ハルミ=ムクの前で、若い男が目を止めた。
<♪ ワタシハ・メイド・アンドロイドデス>
ポロロン……。
<♪ ワタシヲ・ツレテイッテクダサイ>
<♪ ワタシハ・オキャクサマノ・オヤクニタチタイ>
ポロロ……。
彼女は、プラチナ通りのウインドウで、夢みるように歌っていた。
「ピンクのメイド服に薄ピンクの瓶底メガネが目立つな……。くりっとした赤い目に赤毛もさらさらとしていい」
土方玲は、少し伸びたアゴヒゲに手をやり、にやにやが止まらない。
「どことなく、うちの妻? 美舞殿、そして、娘ちゃんのむくちゃんに似ている……。彼女はいいなあ」
玲の一声で、忙しい土方家で働くこととなった。
<♪ ワタシハ・カラダガ・ジョウブデス>
「はは。頼もしいなあ」
我が家は、可愛い女の子、むくが生まれたばかり。
「ばーぶっ」
<ヨシヨシ・オジョウサマ>
ハルミ=ムクが、むくを抱っこして居間に顔を出した。
むくは、瞳が右は美舞似の深い碧で、左は玲似の茶。
さらさらの翠髪を前髪ちょんちょりんに結って。
絹をまとった肌。
ベビーウエアは、水玉が多い。
ビューティー赤ちゃんである。
「むくちゃん、おはよう」
「おはようだね、むくちゃん。まだおねむかな?」
両親の玲と美舞は、ソファーでほのぼのとむくを見つめている。
美舞は、とびきりの美少女で、長い翠髪を結い上げ、黒ぶちメガネの奥に、左目が吸い込まれそうな黒なのに対して右が海の様に深い碧眼、小柄で活発である。
ミジンボーダーを好んで着る。
夫にシマシマ仮面と呼ばれて喧嘩になったことがある。
玲は、さらさらの茶の前髪長めのショートに両の瞳も茶で、すらっとし、闊達としている。
妻にカラスみたいと言われる程、全身真っ黒なコーディネイトである。
朝晩、小さな団地の玄関でキスをし、ハルミ=ムクに見られて照れる新婚さん気分は抜けない。
休みの日には、ソファーでお茶をしながら、ニュースの話等をよくする。
しかし、イチャイチャばかりしていられない。
むくは、元気!
ハルミ=ムクが、むくを居間のカーペットに優しく座らせたとたん、激しいハイハイが始まる。
あちらこちらにぶつかりそうになるのだ。
「はうはう、ぶーぶー。てってっ」
喃語も張り切って進む進む。
すると、ハルミ=ムクが、さささっと助けに行く。
<オジョウサマ・テーブルハ・キケンデス>
「ふんぎゃ! ほんぎゃ!」
結局、まるテーブルにぶつかってしまう。
慌てて、ハルミ=ムクが抱き上げる。
<ゴメンナサイ……>
ヅーッ。
ヅーッ。
ハルミ=ムクは、失敗をすると、ピンクのメイド服に合わせたかのように目が光る。
頭を逆さに抱っこする、ハルミ=ムクに美舞はがっかり。
編み物をする手を休めた。
「ねえ、玲、買い物間違えたんじゃない?」
「ははは。そう言うと、ハルミ=ムクが、傷付くだろう。目がピンクになって泣いているよ」
「アンドロイドは泣きませんよ。だって、こんなことばかりなんだもの。ハルミ=ムクは、欠陥品よ。選んだのは、玲でしょう」
ドン!
滅多に声を荒げない玲がテーブルを叩いて立ち上がった。
「俺は、何も悪いことしていない……!」
すると、玲達の頭がぐるんぐるんとマーブルになった。
皆、大きな地震に襲われたと思う程、立ちあ上がれなくなり、這いつくばった。
グアララララララ……。
ドドーン……。
「……」
「ここはどこだ?」
暗闇の中、第一声は、玲だった。
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