ハルミ=ムクは夢みるアンドロイド

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第5話 バトル離乳食<現→異>

公開日時: 2020年9月1日(火) 16:11
文字数:1,189

「美舞まーまの離乳食がそろそろできますよー」


 キッチンから居間に声が届けられた。

 ごっきげんの美舞がちょっと怖い玲であった。

 玲は、新聞をたたみ、顔を恐る恐る隠した。


<オクサマノ・リニュウショクヲ・メシアガリマショウ>


 ハルミ=ムクが、玲の近くにいたむくをかがんで抱っこしようとする。


「ば、ぶぶぶー」


 てててててて。


「ばぶぶぶぶー」


 てててててて。


<ゴキゲンガ・ヨロシイデスネ>


 ハルミ=ムクは、ハイハイに励むむくに微笑ましいと目を光らせた。


 ピッピッ。


「ばぶ!」


 何かに気付いた様だ。

 今は、テレビの真正面のまるテーブルの側。

 近くのソファーや三段ラックをちらちらと見る。


「ぶぶぶ」


 むくが逃げる。

 テレビの裏へ入ろうとして下の二段ラックを避けた。


 てけてけてけ……。


「ぶぶぶ」


 むくが逃げる。

 まるテーブルの下に入ろうとして、座布団にスベった。


 てけてけてけ……。


「ぶぶぶ……。ぶぶ?」


 むくが振り返る。

 キッチンから、トレーを持っているにこやかな美舞が見えた。


 むわ~ん。


 言いようのない離乳食の存在感を感じる。


「はい、むくちゃん、美味しい離乳食の時間ですよー」


 美舞は、まるテーブルに離乳食を置いた。


「お昼のメニューは。……ジャジャーン! バナナパンと高野豆腐と玉子のハンバーグにミニワンタン野菜スープですよー」


<ミマイサマノ・テヅクリデスヨ>


 ハルミ=ムクは、子供椅子を用意した。

 テーブルには、スプーンにエプロン。

 完璧である。


 用意ができていないのは、むくだけだった。

 心の準備だ。


 むわわ~ん。


「ばあ! ぶう! ぶう!」


 ハイハイで後ずさり、首を振って激しくイヤイヤをした。

 赤ちゃんの悲哀が伝わってくる。

 後ろにいたハルミ=ムクに、ひょいと捕まってしまった。


「あぶ、あぶ、あぶあぶ!」


 椅子に座らされたむくが逃れようと暴れまくる。


「あぶあぶあぶあぶ」


 どうしたらこの危機から逃げられるか分からない。

 最後の手段だ……。


「あぶー!」


 むくは後ろでマジックテープで留めてあるエプロンを引きちぎった。


 ガターン……!


 作りたての離乳食が舞い上がり、散った。

 テーブルもソファもカーペットもそこらじゅうべしゃべしゃで、むくも顔から手からべちゃべちゃである。


「……。何をしたの? むくちゃん、ハルミ=ムク。そんなに、私の離乳食が憎い?」


 わなわなと震える美舞に、新聞で顔を隠していた玲も口を挟もうとした。


「私の離乳食を食べてくれないのは、ハルミ=ムクのせいよ。ハルミ=ムクが料理上手だから……! 私のごはんなんて、猫も食べないわ」


 美舞がさめざめとする。


 ドン!


 滅多に声を荒げない玲がテーブルを叩いて立ち上がった。


「俺は、何も悪いことしていない……!」


 すると、玲達の頭がぐるんぐるんとマーブルになった。

 皆、大きな地震に襲われたと思う程、立ちあ上がれなくなり、這いつくばる。


 グアララララララ……。

 ドドーン……。


「……」


「ここはどこだ?」


 光の中、第一声は、玲だった。

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