須和真保さんはスマホが恋人!

はっきりしてくださいよ! 須和真保さん! 貴方は僕とスマートフォンのどっちが好きなんですか!? スマートフォンで紡がれるドタバタ・友情・青春ラブコメ!
夜野舞斗
夜野舞斗

君の夢は何でしょう?(裏)

公開日時: 2020年9月4日(金) 08:57
文字数:3,150

 私が体験した保健室の出来事は、本当に恐ろしい物であった。

 

 まさか、彼に「ね、ちゅーしよう……」なんて言われたかと思ってしまった。古典的な聞き間違いと言われるかもしれないが。心も体も憔悴しょうすいした時点で「熱中症か?」と告げられたら……。

 恥ずかしくて、顔が爆発するところだった。


 はぁあ……それにしても、今日一日ガラくんには非常に迷惑を掛けてしまった。申し訳ない。

 ガラくんも呆れていたんだよなぁ。だからこそ、「夢は何?」と聞いた時に本当のことを教えてくれなかったに決まってる。「一日中ふざけた奴に聞かせる俺の完璧な夢はねぇ」ってことなんだろうなぁ。


 それにしても、夢か……。将来の夢が全く思い付かず、毎度毎度の癖でスマホを触る。適当に考えていたら、結局変な診断に行きついた。えへへ……でも、それでガラくんが構ってくれたからそれで良かったか。



 そんな一日の様子を回想しながら、家に辿り着いていた。うっとりとした思い出にできる限り美化して。残酷な出来事からは逃亡する。

 ……結局、今日も好きだって言えなかったなぁ。

 私が夢を持っているとすれば、「ガラくんに好きになってもらう」……だ。

 たぶん、かなり苦労すると思う。玄関の外にいるカラスも「そうだそうだ」と騒いでいた。


「夢を叶えるために、か」


 夢に手を触れるためには、努力が必要だ。ガラくんを知ろうとして、何をやれば好かれるのか確かめなければ。

 やるべきことをスマホの手帳に一つ一つ入力していった。


『ガラくんの好きなものを知る』

『ガラくんに弁当でも作ってあげる』

『彼に笑ってもらう』

『彼の住所を知る』

『彼の家に遊びに行く』


 住所などはそのまま尋ねても、彼が困惑するだけであろう。こいつ「夜中に僕の家にある金目のもの全部持っていく気か!」なんて思われて、嫌われるのは最悪だ。

 だから、こっそりと。詐欺師のように彼の元から個人情報を抜き出さないとな……。

 ストーカーをしてもいいのだけれど、彼の家はどうやら私の家とは正反対。ついていってる途中で尾行に気付かれたら、終わりなんだよなぁ。


「仕方ないか……」


 そう簡単にラブコメ的展開なんてものは作れない。

 玄関の壁に体を預け、電子書籍やネット小説を読んでいく。だいたいのラブコメは主人公が変な能力を持っているけれど。

 ガラくん、別に奇妙な能力を持っているわけではないんだよね。頭から変な選択肢が出てくることもないし、召喚獣を学校で使役できることもない。

 読み進めていっても、やはり参考になるものはなし。

 双方がもっと距離が近いラブコメが多いのだ。すでに元カノだとか、幼馴染だとか、妹だとか。なれるわけがない。

 

「この状況を打破してるラブコメとかってなんだろ……ふわぁああ……」


 ……はぁ……ないか。

 文字を読んでいるうちに目の前がかすんできた。そのまま私の瞼が落ちてくる。意識も遠のていく。


「おーい! 真保さん! 真保さん!」

「ううん……」


 私が眠っていたところにガラくんが現れた。彼は何度か私の腹を擦っている。同時に私の腹も膨らんでいる。ちょっと待って。ガラくん、私が寝ている最中に何をやっていたの?


「寝ちゃってたんだよ……でさ、お腹のこの子のこと、どうする……?」

「えっと?」

「ほら、僕達の……愛の結晶だよ」

「ええっ!?」


 つまり、私は眠っている間にガラくんの子を作ってしまったということか。確かに夢がいきなり叶った。だけれど、非現実な話であってなかなか納得することができない。

 そうだ。夢かなと思って、頬を抓ってみる。痛い。これは、夢じゃないのだ。

 本当にガラくんが私のことを好きになって、一緒に愛を育んでいたのだ。

 現実ではあり得ないのは承知。そうそう、ラノベなんかではよくあること。もしかしたら、この世界もラノベか何かかもしれない。タイトルは「スマホが好きすぎて、彼との交際を私が覚えていないだけの件!」。激甘ラブコメ間違いなし。


「そっか……ガラくん……! サイテーよ!」

「えっ!」

「ああ……また間違えたサイコーだった!」

「良かったぁ!」


 そのかっこいい笑顔がたまらない。幸せの余韻にボケーっと浸っている。そんな最中のことであった。


「あれ、どうしてガラ? あたしとは遊びだったの……!?」


 ガラくんの真後ろにいたのは、アイリちゃんだった。彼女は顔を涙でくしゃくしゃにし、酷い顔でこちらを睨みつけている。何なの、この状況は!?


「ガラくん? 一体、アイリちゃんに何をしたの? 遊んでたって何?」

「い、いや、その……えっと、僕は……そのね……えっと」


 私とアイリちゃんを何度も見回し、困惑するガラくん。貴方は何をやったの!? 

 アイリちゃんは悲痛な様子で叫んでいた。


「あたしの方を愛してたのよね!」


 いや、でもアイリちゃんが勝つことはない。私には、彼との子供までいる。この腹に、ね。ここはアイリちゃんとは違って寛容な心を主張してみよう。


「ガラくん……男はそういうもの。理解はしているつもりだよ。豚野郎でも構わない。私を愛してくれていたことは事実だから。ね! ガラくん! まだ、やり直せるよ!」


 その言葉でガラくんは私の方へと向く。もしかして……!


「真保さん……!」

「ガラくん……!」

「別れよう」


 へっ!?


「ちょっと待って! このお腹にいる子はどうするのよ! 貴方がお父さんなんでしょ!」

「……だけどね」

「ちょっと!」

「おろせよ……と言うまでもない。僕は、こんなこともできるんだ!」


 彼が指をパチンと鳴らす。すると、私の腹はいきなりボールへと変化して。ポトンポトンと床に跳ねるだけ。子供は消えてしまった。


「ガラくん!?」

「それじゃあね。僕はアイリさんと共に行く!」


 ガラくんは私に背を向けると、アイリちゃんと腕を組んだ。彼女は歓喜の声を上げている。


「やっぱり、あたしが最高なんだね! ガラ……いえ、ダーリン!」

「そうだよ……あはは。理想のかなたへさぁゆこう!」


 置いていかれる私。彼らは玄関から出ようとしている。そんな時、刃物が天井から降ってきた。これで……これで……!

 私はガラくんを狙って、裸足で走り出す。


「この浮気者! 粛清してやる!」


 そのまま足で地面を蹴り飛ばし、頭で相手の背中を打ち砕く!

 刃物は使わなかったが、ガラくんは空のかなたにいるお星さまになった。結果は刃物を使ったのと同じだから、良しとしよう。使わない刃物を放ろうとしたら、いつの間にか強い力で握られていた。

 そして、その刃物はバラに変わっていた。

 

「あれ、アイリちゃん?」

「アイツをやってくれたんだね。ありがとう! 真保ちゃん!」

「えっ!?」


 彼女はすぐさま私の頬に口づけをした。私がバラや口づけに戸惑っているところに彼女は愛を伝えてきた。


「愛の楽園、エデンを作りましょう! あたし達二人の愛は永遠よ!」

「えっ、ガラくんが好きだったんじゃないの?」

「いえ。貴方が好きだったの! ガラくんは……貴方と一緒にいる口実だったの。そうでもしないと、貴方の近くで貴方を見ていられないから……真保!」

「ええええ?」

「そうだ。この場所に種を植えましょう。その大樹が立派に育ったら、あたし達の愛は永遠に!」



「ならないわよおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」


 母がじぃーとこちらを見つめている。

 あっ、どうやら眠って、夢を見ていたらしい。その証拠にすぐそこにいたはずのアイリちゃんがいない。しかし、あの痛みはどういうことだったんだろう?


「どうしたの? さっきから真保。寝言でうんうん言って……抓ってみたけど、起きなかったし……何か変な夢でも……?」

「な、何でもない!?」


 私は頬が熱くなるのを感じながら、制服を洗面所に脱ぎ捨てその場を去った。

 

 夢は深層心理ともいう。ということは、私アイリちゃんのことが好きだった……!? いやいや、そんなわけあるはずないでしょ!

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