須和真保さんはスマホが恋人!

はっきりしてくださいよ! 須和真保さん! 貴方は僕とスマートフォンのどっちが好きなんですか!? スマートフォンで紡がれるドタバタ・友情・青春ラブコメ!
夜野舞斗
夜野舞斗

「番外編」す魔法少女になっちゃった!?(2)

公開日時: 2020年9月10日(木) 16:38
更新日時: 2021年3月15日(月) 23:32
文字数:3,045

 僕は目を瞑り、できるだけ身を守ろうと腕を前に出した。しかし、何も起きない。真保さんもステッキを持って、唖然として口を開けていた。

 服装もいつものセーラーで。変身などしてもいない。

 そこで慌てたのが、マスコットキャラ的なのを名乗っているであろうカピバラの悪魔だった。


「えっ!? ちょっ!? おかしいな。正義の心が足りないのか……それはないはず……!」


 奴は自分の体毛の中に手を突っ込み、いろんなものを取り出した。


「正義執行ステッキがダメなら、正義シャボン玉? いや、武器の適正は七歳までだからこれは使えない……ナイフは魔法少年用だし……」


 真保さんはステッキをその場に置き、ただただカピバラを見つめていた。それにしても彼の体毛からは「正義」と名の付く杖やら、本やら、ナイフやら、拳銃やら。挙句の果てには日本刀なんかも出てきてる。

 早くこいつを銃刀法違反か武器集合罪かなんかでしょっ引いてくれないかな!? 正義の「せ」の字も見当たらないんだが!

 武器がたくさん出てきてる状況の中、僕は足が震えて動けなかった。真保さんに何か言おうとしても焦りと恐怖で言葉が出てこない。

 そんな僕とは対照的に真保さんは自分のスマホをいじり始める。きっとゲスカピバラのやり取りに飽きたのだろう。そんな中、カピバラが不思議なものを落としていく。

 一つのスマートフォンだ。


「あれ、これ……」


 真っ先に食いついた真保さんはスマホを拾い上げる。すると彼女が白い光に包まれる。……適正ってスマホだったんだ。そのことは知っていたので、この反応についてはあまり驚けなかった。逆に顎を外してまで驚愕しているのが僕の近くにいるカピバラモドキだ。


「真のスマホ中毒しか使えないという、その武器をまさか……使えるっちゅうんか!?」

「いや、気付いてなかったの!? 真保さんがスマホ中毒ってことに!? 彼女、そう言う人だよ!?」


 カピバラは僕のツッコミを他所にじっと真保さんの変身を見つめていた。まさか、こいつ……と思い、カピバラの前に立ち塞がった。


「何をするっちゅか! 折角の変身が台無しっちゅ! おい! 見せろっちゅ! ばさって服が脱げるところを! 脱げるところを!」


 慌ててる様子からして、どう考えても真保さんが変身する際に、服がはだけるのを見たがっている!

 

「見せるかよっ!」

「エロいところ見てねえと、この仕事やってられねえんだよー!」

「その悪趣味で魔法少女のマスコットキャラクターやってんなら、やめちまえ! 今すぐ辞職届出して、動物園に就職しとけ!」


 そうこう言い争っているうちに肝心な魔法少女の変身シーンは終わっていた。ピンク色のスマホにピンク色のフリルとスカート、純白のワンピース。彼女は素敵に輝いていたのだが。

 そうだ……変身が終わったら、僕が手始めにやられるんだった……! ツッコミしてたら忘れてた。


「あっ、ちょ! 真保さん!」


 僕の焦りには気付かないよう。真保さんは片手でスマホを持ち、片手でピースをして、決めゼリフ的なものを放っていた。


「す魔法少女須和真保見参! 悪い奴は社会的制裁でお仕置きよ! で、いいのかな?」


 ま、真保さん……変態カピバラは手の先でこちらを示し、調子に乗っていた。


「いいぞ、やれっちゅ! この怪人、ヌスミギキ―&ムッツリ―をいてこましたれっちゅ!」

「真保さん! アイツの言うことを聞くな!」

「真保さん! やるっちゅ! スマホ必殺技はアプリを使って、倒すんだっちゅ!」


 カピバラの命令に彼女はどんどん近づいてくる。僕はまだやられたくないと手を前に出した。そんな時、彼女は持っていたスマホを一旦振り上げる。


「真保さん……!」

「ひっさぁつ! スマホで殴る!」


 そのままスマホがカピバラの頭に激突する。


「ま、真保さん……何をする!? こっちはあの男をやれと……」


 最初は僕への攻撃をアイツに当ててしまったのかと思ったが。彼女はスマホを左に投げて、カーブさせる。

 カピバラの横っ腹にぶち当たり、宙で円を描いたスマホが彼女のところに戻ってきた。


「ふふふ、必殺! スマホブーメラン!」

「真保さん! スマホのアプリを使って悪を一掃するんじゃないの!?」

「その前にガラくん、どいて! カピバラと一緒に攻撃が当たっちゃう!」

「あっ、分かった」


 僕が動くと、彼女はスマホを光らせる。おっと、これはスマホのアプリで必殺技が……。

 

「連続パンチからのアッパー! そして、スマホ落とし!」


 出なかった。それでも素早い身のこなしでマスコットキャラだったカピバラは何ということでしょう、頭から地面に埋まっているではありませんか。

 これぞ、匠の魅せる技ということですか。


「真保さん……結局スマホの本来の性能を使ってなかったよね……で、これで良かったの? 僕を倒さなくても……」

「ガラくんは何も悪いことしてないしねぇ。どう考えても、このカピバラの方が危険だったでしょ」


 良かった。真保さんも良心を持っていたようだ。彼女に感謝しなくては……!


「う、うん。ありがと。で、このカピバラどうする?」

「どうしよう。そうだ? フリマアプリが入ってるから、これで売ってみるってのはどう? 里親募集中的な感じで」

「ううん……でも素直に飼われてくれるかな、こいつ」

「ああ……こっちがちゃんと躾をしとかないと、後からクレームが来そうだな」


「ちょっと! 魔法少女のマスコットキャラクターを売ろうとするなっちゅ! こんな魔法少女、前代未聞っちゅよ!」


 カピバラが地面からむくっと出てきたので、僕は奴の毛を掴んで言い返す。


「初っ端から理不尽すぎる魔法少女のマスコットキャラも聞いた事ねえよ! もし悪いこと企んでたとしても最初はもっと猫被ってるだろ、普通!」

「だ、だってネズミは猫が天敵だっちゅ! 猫なんて被れるかっちゅ!」

「ああ……! なんなら、人間も天敵だってことを教えないといけないみたいだな……! さあ、選べ。今すぐ密林に帰るか、僕等におとなしく転売されるか!」


 あれ。このカピバラも悪役なんだけど。こっちのセリフも間違いなく、悪役の発言なんだよなぁ。これじゃ、どっちが悪か分からなくなってくる気もする。

 ただ、ここで舐められるわけにもいかない僕は奴を睨みつけた。


「わ、分かったっちゅ! さっきのは冗談っちゅ。だから笑って誤魔化してくれっちゅ!」

「反省してる?」

「してるっちゅよ! してるっちゅから早く失せるっちゅ!」


 僕は毛をぶさっと掴み、むしり取ろうとする構えを見せた。絶対反省してないよな、と威圧を掛けたのでカピバラも一応は震えていた。


「失せる? 取り敢えず、真保さんとお前が二人きりでいられると……真保さんにどんなことするか、不安なんだよ。僕もついていくからな」

「うう……女子高生と二人きり、襲うチャンスが……」

「早くこいつを刑務所……いや、保健所送りにしてやれ……」


 真保さんはカピバラの様子に苦笑い。彼女の強さなら襲われることもないであろうが……純情な真保さんに怪しいことを吹き込んで、犯罪をやらせかねないからな、このカピバラ界の外道は。

 そんなカピバラは突然、毛がボサッとしたかと思うと、騒ぎだしていた。


「そろそろ時を止める力も使えなくなるっちゅけど、ちょっと! 大変っちゅ! 街の郊外で怪人が暴れてるっちゅ! 真保さん、出撃っちゅ!」

「えっ、いくの? 学校は?」


 真保さんの疑問に義務教育も受けていないであろうカピバラは「そんなのどうでもいいっちゅよ!」とほざいている。ああ……もう遅刻は確定だな。

 正直、怪人のことよりも遅刻の方が不安だった。二時限目の前までには戻ってこれるよなぁ……?



 


 



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