銀の歌

Goodbye to Fantasy
プチ
プチ

第50話記念! 短編集 後編

公開日時: 2020年10月26日(月) 18:30
文字数:7,326

銀の歌


短編集 後編


【それぞれの好きなもの】


『あの日聞いた言葉がトラウマになることを僕たちはまだ知らない』


 やぁ皆さん。こんにちは。僕の名前はシグリア。王国聖騎士団ユークリウス班所属の剣兵です。

 今日は僕の昔話に付き合ってもらおうかなって考えています。


 僕には同村出身の幼馴染が二人います。私含めて三人の間で起こった小さな物語を、今日は聞いていただきたく思います。時は今から三年くらい前、まだユークリウス班に配属されておらず、王国聖騎士団に入りたての、見習いの頃くらいのお話です。


 長くなりましたが、それではどちら様も着座していただいて、穏やかな気持ちで聞いてみて下さい。始めますね……。


✳︎


「おーい!シグリア!」


 後ろから馬鹿でかい大きな声が聞こえてきた。街中だというのに、周りに対して一切の気遣いもないこの感じは、間違いなく奴だ。


「ドルバ! 僕らはもう村人ではなく、聖騎士団の一員になったんだぞ。少しくらいは立場に見合った振る舞いをしたらどうなんだ……」


 顔をしかめさせて言う。


「ん〜な、かったいこと言うなよー。人生がつまらなくなるぜ〜。なぁお前もはっちゃっけていこうぜ」


 きひひと獲物を狙う肉食獣のように、顔をこわばらせる。

その様子に呆れて頭を抑える。

 今までだって何度かドルバには、自分の立場に見合った振る舞いをするように言ってきた。しかしいくらこの類の話をしても、ドルバが変わることは一度だって無かった。


 だから僕は不毛だなと思い直して、代わりに別の話題をドルバにふった。


「そう言えば、ミリアちゃんは一緒じゃないのかい?」


「んー? あいつならお前と一緒かと思ってたけど、違ったのか……」


 ミリアちゃんとは、僕にとっても、ドルバにとっても大切な幼馴染のことで、家族の一人と言っても過言じゃない。

 そんなミリアちゃんはどこか抜けた所があり、一人にさせておいたら、なにかと厄介ごとに巻き込まれる。そのため僕らは、なるべく彼女が一人にならないよう、たいてい一緒にいるようにしているのだが……。


 今回はお互いに、相手の側に居るだろうと考えてしまったようだ。


「ドルバ、まずいね……」


「ああ。まずいな」


 真剣な顔つきで互いに顔を見合わせると、言葉もなしに走り始めた。


「ドルバ、僕は大通りを探しつつ、人に聞き込みをする。君は狭い路地に、彼女が迷い込んでないか探してくれ。街の中だ……。森とはまた違った入り組み方をしている。彼女がそういった場所に迷い込んだら、自力では確実に抜け出せない」


「おう」


 僕らは散会する。想いは同じ。

 ミリアちゃん……無事でいてね。


✳︎


「すみません。ちっちゃい身長の、赤みがかった黄色の短髪の女の子、見ませんでしたか?」


「ごめんなさいねぇ。私は見てないわ」


「……そうですか。いえ、ありがとうございます」


 お辞儀をして感謝すると、おばさんは申し訳なさそうに笑いながら、立ち去って行った。おばさんが十分に離れた事を確認すると、頭を上げ、ため息をついた。


「はぁ」


 あれから何十人に話を伺っただろうか。以前ミリアちゃんに関する情報は集まらない。


 ドルバからも連絡が来ないし……本当にどこへ行ってしまったんだ。ミリアちゃん……。

 足取りを重く、陽が傾き始め、赤らんだ街並みを眺めながら行く。


 後一人、話を聞いてダメだったら、一旦ドルバと合流して、作戦を立て直そう。

 そう思い、藁にもすがる思いで、帽子を被った紳士風の男に声をかけた。


「あの、すみません……」


「何かな」


 帽子を手で押さえてこちらへと振り向く。その顔は厳しく、体もたくましいため、失礼な話。なんとも人を怯えさせる容姿だなと思った。

 ゴクリ。息を呑みながらも、勇気を振り絞り尋ねる。


「すみません……。赤みがかった黄色い短髪の子、見かけませんでしたか? 11歳の女の子なんですけど」


 相手の顔色を伺うように、少し怯えながら尋ねる。男性は話を聞くと、思い返すように目を閉じる。


「ほぅ」


 それからしばらくの時間が経つ。緊張しながら待っていると、シルクハットの男は、苦しそうに笑って。


「すまんな。分からぬ」


 そう呟いた。


「いえ! いいんです! お忙しいところ、時間を割いてしまい、申し訳ありませんでした」


 深々とお辞儀をして、お礼の言葉を述べる。

 すると男性から「代わりといってはなんだが……」と木製の割符をもらった。


「それはここの近くの、細い路地にある、小さな食事処の招待券だよ。裏に地図が書いてある。君はどうやらたくさん走り回っているみたいだからね。その女の子の事が心配なのも分かるけど、少しは休憩もしなさい」


 優しい声音で言ってくれた。言われて自分の容姿を見てみれば、土煙がつき茶色く汚れ、全体的に汚らしい。それは確かに酷い姿だった。同情心を誘う姿といってもいい。


「あっ……」


 僕が呟くと、その人は目配せして立ち去って行った。僕は瞳に涙を浮かべ、その人を見送った。


「ありがとうございます……。本当に……本当に」


 人の優しさに絆され、自分の立場など忘れて、僕はそこでいつまでもお辞儀をし続けた。


✳︎


 辺りが陰り始めた頃、消え入りそうな夕焼けの光を頼りに、僕はおじさんに貰った例の割符を持って、細い路地を歩いていた。


 あれからも散々散々探し回ったが結局見つからず、ドルバと一時合流して、あれこれと話してみたが、そうしている内に辺りもすっかり暗くなってしまった。

 僕らの体力も限界だったため、彼女のことを思いながらも、一度休憩を取るべきだと言う話になった。


 そこで僕が割符の事を話したら、そこへ行こうという話運びになり、今そこへ向かっているという訳だ。


「はあ。これは知る人ぞ知るって感じだな。普通に歩いたんじゃたどりつかねぇぞ」


 入り組んだ道を行きながら、後ろでドルバが独り言のように呟く。


「……本当にその通りだね。これは偶然には絶対に辿り着けないね」


 独り言と分かりながらも、僕もドルバの言うことに思うところがあったため、返事をした。


「案外こういう所にミリアがいたりしてな……!」


 ガハハとドルバが笑う。僕もその言葉に笑いながら軽口を返す。


「言えてる」


 二人ではははと笑いながら、そのお店と思わしき場所にたどり着くと。ーーいた。


「おい、あれ」


 ドルバが驚愕したような顔でこちらへと振り向く。僕の反応を待っているようだった。しかし、僕はそのことに反応するよりも、ミリアちゃんの姿に意識を奪われていた。

 足音を鳴らして、よだれを垂らすミリアちゃんの側へと向かう。


「あっ、おい! シグリア!」


 後ろからドルバが駆け寄ってくるが、そんなことはどうでもいい。今は、ただ!


「ミリアちゃん!!」


 怒声をあげる。


「ーー!!」


 ミリアちゃんはびくりと、小動物のように身体を震わせ、怯えた瞳で見てきた。


「……シグー。どしたの? そんな声を……その、出して」


 ミリアちゃんは戸惑いながら、プルプルと震える。その姿に僕はさらに怒りを覚える。怒っている理由に気づきもしていないのか。


 怒りに身を震わせながら、ミリアちゃんの肩を掴み叫ぶ。


「ミリアちゃん! 僕らがどれだけ心配して、君を探していたのか分からないのか!?」


「ーーひぅ」


 耳を抑えるミリアちゃん。

 あくまでもこちらの話を聞かないつもりなのか、その場から逃げようと、ミリアちゃんは立ち上がり走りだした。


「こらっ!待て!!」


 しかしグイと腕を掴むことで逃亡を阻止した。

 ミリアちゃんが辛そうに声を漏らす。


「いた、痛! 痛いよ、シグー……」


 涙目で訴えてくるが、そんなことは関係ない。ミリアちゃんの言動に、散々困らされてきた僕だが、今回のことばかりは許せない。一度ガツンといってやらねば……。


「ミリアちゃん!!!!!」


 『君が周りをどれだけ心配させたかと思っているんだ……反省しろ!!』言おうとした所で、後ろからチョップが飛んできた。


「ぐぇ!」


 怒りに満ちた瞳で後ろにいる人物に振り返る。


「何するんだドルバ!!」


「はぁ。いいから落ち着けよ」


 耳をほじりながら、あくび混じりにドルバが言う。

 その姿に僕は更に怒りを覚えるが、続けざまににドルバが放った言葉に僕は衝撃を受けることとなる。


「俺たちはさ。ミリアを心配して探していたのであって……。怒りをぶつけるために探してたわけじゃねぇだろ? ミリアの姿……見えてんのか?」


 言われてミリアちゃんの方をもう一度よく見る。彼女は涙と鼻水とで、顔をぐちゃぐちゃにして、泣き喚きながら「ごめんなさい……ごめんなさい」と小さな声で謝っていた。

 ミリアちゃんを逃さないようにと、僕が掴んだ彼女の腕からは、ぷちぷちと筋繊維がちぎれる嫌な音がする。僕らは聖騎士……普通の人とは鍛え方が違う。彼女も聖騎士とは言え、やはり性別の壁がある。同じ時間や量で修練を積んだ時、どうしても差が開く。


 つまり、こんな風に痛めつけて、泣かせているのは他でもない僕のせい。


「あっ……ああっ」


 力強く握りしめていた腕を放す。そして今更遅いとは思うが、頭を軽く下げて「ごめん」と俯いて呟いた。


 僕が握っていた腕とは反対の方の手で、ミリアちゃんは自分の腕をさすった。


「ほら、冷静じゃなかったろう?」


「あ、ああ」


 ドルバがけらけら笑いながら、僕の頭をわしゃわしゃと荒く撫でた。なので僕の頭はボサボサになった。

 力無くその場に佇むと、ドルバが代わりに僕の前に立ち、痛さからか座り込んでしまったミリアちゃんに、話しかけていた。


「ほ〜れ、ミリア。大丈夫だったか? 腕、痛いだろう? 後で医務室に見せに行こうな」


 よしよし頭を撫でて、ミリアちゃんをあやす。そうしてドルバは少しずつ少しずつ、彼女の緊張をほぐしていく。

 泣きじゃくっていたミリアちゃんは、やがて落ち着きを見せ始めた。

 そしてここで、ドルバは「でもな」と呟いた。


「でもな……。シグリアがここまでになっちまったのは、お前のせいでもあるんだぜ? シグリアが怒ることなんて滅多にないだろう?」


 いつものおちゃらけた態度は何処へやら。頼れる兄貴といった感じで、頭を撫でている。


「どうしてここへいたのか、とか。今まで何をしてたのか、とかは聞くつもりはねぇぜ。

 まぁ行くにしても、黙って行くことはねぇんじゃねぇかって、言いたいけどな」


 ミリアちゃんはごしごしと目元をこすると、安心しきった顔で、ドルバと目を合わせた。


「もうお前も11だもんな。別に俺らが気にすることはねぇと思うが、ここは俺たちにとって初めての街で、一度迷っちまったら、土地勘のない俺たちじゃ、のたれ死んちまうかもしれねぇ」


 「分かるか?」と頭を撫でて訊く。

 それを聞いたミリアちゃんはこくこくと首を縦に降った。それを見たドルバは、暖かく笑った後、目を伏せた。


「それに俺たちは、お前の兄さんに。テューイさんにお前を【頼む】って言われちまってんだ……。過保護になる理由分かってくれや」


 その言葉を告げた時、ミリアちゃんは顔を陰させると、静かにコクリと頷いた。

 それを見届けたドルバは満足そうに頷くと、僕の方を見るようにミリアちゃんを誘導した。今までは僕の姿が見えないよう、ドルバが自分の身体で遮っていたのだが、大きくそれたのだ。


「ほら、んじゃあーシグリアに謝っとけ……。誰よりもテューイの兄さんの意思を引き継ぎ、お前を心配してるのはシグリアなんだから。今回も必死になって、お前の行方を知るために、数えきれないくらいの人達に、話を聞いて回っていたんだぜ?」


 ミリアちゃんの頭をポンポンと二回叩くと、僕達から距離をとった。


ーーミリアちゃんが立ち上がる。


 僕もいい加減に俯いていた顔を上げる。そしてミリアちゃんに視線をぎこちなく合わせる。


「その……ごめんね」


 僕は謝る。その言葉に、ミリアちゃんはふるふると首を振って、僕の手を包むように、両手で優しく【弱く】握ってきた。


「こっちがごめんね……だから、いいの。ごめんねシグー」


 僕は彼女の背に腕を回すと、優しく抱きとめた。そして一つだけ涙を落とした。


「君が無事でよかった」


「うん、うん」


 ミリアちゃんも、涙の通り道の跡に、もう一度雫を通らせた。そしてそれを、僕の肩に押し付けてくる。彼女の顔は見えない。でもきっと、安心した顔をしてくれていると、思う。思いたい。


 そんな僕らを見ていたドルバが、不意にまた、馬鹿みたいに大きな声を出した。


「しっかし腹減ったよなぁ〜。なんかしら胃に物を入れねぇと、俺はもうもたねぇぞ。てめぇらはどうなんだ?」


 いっひっひと悪役のような笑みを浮かべて問いかけてくる。そう、これがいつものドルバだ。だから僕も真面目ぶって言う。


「はぁ。だからドルバ……。あまり大きな声を出すなって言っているだろう? それに今はもう夜だ。近所迷惑だ」


 指を立てて言うとドルバは「んなもん気にすんな」と言って笑った。僕はその様子を、何か満ち足りた様な顔つきで見つめると、「そうそう」と思い出した様に言う。


「こんな所にお食事処の招待券があるんだけど。加えてその場所はここだったりするんだが……?」


 ミリアちゃんの耳に届く様に、得意げに言う。すると彼女は、僕の懐から顔をキュポンと抜き出して、僕の顔を見上げた。


「えっ! えっ! 本当なの?」


 明るい声で言うミリアちゃん。現金だなぁ。

 僕はその様子に苦笑しながらも、お店の方へと向かって歩いて行く。


「そうだよ。ここは僕とドルバが持つから入ろうか、ミリアちゃん。ここのお店に張り付いていたっていうことは、何か食べたいものがあったんだろう?」


 お店の扉に手をかける。それを見たミリアちゃんは、爛々と目を輝かせながら、僕のすぐ後ろにひっついた。

 ドルバが「何言ってんだてめぇ! 全部お前の奢りだろうが!」と言っているが、目で威圧した。

 そしてドルバを黙らせたところで、ミリアちゃんに尋ねる。


「ミリアちゃんは何が食べたかったの?」


 お店の扉を開ける。そして後ろからは明るくて可愛い声がする。


「うん! ミリアはね!!

 【パスタ】っていうのが食べたいの! とっても気になるんだ!!」


 笑顔で語るミリアちゃんを僕たちは暖かく見守り、「じゃあ僕らも、それにしようかな」と呟いた。

 その日から絶望が始まることには気づかなかったんだ。僕たちは。



『胸に対するこだわり。前編』


「だからよぉ、ユークリウス。胸だよ、胸!」


「そう……なのか? ダリ」


 若い青年の二人が、密室で何やら密やかな話をしていた。一人は机の上に積まれた書類の山と向き合い、仕事をしながら。一人はその机に腰掛けて、鼻歌を歌いながら。


「おうともよ! やっぱり筋肉っつったら胸筋が一番だろうよ!」


 鼻の下辺りをクシッと擦る。まだ成人もしていない二人だが、このダリと呼ばれた男には、既に髭がある。そのため、その仕草もなんだか様になり、説得力が上がっているような気がする。


「……そうなのか。ふむ……。まぁお前がそう言うなら間違いないか」


「ああ、世の中の大半の人間は、胸筋が間違いなく好きだろうよ! お前も今度誰かに『好きなものってなに?』って聞かれたら胸が好き! って言っときゃいいんだよ……。それだけで、話が必ず膨らむから」


 親指を立てて力説する。その言葉を聞いて、ユークリウスは、まぁ、そういうものなのか。と納得しかけていた。

しかし。


「いや……待て……。それは私達のようなーー男性からしてみれば、なんの問題もないが……。女性に対して、そのように答えるのは何か間違いじゃないか?」


 流石におかしいと感じたのだろう。幼さの残る顔をしかめさせ、ユークリウスはダリに反論する。

 しかしそのくらいの反論、予期していたとでも言うように、スラスラとユークリウスを丸め込ませるための言葉を並べ始めた。


「ちっちっちっ! バカだなぁ! 女だからこそ喜ぶってもんだろ?」


「なに……?」


「だってなぁ、考えてもみろ? よく聞かないか『わたし〜男性のたくましい胸が好きなんです〜』って言葉」


 ユークリウスは手を止めると、今までそんな言葉を聞いてきたことがあるか考えてみる。すると彼の記憶には確かに。


「……あるな」


 それを聞き、ダリは満面の笑みで「だろぉ〜〜」と、下卑たにやけつらをユークリウスに向けた。


「ああ、だから次お前が、女に好きなものは何? って聞かれたら『胸』って答えろよ」


「わかった」


 素直に返事を返す。ダリという男に遊ばれているのにも気付かず、ユークリウスは次々とダリのいう言葉に頷いていく。


「ふむぅ。よく分かったぞ……しかしやはり不安だな。そんなことを言って大丈夫なものか」


 全てを聞き終えた後に、ユークリウスは不安げな声を出す。しかしその不安を無理矢理ねじり潰すように、ダリは最後の手札を切った。


「な〜に言ってんだぁ。【親友】。お前の唯一の友人が言うんだ。間違いないだろう?」


 その言葉を聞いた時、ユークリウスの表情自体は変わることはなかったが、少しだけ上ずった、明るい声がした。


「ああ。ああ……。お前の言う通りだ、親友よ。ダリ・ジェハード。そうだな。お前が間違ったことなどいうものか」


 ユークリウスは納得しながら、自分に言い聞かせるように呟く。それを見てダリは満足そうに笑った。


「いよ〜し! 我が親愛なる友、ユークリウスが、納得したところで……俺は行くとするよ」


 ガタンと仕事机から跳び降りると、出入り口の扉まで移動する。


「ふむ……もう行くのか」


「ああ。行くとするぜ。鍛錬があるからな! なぁに心配するな。大親友が言うんだぜ! 間違いないって」


 ケラケラといやらしく笑う。もしここに第三者がいようものなら、ダリ・ジェハードがユークリウスを謀っているのは、誰でも簡単に分かるだろう。

 ユークリウスだって、コミュニケーションが壊滅的にできないだけで、馬鹿ではない。


 普段のユークリウスならこんなこと、流石に気づくのだろうが、ダリの言葉を聞くたびに、彼の警戒心はどんどんほどけていってしまっている。


「そうだな、ではな。親友」


「おうとも! 親友」


 そう言ってダリ・ジェハードは、ドアを出て行く最中、小さく呟いた。


「まっ、俺は……【悪友】の類だろうがな」


 彼は呑気に鼻歌を歌いながら、すれ違い様にユークリウスの部屋へと向かっていく、小金色の髪の少女を見送った。


✳︎


 余談だがこの少女。ユークリウスの誕生日を聞きに行ったらしい。


短編集 終了


 まずは50話……62部分という膨大な量を読み進めてくださり、本当にありがとうございます。

 この小説を読んで下さった皆様が、楽しい時間を過ごせていたのなら幸いです!

 そしてこれからも銀の歌、応援してくださったら嬉しく思います。


 後、胸に対するこだわりの、後日談はまたいつの日か。


✳︎



シ「そう言えばドルバ……」


ド「んだぁ、どうした?」


シ「何で僕が数えきれないくらいの人に、話を聞いて回っていたって知ってるんだ?」


ド「自分で言ってたじゃねぇか? 聞いてくるってよ」


シ「いや……まるで見てたみたいに言うもんだから」


ド「…………」


シ「ドルバ? こっちを見るんだ」


ド「やっべ、途中サボってただ見てただけなのがバレる」


シ「ドルバ……(怒)」

読み終わったら、ポイントを付けましょう!

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