【02:01:33~】
では引き続き、『エターナルクエスト』の攻略を行っていく。
攻略WIKIによると、――”エターナルフォース・ブレード”の作成フラグを立てるには、四つの行程が必要らしい。
①東の秘境に棲まう秘書の協力を要請する。
②西の秘宝「シークレット・シング」を手に入れる。
③南の秘府から『秘剣の秘密(マル秘)』と題された秘本を取得する。
④北の秘所に棲まう秘蔵っ子から、その他ありとあらゆる秘技、秘訣、秘策、秘術を秘密裏に伝授される。
東、西、南、北。
世界中を駆け巡り、その秘密を解き明かした時、初めて魔王を攻略する武器を手に入れることができるのだ。
最短でもこの星を一周する必要があるが、実際に長距離移動する必要はあまりない。
この手の世界中を駆け巡るタイプの物語は大抵、ワープ系の呪文が存在する。そして多くの場合、ワープ系魔法の習得難度は低い。
これはRPG|あるある《クリシェ》の一つで、変なところでプレイヤーにストレスを与えてはならないという制作者側の意図だろう。無駄な移動時間を楽しめるようなプレイヤーはあまりいないからな。
と、いうわけで、この世界でもご多分に漏れず、ワープ系魔法を取得した術者たちが、移動呪文を有償で提供しているようだった。
ぼくは、その辺にいる最も感じの悪そうな商人から必要分の金貨を盗んで、ワープ系魔法使いを利用することにする。
なお、こういう時、運賃は多めに払った方がいい。
どうせぼくにとっては不要な金だし、変にケチって寄り道などされると余計な時間を食う羽目になるからな。
【~02:15:43】
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【04:40:23~】
……と、いうわけで、”エターナルフォース・ブレード”の作成にかかった時間は、二時間半とちょっとか。
思ったより時間が掛かってしまった。
なにせ、どいつもこいつも「秘密が秘密が」っつって、誰もこちらを信用してくれなかったからなあ。
一応、救世主の業者だっていつも言ってるんだが。
とはいえ、火道殺音から例の《干からびた指》を借りれるようになってから、仕事はずいぶんと捗っている。
通常であれば、秘密主義者どもから情報を聞き出すのにずいぶん手間がかかるらしいが、今回はこう……肩を組んで、親しげに二、三おしゃべりするだけで全ての情報を得ることができた。
【~04:45:22】
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【05:25:16~】
世界中に存在するあらゆる秘匿された情報を手に入れたぼくはいま、最初に出くわした”光の戦士”(女性。20代前半)と再会している。
というのも、『秘剣の秘密(マル秘)』その他を手に入れたは良いものの、その使い方がわからなかったためだ。
ことほどさように、異世界のアイテムはときどき、我々には使えないことがある。
そのためにも、最低一人くらいは信頼できる協力者がいた方がいいと思う。
「こ、これは……すごいぞ!」
……と。
女戦士さん、テンション高めっすね。
「そりゃ、テンションも上がるさ。この剣さえあれば……あるいは、魔王を倒すことができるかもしれないじゃないか」
かもしれない、というか、絶対倒せる。心配しなくても。
「え。そうなの?」
いちど説明しただろ。
ぼくの仕事は、その剣を使って魔王を殺すことだと。
「そ、そうなのか……。いや、助かるよ。やっぱり業者に限るな。悪者退治は」
……ところで。
それはいいから、さっさと教えてくれないか。その、魔剣の作り方を。
「あ、ああ。……魔剣”エターナル・フォース・ブレード”の作成法、だな。
ええと、なになに……必要な材料は……おお! これ、その辺の市場でだって買えるぞ。水35L、炭素20㎏、アンモニア4L、石灰1.5㎏、リン800g、塩分250g、硝石100g、硫黄80g、フッ素7.5g、鉄5g、ケイ素3g、その他少量の15の元素……」
人体の構成要素と同じだな、それ。ハガレンで読んだから知ってる。
「ハガレンってなに?」
いや、気にするな。
他に必要なものは?
「特に……ないな。他に必要なのは、”エターナル・フォース”の巻物くらい。あとは魔方陣を組むだけだ。私は魔法に関してはほとんど素人だが、これくらいならできる」
すばらしい。では、さっさと作ってしまおう。
「うん。さっそく、市場に買い出しに……」
その必要はない。いま、手に入れてきた。
「え? って、ええええ!? いつの間に」
全部盗品だが、世界平和のためだ。やむを得まい。
「君と会ってから、驚かされることばかりだな……」
きみだって、出会ってからずっと、驚いてばかりじゃないか。おあいこだぞ。
「おあいこ……? おあいこってなんだ……おあいこの定義とは……?」
いいから、さっさと作業を進めよう。
夕飯までには間に合わせたいんだよ。できれば。
「えっ。……そんな急ぐのか?」
うん。最近、推してるYouTuberがいてね。できればリアルタイムで追いたいから。
「なんじゃそりゃ」
いいから。ほら。やるんだ。
「はあ。……わかったよ」
【~05:30:16】
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【05:33:16~】
はい。できあがり、と。
カップラーメンより簡単にできたな。
”エターナルフォース・ブレード”。邪悪なるものを打ち払う、最強の剣、か。
「す、すばらしい……なんて神々しい剣だろう」
そこまでか?
「君にはわからないのか? この……驚嘆すべき力を」
まあ、多少はね。
「私は今、猛烈に感動しているよ。ほんの数時間前に会ったときは、『なんだこいつ』と思ってたのに、いまはきみは、恩人だ。みんなを代表して、礼を言いたい」
ああ、うん。どういたしまして。
ただまあ、これ、仕事だから。
「そうだとしても、……ありがとう。ハグしてもいいかい?」
えっ。……あ、どうぞ。
…………。
……………………。
…………………………………………。
結構、胸、大きいんすね。
「……ん? まあな」
あの、一つ、お願いしてもいいかい。
「なんだ?」
ちょっとだけでいいんで、おっぱい揉ませてもらえませんか。
「…………はあ?」
あっ。いや、違う。違わないけど、違った。思わず本音が出てしまった。
正確にはその……なんかこう、できれば、……二人で、こう……いい感じの関係を今後、築いていくことは、できないかな、と。
「ああ、なるほど。恋人にならないかってことか」
うん。
……おかしいな。
もっとこう、ジェームズ・ボンドみたいに、クールに誘うつもりだったんだが……。
「じぇーむず? 誰の話?」
気にするな。
ぼくの話す何もかもは、妄言の一種だ。
「はあ」
それでその……そちらのお気持ち、どういう感じ?
「すまん。気持ちは嬉しいが、それはできない。私、夫がいるんだ」
……夫?
「うん。なんなら子供もいる。二人」
…………ああ……そうだったんだ。……二児の母………。
「……ええと……なんか、悪かったな。ご期待に添えなくて」
いや、良いってことよ。
世の中、そういうもんだって知ってたから。
こんなもんだよ。
泣くほどのことじゃねえよ。
「あの、」
では、さようなら。素敵な女戦士さん。
末永くお幸せに。
【~05:41:41】
▼
【05:46:41~】
ぐぬぬ……。
この録音機……音声を一部だけ消す方法、どうすりゃいいんだ。
あーくそ、わからん。
もういいや。帰ってから消そう。いまのやり取り。
あーーーーーーーーーーーーーーーーもーーーーーーーーーーーーー。
世の中ってくそだわ。やっぱ。
【~05:46:41】
▼
【05:56:01~】
「罪。人間とは、その存在そのものが罪なのだ……。
ここまで来たのなら、恐らくお前も知っておろう。
秘匿にまみれた、この世界の闇を。疑念と欲望に満ちた、人々の悪意を。
人類とは、救いに値しない邪悪なるもの。
全ての罪に裁きを下すなら、――一度世界に終焉をもたらすしかない。
我が野望をくじくというのであれば、……さあ、かかってこい!」
うす。
では失礼ながら、行かせていただきます。
「え、ちょ。……あ。え、お。ご。ぐふっ」
はい終了。
……と、ことほどさように、ラスボスに特別なダメージが入る武器を持っていた場合、《すばやさ》持ちなら瞬殺することが可能である。
ぼく自身の非力さを、武器の攻撃力が上回るためだ。
この瞬間”エンディングロール”が流れて、タイマーストップ、と。
【05:59:08】
うん。一応、六時間以内での救済は成功したな。
まあまあ、予定通り、と。
ナインのやつに、完走した感想を求められているので、一応。
中盤あたりちょっとグダったところがもったいなかったけど、だいたい予定通りに進めて良かったな、と。
…………ええと。
それと最後に、攻略のためのポイントをまとめておく。
・攻略WIKIはちゃんと読む。
・その時、おおよその進行チャートを頭の中で組んでおくこと。
・主人公キャラを利用するかどうかは、ケースバイケースで決める。
・地元の協力者は重要。
・ラスボスは、戦う前から詰ませておく。
この録音がどれくらいの人に聞かれるかはわからんが、――いずれにせよ、ぼくの仕事ぶりが参考になったのなら、これ幸い。
それではみなさん、よりよき”救世主”ライフを!
WORLD1292 『永遠の記録』
(了)
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