これは僕の描く不思議な世界の真保さんだ。これは実際の真保さんとは全く違い、実際の人物や地名は全て架空上のものであります。た、たぶん。
番外編では僕以外の視点変更はないです。あっ、これは絶対ね。
その日、彼女は学校の前まで食パンを咥えながら走っていた。
「はふ、ひほふひほふー!(あうー、遅刻遅刻ー!)」
校門から急いで入ろうとしていた僕に大激突。入ろうとしていた学校の反対側へと吹っ飛ばされてしまった。折角、後一歩で学校に入れたのに。
何か、現実で起こるはずのないラブコメ展開に邪魔されたんですけど……!
「もう、真保さん……何でパンなんて食べてるの!? 少女漫画でももうその手使わないよ!」
「えっ、バカ! そういうのじゃないの! 漫画とか関係なくて、本当に時間なかったんだよ!」
「そうなの……? 真保さんって朝なかなか起きれないタイプなんだ」
「ううん」
「えっ!?」
「ベッドの中でスマホ見てたら、つい、ね!」
……そこはスマホにアラーム機能でもつけておこうよ、とアドバイスしようと思ったが。今はそれよりも早く学校に入らないと、遅刻になる。こんな話してる場合じゃない!
もう校門で教師も待っていない状態だ。早く入らないと、一時間目の授業にまで遅刻してしまう。そう思った時だった。
周りで走っていた車の動きが停止した。それだけだったら、単に何か障害物でもあって車が止まったように考えるだろう。しかし、辺りのコンビニの客や飛んでるハエさえも動きがない。
時間が止まったみたいだ。
少々驚いてしまった。しかし、よくよく考えれば好都合。時計は止まっている状態で、僕も真保さんも動けているのだから。
これで玄関にいる教師をすり抜けて、何事もなかったかのように席に座っていれば……。登校遅刻で怒られることもない、と。
真保さんはそんなこと関係なさげにスマホで止まっているハエを撮影して、写真をSNSに投稿しようとしていた。
「えっー? 何? これー? 止まってるハエが」
「今、それやる時じゃない!」
「って、投稿したけど、全く反応来ない! 何で―!?」
「そりゃ、時止まってるからね!? ってか、もう遅刻とかどうでもよくなってない?」
「……あっ、そういや遅刻しそうだったんだ!」
いや、真保さん。そこ忘れちゃダメだよ。何のためにここまで登校してきたの……?
まあ、いいや。真保さんと共に校門へと駆けだそうとしていた。だが、そこで高い声の何かに声を掛けられた。
「ちょっと、待ちゅのであーる!」
何だ、この忙しい時に! 時止まってるけど!
僕は怒りの感情で振り向き、真保さんはスマホを片手に後ろに顔を向ける。
そこにいたのは、宙に浮かぶカピバラみたいなネズミだった。僕も思わず懐にあるスマホを出して、写真を撮ろうとしてしまいそうになった。いや……真保さんに後で写真メールを送ってもらえばいいか……。
じゃなかった! お前は誰だ!
「ん? 何のために僕達を呼び止めたんだよ! 遅刻しちまうだろ!」
「……ネズミが喋ってるナウと……」
そのネズミは僕よりも真保さんの方に視線を向ける。どうやら勝手に写真を撮られたことに憤っているらしい。
「ちょ! 人の写真を勝手に上げるなっちゅ!」
「あっ、そうだった! いい、撮って?」
「いや、それやってる暇はないっちゅ!」
僕が「いや、僕達も暇がないんですけど」と呟こうとしたものの。先に真保さんが声を上げていた。
「ダメなの……じゃあ、何で時を止めたの? あっ、道案内?」
「そんなくだらない用じゃないっちゅ! そんなの時止める必要ないっちゅから!」
「じゃ、何なの? まさか、ナンパ?」
ああ……それはありそうだな。もしかして、こいつ時間を止めて真保さんを襲おうとしているんじゃないか……!? 僕は睨むも宙に浮くカピバラの化け物は何の反応も見せはしない。
「いや、違うっちゅよ!」
「え、違うんかい……」
あっ、つい失言が……。真保さんがこちらの言葉に対し、疑問符を浮かべていた。
「えっ?」
「いや、何でもない。それよりも、君は真保さんに何をするつもりなんだ!」
取り敢えず、話をカピバラの方に向けて、自分の発言を誤魔化しておく。しかし、そいつは僕の方を見ずに真保さんへ問い掛ける。あれれ……?
「君に魔法少女になってほしいんだっちゅ!」
「えっ、私が魔法少女……!? 魔法少女ものってこと? まだ十六だから、無理だよ!?」
「……いや、そういうのに出てもらおうとかそういうのじゃないから!」
「えっ、獣に襲われてあらぬことをされるというパターンじゃないの!?」
真保さんの聞いてはならないような言葉が連発される。これ、僕の失言よりも酷いよね。耳を塞いで聞かなかったことにするか。いや、もう真保さん、そっちのけで校舎の中に行ってしまおうかな。
しかし、彼女を置いてきぼりにすることは良心が許さない。
やはり、待ってあげるのが一番だ。
そう考えている間に誤解はなくなったよう。
「じゃあ、私が君と契約して魔法少女になり……」
「世に蔓延する悪共を秘密裏に蹴ちゅらすのだ!」
「……あっ、メール来た」
「今大事なところっちゅよ! 人の話聞いてたっちゅか!?」
僕がそんなカピバラモンスターに声を掛ける。
「ううん、たぶん真保さんは適任じゃない……かな。違う人を探して来たら?」
「真保さん、もう一度言う! 悪共を蹴ちゅらさないと、日本の未来もないっちゅよ!」
「あれ、僕完全に無視されてるよね!? 悪共ってまず君のことじゃないかなぁ!?」
真保さんはそのカピバラの怪物の声すらも聴かず、メールに返信打ってるし。って、ちょっと待て。時間止まってなかったっけ? あれ、雲が動いてる……。
「あっ、時間動いちゃってるよ」
真保さんの指摘に「いけないいけない!」と似非マスコットキャラは語って、またも時間を止めた。またも僕と真保さんは動ける状態で、ね。
「で、カピバラちゃん。私が魔法少女になるとして……戦えるの? そんな戦力、持ってないよ!」
「持ってなくてもいいっちゅ! 正義の心が強ければ強い程、魔法は強くなる! 悪人をぶちゅのめすことなど朝飯前っちゅ!」
「ふぅん……で、どんな魔法が使えるの?」
「ふふふ……それは戦ってからのお楽しみ!」
いや、待て。何か、話を先延ばしにしようとしてる展開だけどさ。実際敵との戦いは真剣勝負なんだよね。いざとなって技が練習できてなくて使えないとか、最悪じゃないか!?
このバカピバラは何を考えているんだ……!?
「今すぐ、魔法さんに真保の使い方を教えろ!」
今度は真保さんから「逆だよ逆」と言われてしまった。ああ……僕も何を考えていたんだ……。
まあ、何考えてたとしても問題ないか。カピバラは僕のことなどどうでもいいようで。
「で、真保さん。早速だけど戦いの場に」
「ねえ! 人の話聞こうって気はないんだね!? あっ、僕のこと見えてない? おーい、カピバラ―?」
「ええと、この近くにいるのは……」
ああ、全く見えてないのか、聞こえてないのか。仕方ないな。
どうやら真保さんのことしか見えない存在らしい。普通は真保さんにだけあのカピバラが見えて、僕には見えないって言うのがメジャーだと思うんだけどね……。
「うーん、まあ……じゃあ、真保さんに通訳して伝えてもらうしかないか」
「この話を盗み聞きしてるとんでもない悪男がそこにいるっちゅ! 最初の戦闘でそいつをぼこぼこにするっちゅよ!」
「見えてんじゃねえか! ってか、何、真保さんに吹き込んでんだ! おい! 真保さん!? 真保さん!? 何で僕の方を見て……」
ええっ!? 何で!? 理不尽でしかない!
真保さんがカピバラの上にパッと現れたステッキを持って、高く振り上げた。……ま、真保さんにやられるのか!? 僕は!?
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