解任された帝国最強の魔術師。奴隷エルフちゃんを救ってスローライフを送ってます。帝国が滅びかけているから戻ってきてくれ? 条件次第で考えてやる

量産型
量産型

4-3皇帝陛下の叱責

公開日時: 2021年1月2日(土) 05:33
文字数:1,346

「ザミュエン砦が陥落したという報告を受けているが、それは真のようだな」



 拝謁の間。

 グロードはただひたすら低頭していた。冷や汗が全身の汗腺からにじみ出てくるような心地であった。



「はい」



 頭を下げているから、皇帝陛下の顔は見えない。きっと怖ろしい形相で、グロードのことを睨み下ろしていることだろう。



「何か申し開きはあるか?」



「ホウロ王国軍に、あれほどの魔術師がいるなんて、魔法学園では習っておりませんでした」



 習っていないものは、知らないのだ。仕方がない。



「魔法学園の首席だと聞いていたから期待していたが、しょせんはその程度か」



 グロードに与えられていた皇帝陛下の期待が、音をたてて崩れているかのようだった。



「お待ちください。どうしてオレだけ責められるのですか。この戦の責任は、むしろ砦を担当していたゲイン将軍に負わせるべきだ――と思いますが」



「敵の魔法攻撃を防ぎきれなかったのが敗因だと、ゲイン将軍からは聞いておる」



「いや、しかし、それは……」



 たしかにその通りなので、弁解もできない。その報告を受けたということは、ゲインとかいう将軍は生きていたのだろう。親しくもないし、うれしくもない。なんの感慨もなくそう思った。



「なにより、先任のネロ・テイルはホウロ王国軍を、魔法だけで撃退していたのだ。魔術師長がシッカリしていれば、退けるに充分な相手だったはずだ」



 あの敵を――。

 ネロはひとりで迎撃していたのか。

 いや。

 そんなはずはない。

 オレがネロより劣っているわけがない。



 それだけはグロードは認めたくなかった。魔法学園を首席で卒業している自分が、なんの学歴も持たない相手に負けるだなんて、矜持が許さない。



「お言葉ですが、皇帝陛下」



「なんだ?」



「今回の問題点は、ネロ・テイルの教育していた魔術師たちに原因があると思われます。あの者たちがシッカリしていれば、ホウロ王国軍の攻撃を防げたはずです」



「たしかに、それは一理あるかもしれん」



「そうでしょう! むしろ今回の敗因はネロ・テイルの人材育成不足だと言うべきではありませんか」



 しばし皇帝は沈黙していた。その沈黙があまりに重いので、グロードはピクリとも動けなかった。自分の心臓の動悸がウルサイほどだった。



「ネロ・テイルはすでに解任している。責任を追及することは出来ん。それよりも、奪われたザミュエン砦をどうするか……という問題がある」



「はい」



 どうやら皇帝の怒りの矛先が逸れたようだ。すこしグロードは気持ちが落ち着いた。



「ホウロ王国軍は、砦を陥落させて勢いを得ている。真っ直ぐこの帝都に向かって進撃して来ているのだ」



「はい」



「止めて来い」



「は?」

 と、思わずグロードは顔をあげた。まるでファルシオンのような長大な口髭をたくわえた、厳めしい形相の皇帝が、グロードのことを見下ろしていた。



「ホウロ王国軍の進撃を止めねばならんのだ。急いで部隊を編制して、それを止めて来いと言っている」



「オレが――ですか」



「貴様は帝国魔術師の最高峰に立っているのだ。それに名誉を挽回するチャンスだ。人材育成の件については、もう猶予がないのだ。まずは敵の進撃を止めてくるのだ」



「……は、はい」



 またしても――。

 あの巨大な火球ファイヤー・ボールを放ってきたようなヤツを、相手にしなくちゃならないのか。そう思うと憂鬱で仕方がない。

読み終わったら、ポイントを付けましょう!

ツイート