「ここはどこだ? またもや、うちではないな」
眩しくて目をぐっと瞑ってしまう。
暫く慣れるまで待って、薄目を開けてみた。
驚愕した。
炎の世界であった。
ぼぼう……っ。
揺らめく炎に身構えた。
本能で、腕で顔をさっと隠した。
「さっきまで、団地にいた気がするが……。この世界も最初は炎の世界ではなかったぞ。確か、氷だった……。その後、炎に追われて、団地に帰ったんだった」
玲は、はっとして、注意深く下がった。
後、十二ミリの差で、踵が白い魔方陣に沈んでいた。
「あの冷たい不思議な世界で繰り広げられた事は、団地に帰った時に覚えていなかったな。でも、再び来てみると思い出す」
<レイサマ・ソチラニ・オラレマスカ>
ピピーッ。
ピンクのサーチライトが玲を際立たせた。
玲は手を振って応じた。
「おお! ハルミ=ムク。助かった。美舞とむくちゃんを見かけたか?」
<イイエ>
瞳がゆっくりと点滅した。
「今度は、俺も歩ける。一緒に探してくれないか? 美舞とむくを守らなければ」
白い魔方陣と所々燃える地を避けて、ハルミ=ムクの所へ慎重に歩んだ。
<オサガシイタシマス>
ピピーッ。
ピピピーッ。
ハルミ=ムクの手が光り、辺りをサーチした。
「よし、この調子で二人で探そう」
ぼうう……。
ぼぼぼ……。
玲の恐れる炎をハルミ=ムクがピンクのシューズで踏み消しながらゆく。
「うおおお! 炎を踏んでも大丈夫なのか?」
<ハイ>
ポロロ……。
<♪ ワタシハ・カラダガジョウブデス>
歌うように誓いを立てた。
いくらアンドロイドでも火傷は避けられない温度の中を懸命に歩んだ。
「おーい、美舞! むくちゃん!」
炎の熱に負けまいと玲は懸命である。
「むくちゃん!」
ピピーッ。
ピピピーッ。
ピッ。
「どうかしたか?」
<オジョウサマ・コチラニ・セッキンシテイマス>
パッ。
パッ。
パッパッパッ。
『むくちゃんです』
「無事だったか!」
<オジョウサマ・ロクニン・オラレマス>
『ぶんしんのじゅつですよ』
「分身の術? むくちゃん、そんなに超能力ができるのか!」
玲が下から呼びかけると、確かにむくは分身の術で遊んでいた。
「我が娘ながら、驚きだ……」
ここは、先ず率直な感想を言おう。
つかまえるのはそれからでいい。
「で、本当のむくちゃんは、玲ぱーぱの所に抱っこされにおいで」
『わあーい。まだ、あそびます。たくさん、むくちゃんがいて、たのしいです』
流石は我が娘、この程度の策にはのらないかと玲が次の手を考えている時だった。
パッ。
パッ。
パッパッパッ。
『ぶんしんなのです。いってきます』
ひゅーいーん。
「ああ! むくちゃん!」
<オジョウサマ・オツレシマス>
フーイー。
「あ……。もう、誰もいない……」
「美舞、そうだ、美舞は?」
ぼぼう……っ。
「離乳食を食べなさいよー!」
「おお、落ち着けって。むくちゃんが怖がるだろう」
ぼぼぼぼ……。
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