件名:『マダミス攻略メモ その2』
お疲れ、狂太郎。ウエオでーす。
初見のマダミス、楽しんでるかな? わたしはすごく寂しいです。別室で一人、アドバイスをカキカキしてるから。
……わたしのアドバイス、ホントに役立ってる?
さて。
時間も限られてることだし、さくっと続き、書いていくよー。
④マダミスで使われるトリックについて
マーダーミステリーは、本格系の推理小説とは根本的に違うものだ。
もし作中にトリックめいたものが登場したとしても、ごくごく初歩的なものであることが多い。
というのも、マダミスの登場人物は全員、――正直者とは限らないためである。
ただでさえ、登場人物が嘘つきばかりであるのに、そこに難解なトリックが絡むとなると、ほとんど攻略するのは不可能になってしまうからね。
だからこそ、マダミスを解くのに重要なのは、”誰がそれをしたか?”を意識するのが大切だ。
多くの場合、”どのように”犯行が行われたかは二の次でいい。我々の目的は、最終投票で犯人に最も多くの票を集めることなんだから。
⑤謎解きについて
マダミスには、必ず各登場人物ごとに勝ち筋が用意されている。プレイヤーは、シナリオ制作者の気持ちになって、ゲームの攻略法を読み解いていくことが大事だ。
……と、言っても、具体的にどうすりゃいいの、って話だよね。
って訳で不肖、経験者のわたしから、”犯人当て”をする側、――要するに探偵視点に立った場合の代表的な解法を二つ、紹介したい。
一つは、消去法で犯人を割り出していくパターン。
一つは、犯行時刻にアリバイがない人物を探すパターン。
多くのシナリオは、このどちらか、あるいは両方の解法が用意されてると思って良いと思う。
前者は少々説得力に欠けるが推理し易く、後者は完璧な時刻表を作る必要があるが、それさえ完成してしまえば確実に犯人を特定できる。
もちろんこれらは、数多あるシナリオの解法のうちの一例に過ぎない。
だが、初心者プレイヤーにとっての、「何らかの解法はある」という情報は、必ず何かの助けになるはずだ。
⑥最終投票
マダミスは基本、コミュニケーションに重点を置くゲームだ。
これはどういうことかというと、「いかにして謎を解くか」と共に、「いかにして仲間を説得するか」も重要なファクターである、ということ。
……っていうかわたしとしては、このゲームの白眉はそこにあると思ってる。
最終投票前の会議時間において、必ずきみは、自身の推理を語る必要に迫られるはずだ。きみが探偵側の人間ならば、きみはきみが犯人でないことを証明しなくてはならないし、少なくともきみなりに犯人に最も近い人物を理路整然と推理しなくてはならない。さもなければきみ以外の探偵は、きみを犯人だと思うかも知れない。
犯人当ても大事だが、自分が疑われない、ということも大切なんだ。
特に今回の場合、きみは”ああああ”の仲間なんだから、彼女の足を引っ張るようなムーブは慎むべきだと、わたしは思うな。
……ってわけで、アドバイスは、以上。
最後に一つだけ、わたしが時々使う、最終投票前の一手をメモっておく。
「ちょっと一分だけ良いかな? みんな視点で、間違いがあったら教えて欲しい」
ってね。
”一分”と時間を限定することで注意を引いて、自分視点での情報をまとめて話してしまう。きみが探偵側の人間ならば、積極的に謎解きを行うきみに好感を持つだろうし、もしきみが犯人側の人間であっても、その場を混乱させることができるだろう。
もし状況が悪くて、犯人の絞り込みに成功していないのであれば、いっそここで、自分の秘密を全て暴露してしまうのも手だ。
少なくとも、投票されるべき相手の候補から自分を外すことができる。もうそれだけで犯人側にとっては追い詰められるムーブだからね。
ってことで、がんばってねー♪
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「がんばってねー♪ か。……気楽にいいやがって」
再び、村の隅っこで座りつつ、スマホを眺めて。
頬杖をつきながら、狂太郎は深く嘆息する。
周囲を見渡すと、村人たちがじっとこちらを監視しているのが分かった。
彼らの表情には、明確な敵意が込められている。
――よそ者め。
という、シンプルで、身の毛のよだつような敵意が。
この、異常なまでのリアリティ。
夢の世界のできごとだとわかっていても正直、落ち着かない。
なお、そこでようやく、気付いた事がある。
どうもこの村、”闇の民”と”光の民”の割合が、9:1くらい、――全体的に、魔物っぽい連中が多いということに。
これは多分、この世界の、この時代において、わりと特殊な環境であるはずだった。
――ヨシワラの風景になれていたせいか、少しも不思議に思わなかったな。
と、そこで、肩がぽんと叩かれて、
「うーっす! オタクくぅん」
「なんだ。また”ああああ”か」
「なんだ!? また!? ――……オタクくんの癖に、ずいぶん偉そうな口をきくなー」
「正直、自分でも戸惑ってるんだ。そこまでキャラ変されると、どう接するべきなのか……」
「べつに、これまでのとーりで良いけどなあ」
「フーム……」
狂太郎は顎に手をやって、
「――まあ、いい。それよりきみ、何か用があって来たんじゃないのか」
「なんでそう思うの?」
「なんでもくそも。……なんだか思わせぶりに、背中に何か隠してるじゃないか」
「あ。わかっちゃった? 名推理じゃん」
「名推理、ねえ」
「……って訳で、じゃーん! こちら、”治癒ポーション”でえす!」
「は? ――いいのか、それ。証拠品じゃあ」
「違うよ。村の道具屋さんで買ってきたやつ」
「……この情勢で、よくそんなものを買えたな」
「そりゃーもう! 私ってほら。人気者だし」
《みりょく》を使ったのか。
「っていうか、夢の中の住人にも通用するのか。我々のスキルは」
「まさしく、チートパワーって感じだよねー」
「……もしかすると、その力を使えば、簡単に勝てるんじゃないのか?」
「そーいうのは無粋ってものよ。――こっちがゲームを決めたんだからさ。正々堂々と勝負しないと」
向こうも、同じように考えてくれればいいのだが。
「それより! この”治癒ポーション”、試して見ない?」
「……”救世主”に、治癒が効くかな」
「この世界じゃ、そういうルールみたい」
「ふーん」
少し興味を引かれてその、荒い透明の瓶に詰められた、赤い色の液体を眺める。
「ぱっと見たとこ、赤ワインっぽいな」
「そだね。味は全然違うけど」
「ふうん」
狂太郎、差し出されたそれを、ちょっぴり口に含む。
夢の中の飲食がどういうものか、興味があった。そもそも狂太郎は、夢の中で食事をした経験がほとんどない。彼が夢に見るのは大抵、淫夢と空を飛ぶ夢、おしっこに行きたいけど行けない夢の三択なのである。
「……別に、美味くはないなあ。味のないラズベリー・ジュースみたいだ」
「味を期待して飲むものじゃないからね~」
そこで、”ああああ”が気安く、狂太郎の首筋を撫でた。
「おお。消えた消えた」
「? どうした?」
「いやね。――女性陣の話題になってたからさ。その首筋の、――キスマーク」
「は?」
狂太郎が首を傾げていると、――不意に、思い当たる記憶があった。
呉羽に《においぶくろ》を見せた時、首筋を嘗められたことを。
「……ああ。それなら誤解だ。さっきちょっぴり、アクシデントがあって」
「わかってるよん。呉羽ちゃんから直接、聞いたから」
「ふむ」
どうも彼女、そつなく情報を収集しているらしい。
「どうも、この夢の世界にいるだけで、私たちの体質も作り替えられてるみたい。”キャラ設定”に合わせてね」
「ふうん」
――ということは、……どういうことだろう。
それを、推理に応用できるのではないだろうか。
と、そこまで考えて、狂太郎はふと、こんなことを言った。
「ちょっと待てよ? ってことはひょっとして、……呉羽が発情したのは、ゲーム的なイベントだったのかもしれない。――勝手に、”治癒ポーション”で治して良かったものだろうか」
「ん? 考えすぎだと思うけど」
「いや。せっかくここまで、一生懸命やってるんだ。妙なところで減点されたくない」
場合によっては、GMに話して同じ傷痕を作ってもらうべきではないか。
そんなことを思っていると、
「んもー。しゃーないな」
という台詞の数秒後、狂太郎の首筋から「みゅちゅう」と、新種のネズミを思わせる音がした。
一瞬ギョッとしつつも……直感的に何をされているかを悟って、身を強張らせる。
「ちょ…………おま…………」
魂まで、吸い取られているんじゃないか。
そんな時間が、しばらく過ぎて。
「……はい! これで同じところに、同じ痣ができたよん」
狂太郎、眉間を強く揉んで、
「本当に、――別人みたくなっちまったな。きみ」
「そーお?」
「おじさん、ちょっぴり哀しいよ」
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