基督皇歴1612年 花月 17の日(続き)
キョータローさん、何でも、
・この世界を滅ぼそうとしているヤツがいる。
・自分は、そいつをやっつけにきた。
・そのために、しばしきみの家でご厄介になりたい。
・仕事は手伝う。
だ、そーです。
つまり、そういうこと。
ちょっとこう……頭おかしい人だった、っていうか。
まあ、お気持ちはわかります。
誰だってみんな、自分を英雄のように思いたいですもの。
世界にとって自分は特別な存在であるって、そんな風に思いたいですもの。
とはいえ、とりあえず害意はなさそう。
もともと私たちの村は、追放者、変わり者、どんとこい! ってスタンスです。
人を疑って苦しむくらいなら、人を信じて傷ついた方が、よっぽどいい。
ってかそもそも、男手が足りないのは事実ですしー。
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基督皇歴1612年 花月 18の日
昨日から、村を手伝ってくれてるキョータローさん、――ヤバい。
何がヤバいって、その……。なんか、たった一人で百人分くらいの仕事、してくれるんですケド……。
一晩明けたら、屋敷に希少な資材が山ほど集まってきています。
しかも、もの凄く精巧な地図の写しまでプレゼントしていただいて。
なんでも、この近所に山ほど金塊が出るエリアがあるんですって。
「これでとりあえず、エンディングまで金に困ることはないはずだ」
……えんでぃんぐ?
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基督皇歴1612年 花月 19の日
キョータローさんのなぞ。
「部屋に籠もっている間は、絶対に誰も入らないでほしい」
ですって。
なんか、こーいう童話、聞いたことがあるなあ。
助けた鶴が、人間に化けて居候するやつ。
『鶴の復讐譚』、だっけ?
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基督皇歴1612年 花月 20の日
キョータローさんが来てからというもの、やれることがたくさん増えて、大忙し。スローライフとはほど遠い日々です。
でも、生活が改善されていくのはやっぱり、気持ちが良いもの。
今度手に入れるお茶は、ちょっぴり良いものにしようかしら。
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基督皇歴1612年 花月 21の日
今日は、キョータローさんを囲んで晩ごはん。
なーんかいつも、部屋で一人でご飯食べてるから、ずっと気になってたんです。
だから「今晩だけは一緒に食事しましょ」って、頼んでみましたの。
「えー。ぼく、異世界の食べ物、好きじゃないんだけど……」
ってなんか、この世の終わりみたいな顔、されましたけど。
それで、キョータローさんがいつも食べてるものが気になりまして。彼が作ってくれた”カップ麺”なるシロモノをぱくり。
味はと言うと、……スープ・パスタを、すこししょっぱくした感じ?
私の好みからすると、ちょっと塩辛い気がしますけど。
キョータローさんの故郷では、濃い味のものが好まれるみたい。
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基督皇歴1612年 花月 22の日
「なんかここ、あちこちから馬糞みたいな臭いがする。……きらい……」
と、自称”救世主”さまに大好評の我が村です。
農業を始めた時のために、肥料を取っておいてるだけですのにー。
やはり、長期的に村を発展させるには、確固とした農業基盤が必要なのです。
「食いもんなんて、金塊で買えばいいじゃないか」
と、彼はのたまうので私、とうとうと語ってさしあげました。
あんまり金払いの良いところ他人に見せると、――ろくなことにならない、って。
だってそうでしょ? 人は、金貨に群がる生き物です。
金は格差を生む。格差は争いを生む。
そうやって人は、血みどろの争いを繰り返してきたのですよ。
ってわけで私あんまり、金にものを言わせて村を発展させるつもりはありません。
「めんどくさい”主人公”役だな……」
って、しかめ面で言われちゃいましたけど。
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基督皇歴1612年 花月 22の日
朝からキョータローさんが肥料を集めていたから、何してるのかなーって思っている、と……、
「人間は、年間50キロもの糞を排泄する」
ドヤ顔で謎のクソ知識を披露されました。
「これを肥料として使う発想自体は間違ってはいない」
「だが、未処理の汚物は、病原菌の温床なんだ。実際、産業革命以前の中国では、胃腸疾患が風土病とされていたという」
「これからこの村では、便所と水源を20メートルは離しておくべきだな」
「なお、病原菌と寄生虫は、65℃以上で低温殺菌することで死滅する」
「これは、糞便におがくずと藁を混ぜて、数ヶ月放置することによって可能だ」
「ちなみに、尿は無菌であるので、薄めれば直に畑を巻いても大丈夫だよ」
この知識量。まさかこの人、ウンコ博士なのでは?
その後、我が村は、丸一日かけてトイレの改良計画を実行。
うう……。服にまだ、匂いがついてる気がします……。
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基督皇歴1612年 花月 23の日
今日はちょっぴり、厭なことがありました。
”冒険者ギルド”の人たちが、村に派遣されてきたみたい。
しかも、なんの巡り合わせか、……私を追い出したパーティのメンバーだったり。
それもこれも、この辺りに魔物退治のクエストが出されてるんですって。
ううむ。さすがに関わりたくないなあ。
うまいことキョータローさんが対応してくれたからなんとかなったけど、他のみんなだったらどうなっていたことやら。
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基督皇歴1612年 花月 25の日
近所の村まで出向いていって、これまでちまちまと作ってきた”爆発瓶”を納品。
みんな、すっごく喜んでくれました!
爆発物さえあれば、魔物退治に冒険者なんていらんのですよ!
……でも、身内同士の喧嘩には使わないでね?
何はともあれ、都会を出てから初めての収入です。
このお金でとりあえず、小麦とジャガイモの種、それに、スコップと鍬、大きめの鎌、ついでにちょっと良いお茶っ葉をゲット。
小麦とジャガイモの種はさっそく、事前に耕しておいた畑に植えておきましたよ。
収穫の季節が楽しみ!
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基督皇歴1612年 花月 27の日
「きみのペースに付き合ってると、爺になる。マジで」
とのことでキョータローさん、家畜を手に入れてきてくださいました。
えー? 勝手にぃー? あんまりこの辺りで、目立つような買い物、して欲しくないんですけれど。
……と、思ったけど彼、身分を隠して、こっそり買い物してくれたみたい。
気が利くじゃないですか。意外と。
そうしてやってきたのは、”ゴールデンドラゴン”っていう小型の竜種と、”クダン”っていう、頭の良い牛さんです。
”ゴルドラ”はペットみたいで可愛らしいけど、”クダン”は顔が人間っぽくて、ちょっとキモいです。
……鶏とか、山羊とか、豚とか、もっと普通の家畜は手に入らなかったんでしょうか。
「ありがたく思ってくれ。本当はもっと、ゲーム後半じゃないと手に入らないレア家畜なんだぞ」
うーん。
まあいいや! ようこそ、私たちの村へ!
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基督皇歴1612年 花月 28の日
それにしても、キョータローさんの貢ぎっぷりがすごい。
なんかこうなってくるともう、ちょっと怖いくらいです。
昨日に引き続き、今日はなんと、”夢と夜の杖”なる”マジック・アイテム”をプレゼントしてくださいました。
こちら、――えいやっと杖を振るうだけで、暴力的な魔法エネルギーが飛び出す仕組みみたい。
「毎日”金竜の卵”を食べて、”クダンのミルク”を飲むんだ。そうすればきみの最大HPとMPがてきめんに上昇し、”杖”とのシナジー効果が発動して、――これは詳細を省くが、結論から言うと敵は死ぬ」
ですって。
あとで調べたところこの杖、かなり高いものだったみたい。
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基督皇歴1612年 花月 30の日
ところでさっき、ふと思ったんですけど。
キョータローさん、……ひょっとして、私に惚れてる?
私と結婚したい感じ? だからこんなに尽くしてくれるんでしょうか?
となると、ちょっぴり困ってしまいます。
あの方、気の良い性格ではあるんですけれど、顔がちょっぴり、――怖いんですもの。
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