27話 沖縄2日目 ホテル~美ら海水族館
ーピピピッ
「……ん"ん"……」
沖縄2日目の朝。
僕は自分のiPhoneの目覚ましに起こされる。
目覚ましを止めて、ボーッとした頭で僕の腕の中でまだスヤスヤ寝息を立てている最愛を眺める。
僕の左腕を枕にして、僕の背中に緩く手を回して寝ている春樹は、僕が、彼女の顔にかかるブリーチを繰り返している彼女の髪を払ってやると「……んぅ……」と小さく身じろいでまた僕に擦り寄る。
それが可愛らしくて僕は彼女の額に口付けを落とす。
「…………ん……じゅん……?」
「……起こした?」
「…………んー……」
春樹はゴシゴシ目を擦り、くあっ……と大きな欠伸を1つ。
そして僕の、少し髭の伸びた頬や顎に手を伸ばし、スリスリと触る。顔を擦り寄せたりもする。
触るとジョリジョリと音を立てるのを彼女はいつも楽しんでいた。
「くすぐったい。ジョリジョリ……ふふ」
「ふふふ」
「洵って、男だな」
「今更?」
僕はそんなご機嫌な春樹が愛おしくて組み敷いて薄い唇に口付けする。
角度を変えて口付けしていると「しつこい」とお叱りを受けてしまう。
春樹が起き上がっても僕は寝転がったまま、いつもと違う愛らしいワンピース姿の春樹を眺めて、彼女のすべすべして柔らかい腕に手の甲で触れる。
「なに?」
「ワンピース、もっと見たい」
「……2人の時だけな」
「うん」
そして「準備」と短くいうのでベッドから出て2人揃って部屋にある洗面所に行き、歯を磨き、僕が髭を剃っている間に春樹は顔を洗う。僕が顔を洗う間に春樹はスキンケアを済ませる。
僕もメンズ用の化粧水を塗る。
春樹が髭のなくなった僕の頬に触れてご機嫌に「ふふふ」と笑う。
僕はまた彼女に口付けた。
そしてワンピース越しに春樹の小ぶりなお尻にセクハラする。
キスをしながら、小ぶりなお尻をやわやわと揉む。
「……んっ……ダメだっ、て……じゅ、ん」
「……やだ……触ってたい」
「……っ……」
唇がまだ触れ合いそうなまま、春樹を見つめる。
多分、欲情した目をしてるだろう。
春樹は顔を真っ赤にして目を逸らせる。
春樹を見ていると、彼女に触れているとどうしても僕は暴走してしまう。
『男』として、『女』の春樹を愛したくなる。
どうして、こんな欲深い男になったんだろう。
ーピーンポーン!!
「……っ、は、はーい!!」
僕の熱を冷ますようにチャイムは突如鳴り響く。
春樹は身体をビクつかせてから僕からひらりと逃げる。
春樹に続いて洗面所から出ると訪問者はきっちりメイクをして涼し気なワンピースに着替えた泪さんで、メイクバックを持っていつもよりテンション高めに春樹と話していた。
いつもは寝起き悪いししんどいけど、今日は美ら海水族館行くと思ったらテンション上がって!と笑う泪さん。
「あ、おはよう!洵」
「おはよう、泪さん」
「これから春樹さん可愛くするからちょっと拓也んとこ行ってて」
「え?あの、」
「いいから!」
そうして僕は着替えとiPhoneだけを手に部屋を追い出され、困惑しながら拓也さんと泪さんの部屋のインターホンを鳴らす。
「……ん"ー、はい……」
「あ、おはよう、ございます」
「……はい……」
まだ眠いのかあまり機嫌の良くない拓也さんは僕を招き入れる。
まだ彼は髪がボサボサで、髭もまだ剃っていないようだった。
「……泪が……すみません。春樹さんを、可愛くさせたいって、張り切って……」
「あ、いや、全然!!」
「……ボクも……準備、しなきゃ……」
拓也さんはのろのろとスーツケースに向かいボーッとしながら着替えやシェーバーを取り出す。
そして、くあっ……と大きな欠伸をする。
「朝、弱いんですか?」
「……うー……うん……寝起き10分は頭が働かなくて……段々普通になるんですけど……顔を……洗うまでは、なんかボーッとして……」
ふらふらと足元の覚束無い拓也さんが壁にぶつかりながら洗面所に消えていく。
ので、僕ものろのろと着替え始めた。
着替え終わってからソファーに座らせてもらってiPhoneをいじったり、窓の外を眺めたりして拓也さんを待つ。
程なくして洗面所の扉が開き、いつもの爽やかな好青年風な拓也さんが顔を覗かせる。
「目、覚めましたか?」
「はい。お見苦しいところをお見せしまして申し訳ない」
困ったように笑う拓也さんはそそくさとスーツケースにシェーバーや洗顔類を直していき、出していた服に着替える。
「今日は美ら海水族館と美浜アメリカンビレッジでしたっけ?」
「確かそうですね。泪さん楽しみにしてたみたいですね」
「彼女も水族館とかそういうの好きですから」
定期的に行くんですよ、と拓也さんは楽しそうに笑った。
そんな話をしているとき、僕の鼻が何故かムズムズしだす。
そして、盛大なくしゃみを1つ。
「……ひっ、へっくしょいっ!!」
「おや、風邪ですか?」
「なんだろ……噂されてるのかな」
「隣の部屋のお姉さん達にえっちな噂されてるのかも知れませんね?」
ニヤニヤ笑う拓也さんの言葉に、それが否定できないような感じがして恐ろしくなる僕。
「……やだな」
「おや?思い当たる節が?」
「……からかわないでくださいよ」
いたたまれなくなっていると泪さんから拓也さんにLINEが入って、春樹の準備が終わったから来ていいよとのことだったので、僕と拓也さんは連れ立って僕と春樹の部屋に向かう。
インターホンを押すと、泪さんが出迎えてくれた。
「拓也、起きた?」
「ええ、ばっちりです」
入口でいちゃつきだすバカップル3号の2人を放置して、僕は部屋の中に。
春樹は、泪さんとまた色違いのワンピースを着て、不貞腐れたような表情でベッドに腰掛けていた。
いつもと全く違う系統の、いつもより可愛くなった春樹に僕は絶句した。
「…………」
「なんだよ、なんか言え馬鹿野郎」
「あ、いや、春樹、可愛いね。いつも可愛いけど」
「…………馬鹿か。この物好き」
春樹は僕から視線を逸らせて居心地悪そうにする。
顔は仄かに赤い。照れている。可愛い。
「感謝してよねー?」
「もう僕は貴方に何を奢ればいい?」
「あははっ、いいよもう!春樹さんとの楽しい思い出作ってくれたらそれで」
そして、まだ少し時間があったので4人でおしゃべりをして、集合時間になってから部屋を出る。
ちょうど隣からも秋斗さんと雅さんが出てきた。
「あ?なんでお前ら……」
僕達の部屋から4人で出てきたことにも驚く秋斗さんと雅さんだが、いつもと違う春樹さんを見てまた2人は目を見開く。
「春樹どうしたの?それ」
「……泪にやられた」
「……お前、女だったんだな」
「秋斗、それをお前はよく知ってるはずだけどな?」
「いててて!」
春樹が秋斗さんにアイアンクローをお見舞する。
すごい痛そうでげっそりした。
「いつもそういう服着ればいいのに」
「うるせーよ、雅。絶対やだ。似合わないもん」
「似合ってるって言ってるのに」
「うるさい馬鹿洵」
「いたたた!!」
何故僕もアイアンクローされたんだろう。
いや、まあ照れ隠しだってわかってるけど。
僕の春樹は今日もなんて可愛いんだろう。
それから朝食を食べて、すぐにホテルをチェックアウトする。
「はー、ねみー」
「ミンティア食べる?」
「食う」
欠伸をしながら運転席に乗り込む秋斗さんに、雅さんがミンティアを差し出す。
最後尾に乗り込んでいた拓也さんが「代わりましょうか?」と秋斗さんに問いかけるが、「いや、今日は大丈夫。明日頼むかも」と秋斗さんは答える。
それからほんの数分車を走らせて美ら海水族館に着く。
時刻は8時半になったところだった。
海人門(うみんちゅげーと)という場所から入っていく。伊江島や海を望め、とても綺麗。
ジンベイザメのモニュメントにテンションの上がったお姉さんと秋斗さんははしゃいで写真を撮りたがりみんなで撮ったり各自撮ったりする。
僕と秋斗さん、拓也さんは春樹と泪さんを雅さんに任せてチケットを恋人の分も買いに行く。
チケットを買い、水族館の中に入る。
まず写真サービスがあったのでそこで各カップルで写真を撮ってもらう。
そしてその近くには『イノーの生き物たち』という場所があって、『イノー』は沖縄の浅瀬のことで、浅瀬に見立てた水槽に小さな魚やヒトデ、ナマコがいた。
水槽解説してくれるプログラムもあり、それを聞きながらぎゃあぎゃあ言いながらヒトデやナマコを触った。
「ね!ね!春樹さん!春樹さん!!見て!!」
「おお!!すげぇな!!超綺麗!!」
続いて訪れた『サンゴの海』という約70種450群体の生きたサンゴの展示コーナーでは春樹を泪さんに取られてしまい、腕を組んではしゃぐ彼女達を僕達は微笑ましく見ていた。
「可愛いですねぇ。ねぇ、洵くん」
「そうですね、拓也さん」
僕達の最愛達が写真を撮れとせがんだので僕と拓也さんはすかさずiPhoneを構え、笑顔の恋人を激写する。
そして、彼女達を先頭に、僕と拓也さん、秋斗さんと雅さんが続く。
ふと振り向くと元祖バカップルの2人は寄り添い2人の世界に浸っていたのでなにも追求しまいとまた可愛い恋人達を見た。
『熱帯魚の海』に差し掛かり、色とりどりの魚たちが泳ぐ水槽の前でまた最愛達は「可愛い可愛い」とはしゃぎ、そんな貴方達が可愛いよと僕と拓也さんは思っていた。
いつの間にか元祖バカップルの2人とははぐれてしまったけど、水族館は特別な場所みたいなので探すのは辞めた。
『サンゴ礁への旅 個水槽』では春樹が異常にチンアナゴに反応していて、やはり僕の最愛は可愛かった。
その後、サメ肌や顎の標本が置いてある『サメ博士の部屋』を過ぎて『黒潮の海』に着いてから僕の隣に春樹が戻ってくる。
「泪さんはいいの?」
「拓也に盗られた」
「そっか」
不貞腐れた様子の春樹の背中に手を回して引き寄せる。
春樹は照れくさそうに僕に擦り寄ってから「なあ……」と呟く。
「なに?」
「あのさ、私の他に、女いたりしないよな?」
「いないよ。なんで急にそんなこと」
春樹は「だって……」と僕の肩に顔を埋めてポツリと不安を口にする。
「だって、私の扱い上手くなったし」
「春樹が仕込んだんでしょ?僕は春樹しか知らないし春樹しか要らないよ」
「ん」
僕の言葉に安心したのか、僕に寄りかかって微笑みながら展示を眺めて、ジンベイザメが前を通り過ぎると興奮したようにiPhoneで写真を撮る。
やっぱりいつでも最愛は可愛くて、僕は彼女に口付ける。
「……こら」
「ふふ」
「なんだよお前。タラシかよ」
「春樹限定だよ」
そんなやり取りをしながら給餌を見て、『深海への旅』という展示コーナーを周り、展示コーナーを脱出して、ショップに出る。
拓也さんと泪さんは既に買い物をしていた。
春樹が実架さんへのお土産にジンベイザメの大きなぬいぐるみを買い、僕は実架さんと琉架さんへのお土産に塩サブレを買った。
他にも、可愛いお土産があったので、春樹とお揃いで買う。
春樹はチンアナゴのぬいぐるみが気に入ったようでめっちゃ可愛い!とはしゃぎ、買った。
そして、しばらく待っているとより一層熱さの増した元祖バカップルの2人が出てきて、2人がやいやい言いながら買い物を済ませるのを待って、屋外施設を巡る。
イルカのショーを見たり、ウミガメを愛でたり、マナティーの可愛らしさにまたお姉さん達がはしゃいだ。
そして海人門に戻り、美ら海水族館を後にして、フクギ並木を歩いてから僕達は美浜アメリカンビレッジへと向かった。
ーつづくー
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