マッシュームヘッド

頭からキノコが生えてきやがった!?
雪年しぐれ
雪年しぐれ

キノコ頭

公開日時: 2020年9月4日(金) 07:24
文字数:3,207

「うわぁぁぁぁ…僕の…僕の頭にキノコがぁ…キノコが…」


社会人が急ぎ足で支度をするこの時間帯に雄二は鏡に移った自らの姿に驚愕するしかなかった…


彼の頭から赤い傘をした立派なキノコが生えていたのだ。残業で残っていたの雄二の眠気も一気にぶっ飛んだ。


「なんだよ…これ…とりあえず病院?」


おい…おい…!


頭上から声がする。それがキノコの声だと気づくのに時間はいらなかった。


「おいおい…まじかよ…」


雄二は頭のキノコを指先でつついてみる。するとキノコは物凄い勢いで胞子を吹き出した


「うげぇぇぇ!!」


たまらず雄二は咳き込む。


「取ったら殺すぞ?」


頭のキノコは意志があるようで取ろうとすると胞子を吹き出すが、それ以外は無害のようだ。仕方なく雄二は持っていたバンダナを頭に巻き付けて、ドアの前に立つ。


きっと仕事に行けばこのバンダナをイジられ、もしキノコの存在がバレれば自分はどうなるのかという不安に胸が押し潰されそうになる。


「やっぱ…明日から頑張るか…」


雄二は扉に背を向け自室に戻ろうとする。だが


「待て…外に出ろ」

「えっ…あっはい」


キノコは、雄二の体を引っ張った。雄二はそれに逆らうことができずにドアを勢いよく開く、すると外には雄二の頭にキノコが生えた時以上に驚愕する光景が広がっていた…


「うっ…

うわあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


見渡す限りの一面にキノコ…キノコ…キノコ…!!

建物には大中小のキノコが生え揃い。空気中を胞子が蔓延し町中をキノコのような怪物が行き交っているのだ。


「その胞子を吸うとお前も化物になるぞ」


雄二の頭の上のキノコが忠告し、自身で雄二の顔を覆った。


「ガスマスクの代わりだ」


「なにが…起きているんだよ」


思考が追い付かない雄二に、キノコが諭すように言う。


「この街を侵略しただけさ」


雄二は絶句するしかなかった…


「なーにしょげるな、スマホを付けてみろ」


頭のキノコが雄二にスマホを見るよう促す。するとスマホにはいつも通りの日々があった。侵略されたどころかキノコに関するニュースなんて何一つない。SNSを開いても、なんの変化もなかった。


「どういうことだよ!!外はキノコまみれだっていうのに!!」


「この街のすべての情報は我々が支配している外へのカモフラージュだ。」


カモフラージュ?雄二にはキノコの言っていることがわからなかった。


「ふん、バカな人間め、俺はさっき言っただろ?この街を侵略したって…」


なるほどと雄二も理解した、キノコまみれになっているのはこの街だけで、外の街はいつもどおり、キノコどもの侵略は始まったばかりで情報を外に漏れないようにしたという訳だ。


「それなら…!」


雄二は両親の片見のライターを握りしめると、バイクのキーを片手に、家中の使えそうな物をバックに詰め込んだ。


「おい、人間なにをしている?」


「この街を出て、現状をしらせる」


「死ぬぞ」


死ぬ…そんな恐怖も雄二にとっては微々たるものだった。雄二にはそれよりも"恐ろしい"ものがあるのだから。


「ふん、お前みたいな訳のわからないキノコを頭に生やしたまま死ぬよりマシさ」


強がりでそう言い飛ばす。するとキノコは黙りこみ震えていた。


「俺を殺すのか?」


「…」


雄二はキノコを煽りすぎて怒らせてしまったのかと思った。しかし違うようだこのキノコは笑いをこらえている。やがて堪えきれなくなったのかゲタゲタと笑い出した。


「ヒャハハ!!気に入ったぜ人間!!死を恐れないその態度…いや死よりも恐ろしいものがあると言ったところかぁ?」


「僕のことを気に入ったなら黙れ、それから僕は雄二だ、覚えろ」


「勿論覚えてやろう、宜しくな相棒!」


相棒というワードに雄二は違和感を覚える。このキノコは侵略者、そして自分は人類、敵なのだ。ここで雄二の頭に疑問が湧く


「おいキノコ、お前は僕に寄生してるんだよな?それにさんざんお前の胞子も吸い込んだのになぜ僕は化物にならない」


「簡単なことさ、俺がお前らの味方だから、それから俺もキノコじゃねぇぞ…」


キノコが雄二の頭からスポンと抜ける。

そして膨れ上がり人の姿になった。真っ赤な髪をした筋肉質の男の姿だ。


「俺はキノコじゃねぇ、俺の名はマシューだ!!」

「マシュー…」


もはやなにが起きても驚かない。驚くという感覚が麻痺してきたからだ。


「さぁ行くぞ雄二!!」


マシューは自らの体を少しちぎる。するとそれがガスマスクに変化した。それを雄二に渡すとマシューは再び自身の体をちぎり、今度は刀を形成しそれを帯刀した。


「この俺、マシュー様が貴様がこの街を出るまでの護衛を請け負おう!」


マシューは玄関から飛び出した。雄二もガスマスクをつけると、バイクに股がりマシューの後を追う。愛しのバイクにキノコは生えていなかったようで快調なエンジン音を響かせた。


「へへ、来やがったぜ!」


外にでたらすぐに化物どもがこちらに気づいたようだ。やつらが一斉に追いかけてくる。


「いくぜ!相棒」

「まて!マシュー!!」


マシューは雄二の忠告を聞かずに化物の群れに飛び込んだ。ニヤっと笑って刀を抜く。そして自らの胞子を刀身にまとわせ、化物どもを容赦なく切り捨てていく。


「ヒャハハ!!この程度かよ雑魚がぁ!!」


「…同族なんだろ容赦ねぇな、つかあれって元人間なんだよな」


「なんだ?罪悪感ってやつか?躊躇ってたら俺らが死ぬぜ」


もう後ろの化物の群れを倒したマシューが雄二のバイクに追い付いてきた。

この調子ならこの、街から脱出は容易かもしれない。しかし


「マシュー…俺はお前を信用できなてないからな」


「ほぅ?」


「この街を出たらちゃんと俺の味方をした理由を教えてもらおうか」


マシューは聞いても面白くねーぞと鼻で笑った。信号を守る必要もなければ、制限速度を守る必要もない。雄二はスピードを上げる。だが


「なっ!?」

「バイク止めろ相棒!!」


二人の前にこれまでの化物とは遥かに巨大な化物が地面から生えていた。ざっと10メートルといったところだろうか?


「チッ…突然変異か」


「どうするんだ、マシュー!?」


化物もこちらに気づいたようで、その二本の触腕を構える。


「別な道でいくか?」


「いや、どうせ追い付かれる、背を見せるよりここで倒す方が楽だ」


マシューは本気でここを通るつもりのようだ。


勢いよく振られた化物の触腕を見切るとマシューはカウンターで叩き切る!そのまま跳躍し、化物に切り込んだ。胞子が舞い、化物の悲痛な声が響く。だが浅かった…


「しまっ!!」


化物はすぐに傷を再生するとマシューを触腕で縛り付けた。刀で反撃しようにも再生されて終わりだ。


「クッソ…!!」


雄二は必死に頭を回す…なにか!なにかないか!!


「ライターだ!!ライターをよこせ相棒!!」


マシューに怒鳴られ雄二はポケットをまさぐる。両親の片見のライター…マシューはこれで何をする気だ?雄二の中に嫌な予感が広まっていく。こんな胞子まみれだというのにライターを着火なんてすれば、化物も含めた全員がタダではすまない…


「ったく…どうせ死ぬなら相棒を信じてやるよ!!」


雄二はマシューに向けて全力でライターを投げた。学生時代に球技を嗜んでいて良かったと痛感する。正確なコントロールでとんだライターをマシューは口でキャッチした。


「いくぜ」


マシューは自らを縛っている触腕を内側から切り荒らす。そして再生が始まる前に抜け出した。


「見とけ相棒!これが貴様ら人類の切り札!キノコ狩りのマシュー様だぁ!!」


空中で刀を縦にふる。怒濤の風圧が起こり辺りの胞子が化物に降りかかる。そしてライターに火をつけ、化物にぶん投げた。


「爆ぜろぉぉぉ!!」


胞子まみれになった化物が炎に包まれていく。


「なーに、ぼやっとしてやがる燃え広がる前にズラかろうぜ」



そういってマシューはまた街の外を向けて走り出した。雄二も再びバイクに股がり、マシューの後を追う、マシューだって謎だらけのキノコの化物だというのに雄二は彼を相棒として信じようと思ったのだ。

不定期ですが、これからも短編を投稿していくので本編と合わせてお楽しみください!

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