とにかく、連絡を取ってみよう。
夢にしろ夢じゃないにしろ、呑気にほっつき歩いてる場合じゃない。
「…あれ?」
ポケットを漁ってみたけど、スマホがなかった。
それだけじゃなくて、財布も。
服は高校の制服だ。
…いつ着替えたの?
…っていうか、なんで何もないの?
駅のホームに戻って、鞄が無いか探した。
だけど、見当たらない。
誰かに聞いてみようにも、もう誰もいない。
…嘘でしょ?
なんで、…無いの?
まあ、…そうか
ここが夢なら、別に無くても問題ないか
何を焦ってるんだろう。
普通に考えればいいだけじゃないか。
わざわざ、難しく考えなくたって。
夢とは言えど、せっかくこの町に戻ってきたんなら、自分の家に寄ってみようかな?
駅の正面に戻って、駅舎の中にある時計を確認した。
時刻は午後17時を過ぎていた。
もう夕方か。
空を見上げると、太陽はまだ高かった。
微かなオレンジ色が、海の向こうに見えた。
民家のすぐ裏手には、黄金ヶ浜海水浴場が見える。
穏やかな潮の流れが、徐々に傾く空の色の岸辺に漂っていた。
今日はまだ、潮が引いてないんだ
上田浦には、潮が引くと歩いて渡れる小さな島がある。
島の上には祠が在って、そこには神様がお祀りされている。
子供の頃、一度だけその場所に行ったことがあった。
祠はとても小さくて、とてもじゃないけど“祀られている”って感じじゃなかった。
だけどどこか、神秘的だった。
海の上にポツンと立つその島は、どこか寂しくもあり、美しかった。
とくに夕暮れ時の景色は圧巻だった。
夕陽が綺麗な日には、島いちばんの景色がそこに広がっていた。
そのタイミングで渡れたら最高なんだろうけど、初めて行ったその時は、まだ日は浅かった。
一緒にいた子がいたんだ。
その当時のことを、いまだによく覚えてる。
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