碧天のアドヴァーサ

人として生きるのか、兵器として生きるのか。
ヨルムンガンド
ヨルムンガンド

謝罪

公開日時: 2020年9月16日(水) 21:08
文字数:2,051

「本当に、すみませんでした!」


「いや、気にしなくていいですって!」

  

 ルクは、焦りに焦っていた。


 (しまった! 女性が襲われてるから助けないとって思ってたけど、ハンターだったなんて!)

 

 師匠から、その存在を聞かされていたルクは彼女の教えを反芻する。


 曰く、ハンターは誇り高き職であると。 曰く、ハンターは屈強な選ばれし者しかなれないと。


 しかし、ルクの目の前にいる少女は明らかにルクと同い年くらいである。


 時代が変われば、ハンターも変わるのだろうか。

 

 (っ!)


 ルクは気づく。少女の軽装備の下に隠されている筋肉に。


 無駄につけられておらず、しっかりと絞られている筋肉は戦士のそれだった。

 

「どうかしましたか?」


 ついじっと見つめてしまったようだ。少女が尋ねてくる。


 「いえ……貴女の名前を教えて頂けますか?」


 慌てて、ポーカーフェイスで取り繕う。


 「クリネ=システィナベル……クリネって呼んでください」

 

 (システィナベルか………)


 何かが引っかかる。確かその苗字は………駄目だ。記憶の中には確かにあるのに、頭が引き出すことを拒んでいる。


 ___《《思い出してはいけない》》、と。


 「いえ、なんでもないです。えっと申し訳ないんですけど、近くの街まで案内して頂けますか?」


 「あ、はい!」

 

 

 「いやー、僕と同い年くらいなのにハンターやってるなんて凄いですね」


 「まぁ、《《目標》》があるので…」

 

 「素晴らしいですね。目標を持てるなんて、とても羨ましいです」


 「……」

 

 なかなか会話が続かない。どうやらまだ警戒しているらしい。

 

それもそうだ。見知らぬ男に、出会ったばかりで仲良くなれる方がおかしい。


 しかも、空から落ちてきたなんて。ハンターじゃなかったら、ビビって逃げ出してしまうだろう。


 会話だって、不自然極まりない。目標を持てるのが羨ましいなどといきなり言われて、戸惑わない者が居るわけが無い。

 

 ふと、ルクは隣を歩いている少女に目をやる。先程は謝罪の念が強くて気がつかなかったが、端正な顔立ちをしている。

 

 パッチリと開いた吸い込まれそうな二重の碧眼。淡い紅色をした唇に、形の整った高い鼻や秀麗な眉。


 髪はそれだけで芸術品と言えるほど美しい白銀。それぞれのパーツが綺麗に小さな顔にまとまっている。


 とても惹かれるものがあった。自分の拙い表現力では表しきれない。


 思わず、見れてしまう。


 「どうかしましたか?」


 しまった。


 不躾ながら、クリネという少女のことをまじまじと見てしまったようだ。師匠がいたら、怒られてしまうだろう。

 

 「いや、どこに向かっているのかなぁって……」


 「ベセノムですが?」


  少女は、分からないの? 的な目線を向けている。

 

 これも悪手だったようだ。


 |上《アルカナ》から来たことがバレると色々と面倒なのである。慌てて、ルクは言葉を紡ぐ。


 「そう、でしたか…最近は来ることがなかったので、ここら辺の地理には疎いんですよ」


 「そうだったんですか。では、私が街を案内しましょうか?」


 「そうして頂けると助かります。あと、1つお伺いしたいんですが……」

 

 「何でしょうか?」




 「ハンターになる為にはどうすれば良いのでしょうか?」




 「え!? ハンターになりたいんですか?」


 今度は信じられないといった目を向けられてしまう。


 そんなに突拍子も無いことなのだろうか?


 こんな一見|嫋《たお》やかな少女がハンター|稼業《かぎょう》をしている方が危険な気がする、とルクは思っていた。

 

 「いや、魔物や魔導について知りたいもので…」


  なるべく当たり障りの無いことを述べるルク。すると彼女は何故か悲しそうな目をしてそうでしたか、と呟く。

 

 その様子を見て、ルクは決心する。


「クリネさん」


 「はい?」


 「ううん、こんなこと聞くのはあれですけど……貴女は、ハンターを辞めたいなんて、思ったことありませんか?


 「えっ……」

 

 やっぱりだ。彼女は、クリネは、ハンターになりたくてなっている訳では無い。


 出会った時から気づいていたが、 心に何か抱えている者の目をしている、とルクは感じた。しかもそれは、あまりプラスのものではない気がした。


 

「そんなことある訳ないですよね、変なこと聞いちゃってすみません」

 

 だが、深くは関わらないよう心がける。関わっては行けない気がした。それはまるで、人の敷地にずかずか入り込んでしまうような。


 先程、彼女の苗字を知った時と同じ感じがした。


 そもそも、初対面の相手にぶつけるような質問ではなかったと、反省した。

 

 そしてまた、彼女は黙り込んでしまう。


 ルクは、質問ばかりではあまり良くないと判断し、次はどんな話題を振るか迷っていると、

 





「うわぁっっー!」


 「「!」」





  

 何処からか、悲鳴が上がる。


 ルクは音の方へ駆ける。それに追従するように、クリネが付いてくる。先程の会話など頭の片隅に追いやって。人を助ける為に全力を尽くす。

 

 だが、ルクは頭からこの会話を完全に消すことは出来なかった。


 (彼女は何かを抱えてる、絶対に)


 今その事を考えても、詮無きことだと分かっていても、考えてしまう。



 思考を止めることが出来なかったという方が、正しいのかもしれない。


 

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