Lose,Loser,Losest

〜暗黒社会の不適合者達〜
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【10】闘技場、それと特訓

公開日時: 2020年9月2日(水) 16:00
文字数:3,718

「『エニウェア・コロッセオ』……」


 Anywhereどこでも、か。

 地下闘技場というか、大乱闘裏社会オールスターズ的な感じだろうか。


「ああ。名前の通り、参加した選手は東京都内のどこかで、同じ参加者の誰かとバトルする。何をしてもいいし、何を使ってもいい。面白ければな。で、相手を再起不能にしたら勝ち。勝てば運営から金が貰える」


 ざっくりとした説明だが、詳しいことは後々聞こう。それよりも、もっと大事なことを聞かねば。


「貰える金額は? 」

「知らね。まあ人気になればウン百万とか貰えるし、新人でもいい感じにやれば結構貰えるぜ」


 ウン百万……!


「……中々、興味が湧いてきた」

「ボクも気になるねぇ。ところで、ナミケンくんは何処でソレを知ったんだい? もしかして、意外と理系男子? 」


 鵐目がオリーブオイルをかけながら聞く。

 ……コイツ、本当に食べるために調味料をかけているのか? 調味料をかけるために調味料をかけているんじゃないのか?


「知り合いの情報屋に聞いたんスよ。ハバキの噂についても」


 鵐目の質問に容易く答えるナミケン。

 俺の噂……『半グレ狩り』のヤツか。


「あ、俺の能力対策出来てたのって……」

「おう。初めて聞いた時は与太話かと思ったけど、ガサキが『万全な対策をしろ』ってうるさくてな。で、三人で相談して、本番でなんとかお前を引きずり下ろしたってわけだ」

「なるほどね……良い勘してるよ、ガサキさん」

「いやぁ……」


 照れるガサキを横目に、ナミケンは俺に言う。


「試合は、登録したその日から運営が勝手にマッチングしやがるから、選手登録の前に色々準備しよう。体づくりとか、リングネームとか、仮面とか」

「仮面? 顔を隠してどうすんだ? 」


 俺は質問した。


「運営のマッチング基準が、『選手が部外者の少ない場所に居て、すぐに戦える状態であること』だからさ。まあ簡単に言うと、一人で外に出た瞬間に街中のカメラからライブ中継されて、否が応でも戦わされるってことよ」

「なるほど。だから顔を隠して運営にバレないようにすると」


 俺がそう言うと、ナミケンは人差し指を立てて、左右に振る。


「惜しいな。ホントの使い方は、登録する時に上げる顔写真で使う。素顔のところを仮面にするわけだな。すると向こうは、仮面を被ったオレ達しか知らないわけだから、普通に外に出ても気づかれない。でも仮面を被った途端に試合が組まれる。そういうオンとオフを分けるための装備だ」

「ふーん……なんかアレだな、AIが運営してるみてぇ」

「オレもそう思ったけど、よく考えたら『東京中のカメラをハッキングして、選手を監視したり中継したりするAI』なんて日本に存在するわけねぇよな、ってなった。だから多分人間じゃね? 」

「あー……そうだね」


 俺は煮え切らない返事をして、鵐目を見る。鵐目はようやくカルボナーラを食べ始めたところだった。


「……『メアリー』は関係無いよ」


 ……あ、そう。


「ま、とにかくそういうことだ。賞金の分け前だが、新しいアパートの頭金と家賃数ヶ月分さえ貯まれば、後はお前に全部やる。どうだ? 乗る気は無いか? 」


 俺はフォークを置いて、少しニヤケながら言った。


「いいね、乗った」






 そののち、数日。


「よォし、今日も特訓だ! 」

「おー」


 俺とナミケンが居るのはとある公園。今は平日の昼なので、人はほとんど居ない。まあそういう時間帯を狙っているんだが。

 コイツの話に乗った日から、特訓が始まることになった。曰く、「能力に頼っているだけではその内酷い目に遭う」らしい。

 ……能力だけでも、コイツに勝てるくらいには強いんだけどな、俺。 

 まあ一応コイツアスリートだし。多分、なんか、そういう感じなんだろう。知らんけど。


「で、今日はなにすんだ? 」

「走って筋トレして走る! 」

「またか……」


 そりゃ、基礎は大事だけどさ……。めっちゃ疲れるんだよな……。


「オラ、行くぞ! 」

「はいよ……」


 まあ、やるけど……。






 毎日毎日、走って筋トレして走って走って筋トレしてを繰り返し、更に数日。


「ゼェ……結構……体力……ゼェ……ついてきたんじゃねーの……? 」

「フゥ……そんな……気がする……フゥ……」


 芝生に寝っ転がりながら、息も絶え絶えに会話する。

 確かに、以前より体力と筋力が増した気がする。というか、四日目にして一日目の三倍くらいの量のトレーニングこなしてるし、めちゃくちゃ成長してるぞ俺。


「お前……めちゃくちゃ成長したよな……いやホント気持ち悪いくらい」

「ああ……俺ってこんな潜在能力あったんだな……」

「潜在能力じゃ説明つかねーよ、この伸びは……」


 ナミケンはそう言って、起き上がる。


「正直に言うとさ……俺の狙いは、お前にトレーニングを習慣づけることだった」

「何でだ? 」

「強ェから」


 ……分かるような、分からないような。


「お前は強い。変な超能力持ってるし、それを使いこなすだけのアタマもある。でも強さってのは、相手を如何に速くぶちのめすかっていうのだけじゃ無いんだ」

「あー……精神の強さ的な? 」

「ソレもある。けどな、お前にとって一番大切なのは、『誰かを守る』ってことじゃねえのか?」

「……アレ、お前にその話したっけ? 」

「その話って? 」

「俺が超能力に目覚めたの、サヤを守りたいからなんだよ」

「あーやっぱ? お前、アイツにだけ対応違うからな。分かりやすいのなんの……」

「……うっせ」


 ナミケンはハハハ、と笑って流す。


「まあ、何だ……誰かを守るために立ち向かう時ゃ、一番必要なのは勇気だし、ソレを支えるのは日々のトレーニングから来る自信ってことだよ」


 そういうナミケンは、何だかすごく先輩に見えた。

 何の先輩なのかは分からないが、とにかく『先輩』だった。


「……そんなことよりオレが聞きたいのは、お前の成長速度だよ! オレでもこんな速さで筋肉付かねーぞ!? 」


 ナミケンが、数日前よりも確実に太くなった俺の二の腕を叩きながら言う。


「分かんねぇ……でも、中学の頃はこんなに成長しなかったから、多分超能力が関係してんじゃねぇかな……」


 ほとんど憶測だが、俺はそう言った。

 正直、俺も驚いている。というか、ビビってる。

 超能力に目覚めたあの日から、俺の身体は何かが変化している気がする。具体的なことを聞かれると困るが、とにかく何かが変わっているのだ。


 筋肉の付き方だってそうだ。普通、筋肉が付けば付くほど必要な運動量が増える。しかし、俺の場合は運動量が変わらずとも、筋肉がどんどん付いていく。


 普通の増え方を『反比例的』としたら、俺の増え方は『比例的』だ。


 運動すればするほど、筋肉が付く。


「あーぁ! 便利だなァ、ホント! 超能力! オレも欲しい! 」


 ナミケンはそう叫んで、勢いよく寝転んだ。






 更に更に数日。

 場所を公園から高架線下に変えて、俺達は組手を始めていた。


「オラァッ! 」「キエエ!!!!!! 」


 俺のパンチをかわし、ナミケンが上段蹴りを放つ。俺は上体を反らして最小限の動きで回避し、その反動で頭突きをする。


「いってぇッ!? だから練習でそういうのやめろっつったろ!? 」

「ごめん……条件反射だ」

「またソレか! ……はァ、一旦休憩にすっぞ」


 ナミケンはそう言って座り込む。俺も、その場で胡座をかいた。

 俺達はしばらく呆けていた。

 時々、ものすごい音を響かせながら電車が通り過ぎた。だが慣れてきたのか、そのうち振動が心地よくなって眠くなってきた。


「……そういえば、コードネーム決めてなかったな」


 ナミケンが、沈黙を破って話しかける。


「俺はもう決めてるけどな」

「マジで? どんなのにしたんだ? 」

「日本の神の名前を借りた。性質も相まって、結構良いネーミングだと思ってる」

「ほう……で、その名前は?」

「戦う前に教えるよ」


 俺はそう言ってはぐらかす。

 別に今教えても問題は無いが、個人的にはもうちょっとカッコイイ感じに教えたい。

 例えば、「爆炎吹き荒ぶ中敵の亡骸を掴み上げ、握り潰しながら」とか。


「ちぇ……」


 ナミケンはそう言ってそっぽを向いた。


「お前はもう決まったのか? 」

「いや……。なんというか、『猪突猛進』をいい感じにしたのにしたいんだが、上手い言葉が見つからねぇって感じだ」

「へぇー、『ブルファング』とかどうよ? 」


 俺はその場で思いついたものを適当に言った。

 言った後で気づいたが、結構カッコイイんじゃなかろうか、コレ。


 しかし、ナミケンは、


「もっと野性味が少ないのが良い」


 と、首を横に振った。

 いい名前だと思ったんだがなぁ……。


「そうしたら……こういうのはどうだ? 」


 俺は少々熟考し、その末に出た名前を教える。

『猪突猛進』からは少し離れるかもしれないが、名前の響きと映画での活躍を鑑みれば、これ以上は無いだろう。


「……ああ、ああ! 良いなソレ! ソレにしよ! 」


 どうやら、気に入ってくれたようだった。






 こうして、俺とナミケンの特訓の日々は終わった。

 期間は六日と異常に短かったが、そもそもこの特訓はナミケンが言ったように、俺にトレーニングを習慣づけるためのものだ。

 その点で言えば、成功したと言えよう。


 俺達は、更に数日を仮面の調達や服の準備に費やして、いよいよ『エニウェア・コロッセオ』に挑む。


 これからはもっと過激に、暴力的に面白くなるだろう。正直言って、待ちきれない。

 さあ、楽しもうや……。

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