ブザーの音が聞こえる。
遠い昔の記憶。
擦れるナイキのシューズと、乾いたバスケットボールの音。
いつからか、思い描いてた。
学校に行く道すがら。
放課後のバスの向こう。
——街。
忘れたことはなかった。
今まで、一度だって。
ずっとずっと、明日についてを考えてた。
空の向こうの景色を見てた。
目の奥が焼けてしまうくらいの眩しい日差しの下で、立ち止まってしまう自分がいた。
それは「今日」もなんだ。
どうしようもないくらいに乾いた気持ちと、色褪せたコンクリートブロック。
あの路地、あの、——街角。
どこに行けば、昨日の世界に追いつけるのか。
どれくらいのスピードで走れば、また、キミに会えるのか。
諦めようって、思ってたんだ。
あの頃、私たちはなんでもできる気がしてた。
靴を履いて外に出れば、新しい「何か」に、いつだって出会える気がしてた。
梅雨が明けた7月の終わりと、蝉時雨。
誰もいない体育館の裏。
夕暮れ時に揺れる、教室の窓。
雲ひとつない空の下で、どこまでも続いていく線路の向こうを見てた。
チケットも買わずに、東京行きの電車を待ってた。
いつか、世界の端に行ってみようって、2人で話し合ったよね?
“バカみたいだな”
って、思うよ?
今となってはさ。
…でも、そうじゃないんだ。
きっと、冗談なんかじゃなかったんだ。
透き通ったキミの瞳が、はっきりと記憶の底に残ってる。
飾り気のない笑顔が見える。
キュッという素早いステップ音と、心地良いドリブルのリズム。
私たちはもう、会えない。
二度と、同じ場所にはいられない。
運命は、きっともう、私たちをどこかに連れ去ってしまった。
感じるんだ。
夏の終わりに咲く花火のように。
木漏れ日の下に過ぎ去る、川の流れのように。
ブザービートはもう鳴っている。
ボールはもう、明日の世界に触れている。
改札口を抜けて、駅のホームの階段を降りて。
“いつか”じゃない今日へ行こう。
溢れる人混みの中をかき分けながら、そう思った。
キミと別れたあの日のように、走り始めた電車の音を、耳のそばに感じながら。
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