

 突っ込みたい気持ちは山々だが、ここは先輩として我慢し、覚悟を決める。


 「………分かりました!これも何かの縁です。一緒に頑張りましょう!」


 「よろしくお願いしまーす!」

 




「あ、旅に行く約束もお忘れなく」


 「は、はい……」


 

 この約束も世間一般から見れば、《《デートの約束》》と呼ばれるものであるということに2人は気づかないのであった。




 




___ だが、少女ハンターの受難は幕を開けたばかりだった……!


 

 市街地にて、

 


 「え、国の地図は全部頭に入ったってどういうことですか!?」


 「ベセノムだけじゃなくて、このルーベルニア大陸全てですよ」

 

 


今度こそ、理解不可能な領域に、彼女は突入した。

 


世界地図を暗記する。その事がどれほど無謀なことかは初等学校生だって分かる。


 こんにち、この世界には地図と呼ばれる存在があると言うのに、


 「そんなことする必要あります?」


 「まぁ、道楽の一つですよ」


 「えぇ……」


 彼にとってはきっと、容易いことなのだろう。彼と出会ってまだ1日しか経っていないが、驚かされてばかりである。

 

 出会いの時も、何故あんなところから現れたのか、分からずじまいだ。


 時にとしてルクは、クリネの心を見透かしたかのような鋭い質問をすることがあり、彼女を驚かせる。

 

 「クリネさんに、聞きたいことがあるのですけど」


 「はい、なんでしょう?」


 また、質問が飛んでくる。今度は、どんなものだろうかと内心ビクつきながら、続きを促す。


 「クリネさんの装備って、なんていうか、旧式のものですよね…………いや、悪口を言うつもりは無いんですけど……」


 「ああ、それはですね…」

 

 当然の疑問だろう。この世界は魔導を発見してからというもの、驚異的なスピードで成長した。


 とある《《転生者》》が居たおかげで、昔存在していた、当時最強の軍国家アルカナにも技術力で対抗できた。


 その転生者は突飛なアイデアを思いついては、それを実行していた。


 兵器から、子供を楽しませる玩具まで、その発想は多種多様だった。



 それと同時に、その技術を応用したハンター装備も充実するようになった。


 軽量かつ防御力、伸縮力の高いファイバー製スーツや、不可能とされてきた携帯電磁砲ポータブルレールガンなど初心者でも安心して狩猟の出来る装備が整っている。


 しかし、クリネはそんな最新装備には目もくれず、古き良き、|魔鋼鉄《オリハルコン》特有の呈色を成すメイルに身を包み、よく鍛えられた銀の剣を握り、戦っている。


 理由は、クリネ本人にもよく分からなかった。1つ挙げるとするなら、物心がつき始めた頃の記憶である。


 

 __いいか、クリネ。お前は誇り高き*なんだ。誰がなんと言おうと、我が家の伝統を捨ててはならない。我が家は代々剣と鎧を好んで使ってきた、分かるな?


 

 曖昧な記憶である。


 誰に、何のために、いつ言われたのか、覚えていない。

 

 

だけど、不思議に頭に残っている。何故か、ぞんざいに出来なかった。してはならない気がした。


 別にどこのメーカーがいいとかいう、こだわりは無い。


 兎に角、何かの金属で出来た軽鎧や剣であれば、最低限の実力は出せる。


 逆を言えば、それ以外の素材だと、重さに関係なく、動きが鈍る気がするのだ。


 




 「へぇ、なんかいいな~」


 「なんでそう思うんですか?」


 「僕、小さい頃のこと、あんま覚えてなくて…」


 「___」

 

 クリネは、ルクの過去について知りたくなった。


 小さい頃から、旅をしていたことぐらいしか知らない。

 

 彼の特異な能力といい、彼には謎なことが多すぎるのだ。


 けれども、今は聞くべきでないだろう。まだ出会ってから日が浅い。


 さらにその時は、自分の過去についても話さなければいけなくなるだろう。

 





すると、


 

「あ、いたいた!新人さーーん!ん?あれれ?なんでクリネさんもいるんだ?」


 前方の道から誰かが明るい声で此方に駆けてくる。


 猫耳で、背が低く童顔。髪はブロンズのショート。そして特徴ある制服から察するに……


 「おっはようございまーす!いつでも元気なギルド職員、ラムレットちゃんでーす☆」

 


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