『ヒノモト・センソーダイスキ』 ルール説明 その3
●【合戦】について
ターン終了時、敵対する勢力のコマが同じマスに存在した場合、【合戦】が発生する。
【合戦】の勝敗判定は、
「”ダイミョー”(戦力1)」+「”テシタ”(1コマにつき戦力1)」+「その他のユニットの戦力」+「任天カードによる戦力変動」
によって決定される。
●合戦後の処理
・敗者:戦争に参加したコマは全滅する。
・勝者:敗者の戦力分をマイナスしたコマがその場に残る。どのコマを残すかは勝者が任意で決めて良い。
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さて。
ここで、現状における狂太郎側、――ヘイシ側の盤面をまとめてみよう。
いま狂太郎は戦力を、近畿地方における東西の境界線に集中させている状態だ。
ただし”テシタ”コマを一騎のみ、”最初の目標”を満たすべく九州方面へ向かわせている。
飢夫側の戦力は、2割を”ダイミョー”コマの防御に、8割を同じく、侵攻部隊として編成している状態だった。
――怖いのは、何らかのカード能力で”最初の目標”の邪魔をされることだが。
いくら天才といっても、予言者ではない。こちらの動きが見えない以上、妙な行動はできないはず。
ボードゲーム、――というかゲーム全般において、敵戦力の過小評価はもちろん危険だが、過大評価もまた、危うい。
敵の一手を過剰に高く評価してしまうと、どうしても攻め手が及び腰になる。”いかにして勝つか”ではなく、”どうすればみっともなく負けないか”を意識してしまう。強者というものは大抵、弱者のそういう性質を感覚的に理解しているから、そこを突こうとするのだ。
まず、心で負けないこと。
仲道狂太郎の腕はプロゲーマーにはほど遠いが、その程度のことはわかっている。
――よし。次の手でとりあえず、”最初の目標”を達成できるな。
そして、次の次の手ですぐさま、【進軍】を開始した。
モニターに表示されている飢夫に視線を送る。
すると彼も、無言のままこくりと首肯した。
結局、飢夫側の”目標”ははっきりしないが、まあいい。
『あのぉー。狂太郎さん?』
「ん?」
顔を上げる。兵子だ。
『たぶんあなた、そろそろ”最初の目標”、達成しますよね?』
「……また、揺さぶりをかけるつもりか」
この読みは、驚くほどではない。
この手のゲームに慣れていれば、ある程度”最初の目標”が達成可能なターンは逆算できる。
『あーいや。そういうんじゃなくてね? 一応、忠告しとこうと思って』
「?」
『もし、次のターンで”目標”を達成するつもりなら、止めといた方がいいと思いますよぉ』
「ん? なんで?」
『そりゃあもう。こっちの手のひらの上だからっす』
「だったら、わざわざ言う必要もないじゃないか」
『わかってないなぁ』
そして、へらへらと笑って、
『このまま終わったら、なーんの盛り上がりもなく終わっちゃうっしょ。そうなると、つまんないじゃないっすかぁ』
「……………」
『俺、狂太郎さんのこと、尊敬してるって言ったっしょ? だから、簡単には負けて欲しくないなーって』
安い手だ、とは思う。
狂太郎は今の会話を、一切なかったことにして、
「……”テシタ”コマを一体、長崎へ。その後、全軍を敵陣に移動させる」
と、指定。
スクリーン上で、数千人から為る侍の一隊が、長崎へと到着したことを示すムービーが流れる。
それと、ほぼ同タイミングであった。
『プレイヤー・狂太郎が”秘密の目的”を達成しました。
ただいまより、プレイヤー・狂太郎の保有するコマの東日本への進軍が可能になります。
また、全プレイヤーにゲームマップが公開されます』
狂太郎の目の前のゲームボード、その半分を覆っていた戦場の霧が、溶けるように消失したのは。
「…………」
息を呑み、敵側の戦力配置を確認する。
やはり、というか。”テシタ”コマの層は厚くない。
だがその代わりに、――東京付近に一匹、とんでもない怪物が、いる。
ゲームの縮尺からして山ほどもある、昏い目をした巨人だ。
その肌は泥のような色をしていて、笑っているようにも、泣いているようにも見える不気味な顔をしている。
「なんだこりゃ」
狂太郎が首を傾げると、
「殿! あれなるは”ダイダラボッチ”なる妖怪にございます!」
すかさず、解説役のリリスが叫んだ。
「ダイダラボッチ?」
「は。古来より、日本各地で見られる巨人で、国作りの神とも同一視される妖怪です! なんでも、富士山を作ったのは彼だとか、ちょっとおしっこしただけで河ができたとか、なんかそーいう、とんでもない逸話を持つやつですよ!」
と、いうキャラ設定ということだな。うん。
「ちなみにゲーム的には、どういう動きをする?」
「一匹だけで戦力10。――しかも一度の【進軍】アクションで、3マスまで移動する能力があります」
「なるほど」
戦力、10。
信じられない戦力だ。まともに殴り合って勝てる相手ではない。
これは現状、狂太郎が侵攻部隊として編成している全戦力の、さらに倍に等しい。
つまり――。
「まいったな。これでは攻め込めないじゃないか」
この独り言に、『ハッハッハ!』と、楽しげな声。
『ほーら、言ったっしょ? 殴り合うにはまだ早いって!』
いや。そうは思わない。
狂太郎は目を細めて、次のターンの戦術を構築し直した。
”テシタ”コマが多いというアドバンテージは、他にもある。【徴収】アクションによる資源獲得効率が違うのだ。
即座に《すばやさ》を起動。
別案の最高効率手を計算する。
――このままカードと資源を増やして、こちらも”ダイダラボッチ”か、それと同等の戦力を持つ妖怪を召喚する。
結局のところ大事なのは、【合戦】が行われるタイミングで必要な戦力を保持していること。これである。
『その場に留まって、――ぶくぶくぶくぶくと……戦力増やしまくるつもりっしょ? そうはさせねぇからなぁ』
それを察しているのだろう。
次の手番、兵子がカードを公開した。
『ゲンジ陣営・兵子により、任天カード”ヨスズメ”が使用されました。
ヘイシ陣営はこれより2ターンの間、【進軍】アクションの実行が不可能になります』
狂太郎のコマに、どんより暗い、雲のようなものが発生する。
可哀想なことに『目が見えねぇ、見えねえよぉ……』と、自陣の兵隊たちが、怨嗟の声を上げていた。
――こんなカードもあるのか。
今回のゲームでは、敵も味方も、カードの能力を把握していない。
故に、敵の手番で何が起こるか一切わからない、という恐ろしさがある。
――任天カード”スーパーチート全滅ビーム”。盤面の敵は全員死ぬ。
……というようなカードがいつ使われてもおかしくはないのだ。
まあ、余興とは言え、そのレベルのクソゲーを運営が採用するとは思えないが。
その後、狂太郎・飢夫は自陣勢力の強化にあたり、敵側は”ダイダラボッチ”を戦線へ移動させる方針を採る。
「天下分け目の合戦、って感じだな。どうも」
呟きながら、――狂太郎はそこで、ようやく初の”任天カード”の取得に成功した。
そこで初めて知ったのだが、……引ける”任天カード”は地域ごとに一応、特色があるらしい。
言われてみれば、影女は山形県の妖怪だし、ダイダラボッチもその逸話的に、東側で主に活動している妖怪である気がする。
要するにこのゲーム、その地方で登場する妖怪が仲間になる、というイメージのようだ。街に異人種が跳梁する世界にはピッタリのゲームである。
なお、狂太郎の手駒が【徴収】コマンドで手に入れたカードは、以下の三枚。
・”アカナメ”:戦力1の妖怪。敵味方問わず、”テシタ”コマがいない任意のマスに召喚可能。
・”アマビエ”:戦力0の妖怪。”テシタ”コマのいる任意のマスに召喚可能。同一コマにいる”テシタ”は、敵妖怪の悪性効果を受けない。
・”ガシャドクロ”:戦力1の妖怪。本拠地周辺のマスで【合戦】が起こった直後に、その隣接したコマに召喚可能。この妖怪は、味方コマが死亡するたびに戦力が+1される。
「ほう……」
今さらだが、このゲームのやり口が見えてきた気がする。
兵子くんの助言は、……結局、正しかった。
どうも、”テシタ”コマで殴り合うのはわりと、リスクの高い行為であるらしい。
――このゲーム、基本は妖怪同士の殴り合いをするのが正道なのか。
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