「ここだっちゅ!」
屑のカピバラに連れられて、僕と真保さんがやってきたのは住宅地。幼稚園児が保母さんとおててを繋いで、登園している平和な風景は分かる。ただ、カピバラの言う怪人などは形も姿もない。逆に学校を無断で遅刻している僕達の方が怪人のように思えてきてしまう。怪人「ずるやすーみ」なんつってな。
そんなこと言っている暇があったら、隣にいるカピバラから情報を聞き出さなくては!
「で、危険な奴はここにいるで、間違いないんだよな」
「ああ。いるっちゅが、お前は関係ないっちゅ! 道端の草でも食ってろっちゅ!」
「お前が食っとけよ。草、食べてるんだろ?」
「こちとら毎回ステーキ食ってるんだっちゅ! そんな臭いもの誰が食べるっちゅかっ!」
「はぁ? 美味いか? そのステーキ。ふざけながらやった仕事で食う飯はさぞ、美味いんだろうなぁ!」
「そうだよね! 真保さん!」と僕は、後から考えて心底どうでも良さそうなことの同意を彼女に求めようとしていた。僕が横を見た先に真保さんはいない。
まさか、こっちに来る途中で真保さんを置いてきたのか!? 肝心の主役、置いてきぼりだと!?
「真保さん!」
僕は大声で呼ぶが、反応はなし。辺りを走り回りながら、何度も呼び掛ける。その行動が目立ったか。幼稚園児の方からは好奇の視線をぶつけられ、保母さんは「見ちゃいけません。早く行きましょう!」と不審者扱いされる始末。
「いい気味っちゅね。笑われてまちゅよー!」
「お前だよ。お前。露出魔のカピバラさんよぉ!」
「は、はぁ!? 動物はみんな全裸っちゅ!」
これは全部カピバラに向けられているものだと言うことにして、気にしないことにした。それよりも真保さんだと思ってたら、彼女は魔法少女の衣装をまとって、スマホを持っている人に次々と注意をぶつけていた。
「ちょっと! スマホ歩きやスマホ運転をしてると、超危険だし! スマホの印象が悪くなるのよ! やめてください! あっちも! そっちも! 絶対スマホ歩き、スマホ見運転はダメよ!」
ああ、ちゃんと正義はやっているのね、と思ったら、僕の隣にいたカピバラは叫んでいた。
「何やってるっちゅか! そんなどうでもいいことはほっといて、早く怪人を制圧するっちゅ! その力は大きな正義をこなし、世間にわぁわぁ言われるために作ったっちゅ!」
「えっ」
あまりにも堂々と本音を伝えてくるものだから、驚いた。真保さんは正義執行に夢中でカピバラの話を聞いていないようだが。それに気付かないカピバラはそのまま野望を語っていく。
「そんな小さなものを退治したところで何にもならないっちゅ! 一銭にもならない小さな正義なんてどうでもいいっちゅよ!」
「お前、世界一マスコットキャラになっちゃいけない性格だよ。誰がこいつをマスコットに就任させたんだよ」
僕とカピバラの口論が終わった頃、真保さんがやってきた。彼女の笑顔と正義感による一つ一つの行動。あのマスコットキャラに利用されようとしたのが、真保さんで良かったと思う。彼女以外だったら、カピバラと一緒に正義という名の悪を企んでいたかもしれない。
そう考えている間、真保さんはカピバラに怪人の居場所を尋ねていた。
「倒すべき相手が見えないけど。隠れてるの?」
「いや、そいつは魔法少女をたぶん狙ってるっちゅ! だから、普段は遠くにいるんだけど魔法少女が来たと同時に……来た! アイツっちゅ! 怪人ひぼーちゅーしょーっちゅ!」
カピバラが叫ぶとともに。いや、まるでカピバラが呼んだかのように、その怪人が現れた。黒いジャンパーを被ってまるで通り魔だ。ニヤケながらスマホを使っている。
分かった。たぶん、アイツ、ネットで誹謗中傷を行っているんだ。うん。本人も「げへへ、お前の個人情報を知って悪口をネットに流してやるー」なんて悪人としての自己紹介をしてくれている。結構、律儀な奴だな!
「気を付けるっちゅ! 真保さんも個人情報を知られないようにっちゅ!」
「そうなんだね! 分かった!」
カピバラのアドバイスに頷く真保さん。これで良いのかと思ったが、全然違う。あの、カピバラとんでもない戦犯をしてきやがった。
「おい! 今ので敵に真保さんの名前が伝わっちまったじゃねえか!」
「ん……あっ、しまったっちゅ! まあ、でも名前位知られてもOKっちゅよ! 真保さんの住所もすぐそこの高校にいるってことも知られてないっちゅから!」
「お前、魔法少女の素性どんどん明るみにしてないか!? なんだよ! 普通、魔法少女って秘密主義じゃねえのか!? 何で、丸裸にしちまうんだよ!」
つくづく変態カピバラだとは思っていた。しかし、そこまで裸にしていたがっていたとは考えもしなかった。真保さん、個人情報を知られ大ピンチ(おもに攻撃は仲間から)。
「さぁ、こっちの失敗はどうでもいいっちゅ! スマホの写真機能から出されたレーザー! スマホの音響機能を使った超音波! 衛星にメールを送って巨大ビームを撃ってもらうと言う手もあるっちゅよ! さぁ、何で攻撃するっちゅ!」
……そんな技があったんだ……と思ったら、真保さんはすぐさま電話を掛けた。えっ、誰に……って。
「すみませーん、ここに不審者と動物園から逃げたらしきカピバラがいまーす!」
そりゃそうだ。日本の警察って滅茶苦茶優秀だもん。特別な訓練を受けてるんだから、素人の魔法少女が手を出すよりも的確に問題を解決してくれるよね。
怪人も警察に逮捕され、ついでにあのカピバラも護送されていった。途中警官に対して「警察なんてこっちの力があれば、簡単に破壊できるんだぞ」とか、「離せ―! 我を愚弄するつもりか」などと言って暴れてたから……。たぶん、脅迫と業務執行妨害がついたな。もし、裁判をやるのであれば指をさして笑いにいってやろう。
真保さんは魔法少女の衣装でいたせいで事情聴取を食らったが、何とか苦笑いで乗り切れたみたいだ。
「真保さん、大変だったね」
「ええ……ほんと、魔法少女になんてなるもんじゃないわー」
「ん? 真保さん、別に怪人に対して苦労してはいなかったよね。あのカピバラもほとんどイチコロみたいなもんだったし。警察の事情聴取がそんなに大変だった?」
「ううん、あのスマホの機能があるとね?」
「あると……?」
「スマホの電池の減りがとっても早いの」
……そっちですか。いや、でも真保さんのスマホとカピバラにもらったスマホとは別ものではと思ったが。真保さんのスマホの方にも何やら怪しげなアプリがたくさん入ってきちゃってる。
なんか、ウイルスに感染しちゃってるみたい……。
「こっちのスマホに私の個人情報をちょっと入力したら、私のスマホまでアプリを勝手に入れられて……」
「ああ……」
「迷惑この上ないわよー! 後、貰ったスマホどうやって充電すんの! 充電器貰ってない!」
真保さんの元々のスマホには呼び出しアプリやら、マスコットとのお話アプリなどとてもどうでもいい機能が備わっている。そのせいで電池が早く減ってしまうそうだ。
確かにこれは真保さんにとって、憂鬱な出来事に違いない。
「ドンマイ」
「ええ……」
それに懲りて肩を落とす真保さん。
しかし、その数日後。
「ねえ、ガラくん! 私、ロボットに乗ってみないかって、誘われちゃった! これ、乗った方がいいかな! 今度は怪しげなマスコットはいないし! スマホも機体の中で充電し放題だってさ!」
真保さんは教室の机をたたいて、僕に言う。だからこう返してあげた。
「何か裏があるに決まってるだろ! 前ので懲りてくれ!」
「えへ!」
こつんと頭を叩いて舌を出す真保さん。今日もまた、彼女は忙しい。
ってことで、番外編は一旦終了。次回からは本編に戻ります!
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