貴方に溺れて死にたい

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26話 沖縄1日目の夜②

公開日時: 2020年9月2日(水) 13:02
文字数:3,278

26話 沖縄1日目の夜②



「オレ達、パートナーシップ結ぶことにしたから」


「パートナーシップ??」


「同性間の結婚のようなものですよ」


「え!!?」


ホテルの沖縄料理もたくさん並んでいるビュッフェで夕飯をとっていたとき、秋斗さんが言う。

パートナーシップというのを聞いたことがあった気がしたがよく分からなくて僕が尋ねると拓也さんが代わりに答えてくれた。

これはおめでたい!!


「おめでとう!」


「まあ、色々あるからまだまだ先だけどね」


「ようやくか」


「茉妃奈さんとのことも落ち着いたしな。ま、あの人は親代わりなわけだし一応報告するけど」


あんな目にあっていてもあの人は春樹と秋斗さんの大切な親代わり、なんだな。

やっぱり、2人にとって大切な、大切な人。

邪険にすることなんて出来ないんだ。


「兄貴には言った?」


「1番に言ったよ。アイツは俺達の1番の理解者で、俺の親友だからね」


「跳ね除けにすると拗ねるしな」


泪さんの問いかけに2人は穏やかな顔をしていた。

穏やかに笑っていた。


「泪、僕達も結婚しますか?」


「却下。もっとTPOを考えて出直して」


「分かりました、最高のプランを考えましょう」


こちらも結婚秒読みか。

結婚、か……。

春樹は、どうなんだろう。

でも、僕は……。

春樹を盗み見ると伏し目がちにコーヒーを飲んでいた。


「お前らもすれば?」


「ごふっ……げほ、げほっ」


「あ、ああああ秋斗さん?!」


秋斗さんの爆弾発言に春樹は思い切り噎せる。

僕はひたすらに慌てた。

なんてことをサラッと投下していくんだ!!


「洵も18になったから結婚できる年齢だもんね」

「雅さんまで……」


結婚はしたい。

春樹とずっと一緒にいたい。

でも、僕は……。


「俺もプロポーズはもうちょいプランを考えてほしいかな」


「あはは、頑張れ洵」


「泪さんまでからかわないでくださいよ」


この幸せな人達は僕達が浮かない顔をしていた事に気づいていたかな……。

気づかれていた気がする。

4人は、鋭いから。


「そう言えばアイツには言ったか?」


「他に誰かいたか?」


「涼太」


「げっ」


秋斗さんは誰かへの報告を忘れていたようで、顔をしかめる。

雅さんは忘れていたことに気づいていたようで、「やっぱり言ってなかったの?」と笑っていた。


それよりも春樹の口から男の名前が出てくるのは面白くないな……。呼び捨てだし。


「『涼太』さんって?」


「«sins»の元ベーシストだよ」


正確には«sins»の前身になったバンドのベーシストがその涼太さんで、彼は高校時代に春樹、秋斗さん、灰さんとバンドを組んでいたけれど高校卒業と同時に就職、そして学生時代から交際していた女性と結婚、転勤と色々あり、彼が抜けた所に灰さんつてで顔見知りだった泪さんが入ったのだという。


「ちなみに秋斗と春樹の親友」


「やめろ、アイツと親友とか痒いわ」


秋斗さんは涼太さんと親友と言われ、ゾッとした顔をする。肌を掻きむしるような動きすらする。


でも、それは、信頼してるからこそ出来ることで。


「親友か……」


「言っとくけど、俺はアイツとはなんもないぞ」


「逆に怪しいよそれ」


「お前が微妙な顔するからだよ」


春樹は僕の頬を軽く抓る。


だって、不安だよ。

僕の知らない春樹を知ってて、『親友』なんて言われてるあの人が羨ましい。


「いや、マジマジ。あのアホ、春樹には目もくれずに彼女溺愛してたし。はー……やっぱ言わねーとだよなぁ」


「言うべきだろ」


「あー……、絶対うぜぇ反応される」


心底うざったそうにする秋斗さんを眺めながら雅さんは笑う。


「でも、涼太くんって可愛いよな」


「はぁ?!!ふざけんなお前!!!」


「簡単にヤキモチ妬くお前はもっと可愛いよ」


「はー?ふざけんな……」


僕以外の3人は突然の雅さんのデレに元祖の2人をひゅーひゅーと冷やかしにかかる。

当の雅さんはイキイキしていたけど、秋斗さんは脱力して机に突っ伏してしまった。

秋斗さんの耳が少し赤かった。


2人の新たな一面を見た気がする。


「ねぇ、兄貴に嫌がらせ電話しよ?」


「おや、さすが泪!いいですねぇ」


そんな秋斗さんを激写したついでにiPhoneをまた弄る泪さん。

自撮り棒にiPhoneを取り付けると、LINEで灰さんにテレビ通話をし始める。


秋斗さんはまだ机に突っ伏したままだった。


『はーい??何ー??可愛い可愛い俺の泪ちゃん』


「え、切ろうかな。キモイんだけど」


「泪はボクのです!」


『おい!!ふざけんな拓也覚えてろよ!!』


バカップル3号さんと灰さんの漫才に大爆笑する僕達。

テレビ通話に応答した灰さんは寝転がっていて、よく見るとその枕にしているものは、スカートに包まれた脚で。


「おい、灰、膝枕して貰ってんの?」


『そー。これ俺の可愛い嫁さんの腹』


春樹が前のめりになって問うと灰さんは自慢げに、膝枕する奥さんの少し膨らんだそこに口付けする。

すると彼の上の方からくすくす笑う女性の声が聞こえてきた。


『俺の可愛い嫁さん見たい?』


「「「見たい!!」」」


『しょーがねーなー』


僕達が即答すると、灰さんは「よっと」と言いながら腹筋の力のみで起き上がる。

その反動で画面が揺れたが、直ぐに灰さんと、彼より少し年上くらいの綺麗な女性が映る。

茶髪が少し伸びてプリンになっていたしお化粧もしていない風だったのにとても目鼻立ちのハッキリした美人さんだと思った。


『これ嫁さん』


「「「おお!!」」」


『はじめまして〜!灰くんの可愛い嫁さんで〜す!』


自分で可愛いと言っても何も不快じゃない彼女は泪さんと、雅さんを見つけると「泪ちゃん!雅くんも久しぶり〜!!」と手を振ってきたので、雅さんの突然のデレに撃沈していた秋斗さんが独占欲を丸出しにして不機嫌になる。


「…………」


「泪はともかくなんで雅さんもお知り合いなんですか?」


『嫁さんも雅と同じファミレスで働いててな、当時俺もそこで働いてたから』


「…………ふーん」


面白くなさそうな秋斗さんを見て灰さんの奥さんが何かを察する。


『その不機嫌な子は雅くんの彼氏くんでしょー?雅くんたら私がアピールしてんのにキミに夢中だったんだからね!!』


「はぁ?!!」


『過去の話だよ〜。今は灰くんしか見てないから安心してね??』


話を聞くと、当初彼女は雅さんを想っていたけれど何かに耐えてるような灰さんに段々惹かれていき、交際を開始、今に至ったという。

もちろん雅くんはキミしか見てないよ!とウインクを1つ飛ばす灰さんの奥さん。

雅さんは少し顔を赤らめ、秋斗さんもまた「あー、くそ」と唸り撃沈した。


それから少し2人と電話越しに話をして、もう遅いからと通話を切り、僕達はそれぞれの部屋に戻ることにした。


僕は扉を閉めると直ぐに春樹を後ろから抱きしめる。

身長がまた少し伸びたのか春樹を抱きしめやすくなった気がした。


「ふふ、なーに?」


「……なんとなく」


「洵くんは甘えただな〜」


そのままの体勢で微笑みながら僕の頭を優しく撫でる春樹は本当に聖母だと思う。

サディスティックな所もあるけど、優しくて、温かい。

僕はまた彼女をぎゅっと抱き寄せる。

春樹は「苦しいわ馬鹿野郎」と笑いながら振り返って僕の頬に口付ける。


それが愛おしくて僕は彼女に口付けた。


「……ん、なに?どした?」


「……春樹は、結婚とか、したい?」


「……今はしたくない」


「……そっか」


しょげる僕に擦り寄る春樹。


「……『今は』まだな。私はまだ覚悟が出来てないから。お前とはずっと一緒にいたいし、その……結婚、だってしたいけど、怖いんだ。自分の子供に虐待……しないか……」


自分の親や、叔母がそうだったように、自分も……。と不安がる春樹を僕はまたキツく抱きしめる。

また「苦しいわ馬鹿野郎」と頭を叩かれる。


そして、少し離れて、彼女を見つめる。


「……春樹はそんなことしないよ」


「でも、わかんないじゃん」


「なら、僕が止めるから」


「……うん」


でも、僕も怖いんだ。

祖父が強姦魔だと知れ渡ってしまった時、子供は傷ついてしまうかもしれない。


だから……。


「……僕も、怖いよ」


「……私達はゆっくり歩んでこうよ」


「……うん」


僕達はゆっくり愛を育む。

これからもずっと貴方を愛すから、ずっと、隣にいてよ。



ーつづくー

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