Lose,Loser,Losest

〜暗黒社会の不適合者達〜
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【13】偉大なニンジャ

公開日時: 2020年9月2日(水) 16:00
文字数:3,296

 煌々と輝くコンビナートを、俺は『猛スピードで飛んでいた』。

 もし仮面が無かったら、風圧で顔の皮が剥げて肉や骨が丸出しになっていたかもしれない……っていうのは、流石に誇張が過ぎるか。


 ……『ビリー』。


 ランキング第二位だが、一位の『女騎士エヴゲーニヤ』が消息不明なため、実質的な頂点は彼だ。


 なんでいきなりトップが出てくんだよ……! 


『ドコー? ドコデスカー? ミセテヨー。Abilityミセテヨー』


 イヤホン越しから聞こえるカタコトの音声は、近づいたり遠ざかったりを繰り返している。恐らくデロリアンを捜しているのだろうが、動きをみるに場所までは把握出来ていないらしい。


 ならば、まだ間に合う……!


 俺は進行方向にある工場の窓を破り、一直線に来た道を戻った。


 そして、


「……居た! デロリ───」『Oh ,  I see it ! 』


 ───鋭利な刃物が、腹に突き刺さった。


『鎺くんッ! 』


 鵐目の、酷く慌てた声が耳に入った。


「……ア゛ア゛ア゛」


 苦悶の声が、勝手に漏れ出る。血が、今まで見たことない速度で腹部から垂れ落ちる。


 ……痛い……。

 何かが突き刺さるとこんなに痛いのか……初めて知ったな……。


 世界が上下を反転させた気がしたが、そう感じているのは俺だけで、何故かと言えば、俺が真っ逆さまに墜落しているからなのであった。


 トタン屋根の上に落ちたが、古びていた為なのか、俺は屋根を突き破って工場内に落ちてしまった。意識を限界まで集中して『落下速度を軽減し』、何とか落下による骨折は免れたが、それでも痛いものは痛かった。


 俺は激しい痛みをなんとか耐えながら上体を起こし、傷の具合を確認する。幸い、へその左から脇腹に向かって刺さっていた為に、刃物は内臓を傷つけては居なかった。


 ……いや、まあ、相当重症だけども……。

 というか何だコレ……苦無クナイか……?


『大丈夫かい鎺くんッ!? 』

「鵐目……」


 俺は何か縛るものが無いか探しながら、通信する。


『待って、ナイフは抜かないように。それから何か縛るものを……あーでも毒が塗られてる……いや流石にそれは無いか……えーっととにかくだな、アレだアレ、えー……』

「落ち着け」


 珍しく慌てている鵐目を制す。


『お、オーケー、分かった、落ち着いた。というかエラく冷静だねキミ』

「現実感が無いだけだよ。それより俺のことは良いから、デロリアンと『ビリー』の監視を続けてくれ」

『ああ……』


 鵐目にそう言いながら、俺はローブが包帯代わりになることに気づいた。

 やたら丈夫な裾を『引き裂き』、手頃な長さにする。


 応急処置なんてやったことないが……とにかく刃物を固定すればいいんだよな。早く終わらせて、デロリアン連れて帰らんと……。


『……hmm……。ワカラナイ、オチタバショ……』


 ビリーの声が聞こえる。どうやら飛んで来た俺に気づいて苦無を投擲したは良いものの、肝心の俺を見失ってしまったらしい。


 さて、どうやってやり過ごすかな……。


 …………。


 ……ダメだ、三つしか思いつかねぇ。

 しゃーない、高度な柔軟性を持って臨機応変に対応するか。


「よし……」


 行動方針を決めるとほぼ同じタイミングに、苦無をそれっぽく固定出来たので、一度立って歩き回り、具合を確かめる。


 少し痛むが、変に傷が広がることは無さそうだ。


『Where are you ! ワカリマスカ、English! 』


 相も変わらず、ニンジャはヘタクソな日本語……というかほぼ英語で探し回っている。

 そもそもの話、あの速さで飛んで来る俺に苦無当てられる人間が、デロリアンを見つけられないってことあるのか……? 

 いや、デロリアンが上手い隠れ方してるか、そもそも存在を知らないだけかも。

 どっちにしても俺達にとっちゃ好都合。隙を見てデロリアンを連れ出して逃げるだけ───。


『ドコデスカー、アラハバキ・・・・・ー? 』


『ビリー』のその言葉を聞き、背筋が凍った。


 コイツ、今、俺の名を……?


「し、鵐目……」

『聞いたよ。どうやら彼の狙いはデロリアンじゃなくて、キミらしいね』

「……考えてみれば、そもそもアイツがデロリアンを狙っている証拠なんて何一つ無かった……」


 俺がそう零すと、鵐目は深く息を吐いた。

 そして、


『もっと早くに気づけたなぁ、コレ……。マジですまない。ホントマジで……ハァ……』


 後悔混じりの謝罪をした。


「まあ、お互いテンパってたし、そもそもこういう状況が初めてだし……仕方ないってヤツだ、うん」


 相手が反省している時は、きちんと受け止め、許し、すぐに話を変える。俺の処世術の一つだ。


「それより、警察はあと何分で到着する? 」

『八分五十四秒。予想より到着は遅れるよ。作戦はあるのかい? 』

「……安全だけど全滅する可能性が高いモノと、危険だけど全滅は免れそうなモノ。どっちがいい? 」


 俺はさっき出した三つの作戦を組み合わせたりなんたりかんたりして、二つにブラッシュアップしたものを鵐目に伝える。


『……前者』


 概要を聞いた鵐目はそこそこ熟考し、結論を出す。


 ほう……さては鵐目、俺の怪我やデロリアンの状況に日和ひよっな。気持ちは分かるけども。


 鵐目の答えを聞いた俺は、オーケーと返事する。

 そして、こう言ってやった。


「後者にするわ」






「ドコカナ、ドコカナ……」

「ヘイ。ヘイ、ニンジャ。俺はここだ」


 俺は上空から声を上げて、居場所を伝える。


『ビリー』はマッシブな身体の黒人で、ニンジャの衣装───それも、合理性リアリティより象徴性ファンタジックを優先した、分かりやすくアニメっぽいシロモノだ───をしている。聞いていた通りの格好だ。


「Oh , howdy !  オレビリー! 」

「どうも、ビリーさん。アラハバキです。ところで、なんで俺を狙っているんだ? 」


 挨拶もそこそこに、俺は彼と対話を試みた。

 なぜなら、これこそが作戦だからだ。


「Ah……シュヒギムアルカラネ、シュヒギム。ワカル? 」

「なるほど、分かった。じゃあ、君の要求を言ってくれ」


 内容は単純明快。

『俺が囮になっている間に、デロリアンはさっさと逃げる』。

 たったこれだけだが、俺達の持つ情報が圧倒的に不足しているこの盤面、不確定要素が多すぎる。例えばいきなりビリーがキレて暴れられでもしたら、相当困る。


「オレタチ……No. ワタシ、ジャナクテオレハ、コロシマス。アラハバキヲ」

「参ったな、それは困るぞ。どうにか俺が死なずに済む方法は無いかな? 」

「アルケド、シュヒギム」


 こうしてのらりくらりと会話している間に、デロリアンは今全力疾走でこのコンビナートから離脱している。離脱が鵐目によって確認出来たら、第二段階に入る予定だ。

 ここまでは準備フェーズ。次が問題だ。


「またソレかい? 君を雇っている組織は随分秘密主義らしいね。当ててみせようか? 」

「Huh ? 」

「うーん……イルミナティかな? 俺や君みたいな異能力者を集めて、不老不死を研究するとか」

「Nope」

「じゃあフリーメイソン? それとも黄金の夜明け団? 大穴で、星の智慧派とか? 」

「Nope. ソモソモSecret societyジャナイヨー」


 俺がビリーと適当に会話していると、


『デロリアンの離脱を確認、後はお好きなように。彼女が泣いても知らないからね! 』


 鵐目が通信してきた。彼女……サヤか。

 まあ、確かにサヤは嫌いだろうな。こういうの・・・・・


「なるほどね。じゃあさ───」


 俺は『瞬時に間合いを詰めて、頭突く』。


「What……!? 」

BビギニングW・ウッド・Tテクノロジーズ。この名前に覚えは? 」

「……ッ!? 」


 俺を狙う組織、ということで知ってる名前で適当に鎌をかけたところ、どうやらビンゴのようだ。


 上手く行きすぎて、笑えてくる。


「F××k you , bitch…… ! 」

「本性表したね。そうこなくっちゃ……」


 野犬のような目つきをするビリーを前に、俺は『空中に飛び出す』。さっきの分留塔くらいの高さに来たところで、ビリーも追ってきた・・・・・・・・・


「やはり飛行持ちか……。ここで叩くことにして正解だったな……」

「Shut up , Jap ! I'll kill you ! 」

「そう吠えるなよ、駄犬が……」


 その一言で完全にキレたのか、ビリーは「ヌゥンッ! 」と気合いを入れ、手をごちゃごちゃ動かして印を組み始めた。


 そして───。


火遁術Fire Style紅蓮台風グレンタイフーンッ!! 」


 合戦の火蓋が、落とされた。


───戦闘・『ニンジャ、ビリー』────

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