銀の歌

Goodbye to Fantasy
プチ
プチ

第40話 そして彼らはいつも通り

公開日時: 2020年10月14日(水) 18:30
文字数:2,598


銀の歌


第40話



「ここをキャンプ地とする」


「前回の話と比べて、急激にIQが下がりましたね」


 昼下がりの時刻、わたし達は草っ原にいた。


 ダングリオを出て街道をしばらく歩いた後、街道をそれ、深い森の中に入った。そしてわたし達は休めるところを探して、比較的開けた草っ原までたどり着いたのである。

 そしてアルトさんはシーちゃんに積まれた荷物の一部を下ろし、ここにキャンプ地を作ろうと、やたらめったら適当に機材を置き始めていたのだ。

※セアちゃんの脳内ではそう見えている


「……そう言うな。今回は料理するんだよ。そういう回なんだ」


 アルトさんはタンと料理台っぽい器具をぶっ叩いた。野蛮な猿みたい。

※セアちゃん視点だとそう見える。


✳︎


「ここをキャンプ地とする!」


「テイク2ですね!」


 ー余計なー合いの手を入れるとアルトさんは、「ぺっ」と地面に唾を吐いた。……だいぶお怒りのようです。あまり煽るようなことは、言うべきじゃないかもしれない。


「ええと……。今回は料理をするんですよね?」


 わたしの態度が急に変わったので、アルトさんは顔をしかめた。けれどいつものことか。とでも言いたげに、ため息一つすると諦めたようで。


「それじゃ行くとする」


 言うと機材をほっぽって、何処ぞへと歩き出した。


「えっ!? 何処行くんです? 今からお料理じゃないんですか?」


 アルトさんの後を追いかけて、彼の服の袖を掴む。面倒そうにぽりぽりと頭をかいた。


「食材の調達だよ」


✳︎


 水のせせらぎが聞こえる。

 わたし達は今、渓谷のような場所の、小川まで来ていた。辺りを見渡せばどこまでも高くそそり立つ岩の壁。小川の水位は低く、水は石や砂利にぶつかり方向を変えて、緩やかに流れていく。そんな場所にわたし達二人は来ていた。

※シーちゃんはお留守番。


「アルトさん……着いたわけですが。ここで?」


 アルトさんはすぐさま頷いた。あまり会話したくなさそうな振る舞いだったので、本当は何を獲るとかも聞きたかったけど、そこは想像していくことにした。


 まあでも川ということは、きっと魚だろう。丸焼きにされた魚に、むしゃぶりつく自分の様子を想像して、お腹を鳴らした。そしてよだれがしたたる。


「じぇゅる」


「なんだその気持ち悪い擬音は……」


 「じゅる」と鳴らそうとして、失敗したのだ。よだれを変なふうに口の中に戻してしまう。慌てて腕で拭う。


「いや……だって楽しみで!」


 『そんなこと言ったって、しょうがないじゃないか』そんな気持ちを込めて言う。勢いに気圧されたらしいアルトさんは身を引いた。いや、引いたというよりは、ひいただったけど、まぁもぅどうでもいいよ。


「……でも意外だな。お前が【アルゴザリード】をそんなに楽しみにしてるとは思わなんだ」


 うんうん。と頷くアルトさん。だが待って欲しい。今あの人何て言ってた?


「あん? アルゴザリードて何です?」


 わたしが言うと。いやそれは誤解だと、手をパタパタ横に振った。


「いや、違う違う。別に成体を狩るわけじゃない。幼体を狩るだけだから、危険性は低いぞ。だから安心していい」


 そこじゃないんだよなぁと内心思う。そもそもそんな生物聞いたことがないのだから。

 ただそこで、はたと思い出す。あれ……なんか聞き覚えがあるなと。何処で聞いたかは分からないが、確かにどこかで……。


 悶々としていると、アルトさんが一度小川から離れ、木々が生い茂るあたりまで歩いていった。そしていくつか木の枝を折ってから戻って来た。


「ク、クレイジー」


 ついに頭がいかれましたか。そう言おうとして、止められる。


「あのなぁ。違うからな。そういうんじゃないからな」


 アルトさんは腰に取り付けられた刃物を取り出す。刃渡りは20cm程だ。そして刃物の腹を、木の枝にピタリとつけると、しゃこしゃこと削り始めた。木の枝を回しながら削り、片側の先だけを鋭利なものにしていく。

 繊細さが要求されるような作業に見えたが、手慣れているらしく、アルトさんはものの数十秒で終わらせた。


 この人は、ほんとにこういう手作業が上手い。手先が器用だ。アルトさんの理解を深めるとともに、なんの説明もなく突然木の枝を折り、削り出すという、理解できないことをし始める彼に、先ほどの発言をやっぱり繰り返して言う。


「ク、crazy……! 」


「なんでさっきよりちょっと発音がいいんだよ。違うっての。これはな」


 鋭利に尖った木の枝の先に息を吹きかけたアルトさんは、それを地面めがけて投げつけた。先の尖ったそれは、地面に亀裂を作って突き刺さった。


 これはもう槍じゃないかなぁ。小さいってだけで。


「はぁ。まぁそれはいいですけど……結局これはどういうことなんです?」


 首を傾けてアルトさんに尋ねる。そうすると彼は呆れたように手で顔を覆った。


「本当に鈍いな。だからこれで獲るんだよ」


「何を?」


「アルゴザリード」


 言われて分かったが、今回に関して言えばアルトさんの説明不足の方が悪いと思う。


✳︎


「そら」


 アルトさんは小川の中に、槍ー鋭利に尖った木の枝ーを投げ入れる。槍は水面に触れる時に衝撃で、『パン』と大きな音を立てる。そしてその後グサッと、嫌に生々しい音がした。何かに突き刺さったのだ。そしてその音を聞いて、アルトさんは呟いた。


「手応えありだ」


 衣服を濡らしながら小川の中に入り込むと、アルトさんは槍とそれに突き刺さった何かを抱えた。そしてそのままわたしの元まで帰ってくる。


「これがアルゴザリードだ」


 アルトさんにむんずと掴まれたそれが、わたしの目の前に掲げられる。


 それはトカゲだった。トカゲっぽかった。上手くは言えないが、なんか硬そうな甲羅を持ったウサギぐらいの大きさのトカゲだった。


「なぁにこれぇ……」


 驚いてみせるが、わたしはこれに見覚えがあった。というか食べた経験さえある気がする。その反応を訝しげに見ていたアルトさんは、「ふふっ」と鼻で笑った。


「なんだよ。お前もこれ見たことあるんじゃねぇか。そうだよ。多分……レストランとかで食ったんじゃねぇか。食用の肉として広く知れ渡っているからなぁ」


 「アルゴザリードはな」と付け足した。その説明を聞き、確かにと納得する。それをきっかけとして完全に思い出したのだ。調理済みだったとは言え、間違いなくこいつを、まるごと食べた。

 ついでに、もうちょっと余計なことを言うなら。


「アルトさん、なんかこいつ特殊配合できそうですよね?」


「オチが弱い」



第40話 終了

読み終わったら、ポイントを付けましょう!

ツイート