『きゃるーん! きゃるーん!』
薄暗がりの中、ぴゅんぴゅん飛んでいる。
『はいはいより、ぶつからなくていいです』
<ナニガアルカ・ワカリマセン>
ハルミ=ムクは、耳のアンテナを立て、正確にむくの位置を把握した。
『ぶつからないから、あぶなくないです』
ひゅーいっと高い方へ上がった。
<サア・オジョウサマ・オイデナサイ>
ハルミ=ムクも駆け上がるように追った。
バタバタバタバタ……。
『はるみままんと、おいかけっこは、たのしいです』
むくはにこにこと振り返った。
ハルミ=ムクは、びくっと速度を落とした。
<ワタシヲ・ハルミママント・ヨンデクダサルノデスカ>
『いつもおいかける、はるみ=むくは、ままんです』
<♪ ワタシハ・メイド・アンドロイドデス>
ポロロ……。
ハルミ=ムクは歌にのせて体を揺らした。
『はるみままん、だいすきです』
むくは、ひゅーんと、ハルミ=ムクの回りで輪を描いた。
ハルミ=ムクは、うろたえながら、むくを目で追う。
<♪ ワタシハ・オキャクサマノ・オヤクニタチタイ>
ポロロ……。
ハルミ=ムクは、再び、歌った。
そして、瞳がピンクになっていた。
ヅーッ。
ヅーッ。
そのまま、追いかけるのを止めてしまった。
そして、玲の所へ向かった。
バシューン……。
ズッシャーッ……。
<レイサマ・オジョウサマヲ・ミウシナイマシタ>
玲の目の前に来た。
先程よりは薄暗がりがマシになっていた。
「えええ! むくちゃんに何かあったの?」
<オジョウサマガ・ワタシヲ・ハルミママント・ヨンデクダサイマシタ>
ハルミ=ムクは、肩をカタカタとさせた。
<アト・ジュウニミリノトコロデ・ワカレマシタ>
ヅーッ。
ヅーッ。
「わー、泣くな。泣くな」
「うん……。大体、話は分かった。絡んだ毛糸のようだな」
ハルミ=ムクはこくこくと頷く。
「俺の役にも立ちたい。むくちゃんの役にも立ちたい。そうだな」
ヅーッ。
「わわっ。そう泣くな」
「今度は、俺も行く。ここでじっとしていたら、氷が水のようになってな。もう少しで立てそうなんだ。歩くのは分からないが」
「この黒い魔方陣が意味不明なんだよな。俺への罠か?」
よっこらせっと。
やっと立ち上がった。
「所々、草のない所があるのだが、どうなっているか分かるか? ハルミ=ムク」
<マホウジンガ・テンザイシテイマス>
「いやー。それは困ったな。氷の草むらを行くか」
パリーンパリーン……。
パリパリーン……。
「ちょっと痛いけど歩けるじゃないか」
<ワタシモ・オトモ・イタシマス>
パリーンパリーン……。
氷の草むらをひたすら歩んだ。
暫く行くと、向こうから、得たいの知れぬ暑さを感じた。
「ハルミ=ムク、この暑さをサーチしてくれ」
<カシコマリマシタ>
ピピピピピピピピピピ。
<マウエヲ・ゴランクダサイ>
はっと、玲が見上げると、大きな赤く燃ゆる星が炎の手を伸ばしていた。
そして、玲とハルミ=ムクを飲み込もうとしていた。
「走れ!」
<ハイ>
タタタタタ……!
タタタタタ……!
方向なんて分からない。
炎の手から逃れるべく逃げ回った。
『れいぱーぱ!』
ほよほよと、炎の中を飛んできた。
「いやあ! むくちゃん無事だったか……」
そこに、急に目に入ったのは、仁王立ちの妻であった。
「おや? なぜか美舞がいるな。無事に生き残っていたか」
「いて悪いかしら? で、どうして、むくちゃんが空を舞っているの?」
「あなたのせいよ」
ドン!
滅多に声を荒げない玲が黒い魔方陣を叩いて立ち上がった。
「俺は、何も悪い事していない……!」
「うわああああ……。又かあ?」
玲は、自分の運転する車でも酔うタイプなのだ。
すると、玲達の頭がぐるんぐるんとマーブルになった。
皆、大きな地震に襲われたと思う程、立ちあ上がれなくなり、這いつくばる。
グアララララララ……。
ドドーン……。
「……」
「ここはどこだ?」
眩しい光の中、第一声は、玲だった。
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