解任された帝国最強の魔術師。奴隷エルフちゃんを救ってスローライフを送ってます。帝国が滅びかけているから戻ってきてくれ? 条件次第で考えてやる

量産型
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6-4嵐のような戦

公開日時: 2021年1月6日(水) 14:32
文字数:1,825

「おいおい、ウソだろ……」

 ネロ・テイルと豪魔のウィル。その2人の戦いを、グロードはひとりの帝国魔術師として見ていた。



 土砂をえぐって、嵐のような風を巻き起こす。地面から城塔のような太さの槍を召喚したり、それを剣で斬り払ったり、そうかと思うと巨大な土人形ゴーレムを召喚したりする。



 まるで嵐である。

 地形が変化するのではないかと思うような戦いだ。その規格外の戦いに、グロードは唖然とせざるをえなかった。



「わかったか。あれがネロ・テイルという男なのだ。我々、凡才の魔術師とはあきらかに格が違うのだ」

 と、ルスブンが言う。



「あ、あぁ……」



 自分はあんな男と張り合おうとしていたのだ。張り合うどころか、ネロよりも優れていると豪語していたのだ。そんな昔の自分を殴り飛ばしたくなった。自分がどれだけ的の外れなことを考えていたのか、ようやく自覚した。



 格が違いすぎる。

 この強さの前では、魔術師としての学歴などマッタク意味をなさない。



「あの強さの前には誰も近づけはしない。お前も戦いに見惚れているだけじゃなくて、自分の身の心配をしろ」



 すこし前まで、グロード魔術師長と呼ばれていた。今では「お前」に降格している。それもそのはずだ、と思った。自分なんて、しょせんはルスブンと同等ぐらいの実力しかないのだ。



 それでも、魔術師としては充分のはずである。 



 周囲では王国軍がいる。グロードに向かって斬りかかってきた。咄嗟に反応できなかった。ルスブンが火球ファイヤー・ボールで敵を焼き払ってくれた。



「た、助かった」



「ハーグトン魔法学園を首席で卒業したのだろう。これぐらいの敵は自分で対処しろ」



「わかっている」



 赤面をおぼえざるを得ない。

 ハーグトン魔法学園を首席で卒業したから、ネロ・テイルよりも優秀な魔術師なのだ――とグロードはそう言いふらしていたのだ。ルスブンはそのことを揶揄しているのだろう。黒歴史である。恥ずかしさで溶けてしまいそうだ。



「ネロ師匠はしかも、魔霊騎士を召喚して、10万の大群を防いでいるのだからな。その魔力は追随を許さない」



「たしかに」



 こうして見ている以上は、豪魔のウィルと良い勝負をしているように見える。が、ネロはそれと同時に10万の大群を防いでいるのだ。



「あの強さがあるからこそ、帝国の優れた魔術師のトップに立つことが出来るのだ」

 と、ルスブンは熱のこもった声でそう言う。ルスブンの白銀の双眸を、戦っているネロに向けていた。その目にはあきらかに憧憬以上のものがふくまれていた。



(オレも――)

 あの人の下で働けるなら、むしろ誇りだ。

 グロードはそう思った。



 トツジョ。



 銅鑼の音が鳴りひびいた。ホウロ王国軍が鳴らす音のようだ。



「なんの音だ?」

「ホウロ王国軍の撤退の合図だ。どうやら時間切れのようだな」

「時間切れ?」



 丘陵の向こうから、物凄い数の人の群れが現われた。マクベス帝国の紋章である龍の絵が描かれた旗がなびいていた。



「国境沿いに配備されていたマクベス帝国の大群が戻ってきたのだ。敵は10万をもってしても、ネロ師匠を突破することは出来なかったのだ。これで皇帝陛下もネロ師匠がいかに優れた魔術師なのか痛感したことだろう」



「ってことは……」



「我らの勝利だ」



 ウィルをはじめとするホウロ王国軍が撤退してゆく。ネロも追撃に移ろうとはしなかった。



 召喚されていた魔霊騎士たちが消えて行く。魔力が霧散してゆく。青白い光が、細かい粒子となって散ってゆくさまは、雪を見ているかのようだった。



 丘の上。

 ネロ・テイルは黒い法衣を風になびかせて立っていた。見た目は貧弱だが、まるで巨人が立っているかのように威圧感をおぼえた。ネロの周囲には土砂がえぐれてしまって、地面の色が変わってしまっている。

 そのネロ・テイルが倒れる光景が見えた。



「師匠ッ」

 と、ルスブンをはじめとする魔術師たちが、いっせいにネロのもとに集まった。ネロは仰向けに倒れ伏していた。



「いったいどうしたんだ?」

 外傷は見当たらない。



「さすがに師匠といえど、魔力を使いすぎたのだろう。なにせ10万人の軍勢をおさえながら、あの豪魔のウィルと戦っていたのだからな」

 と、ルスブンが、ネロのカラダを抱え上げた。



「生きてるのか?」



「不吉なことを言うな。師匠のことだ。すこしすれば目を覚ますはずだ」

 ルスブンは祈るように言った。



 もしかすると、この人はもう目を覚まさないのではないか――と、根拠はないがグロードはそう思った。これほどの才能が長生きすることを、神は許さないのではないか、と思ったのだ。

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