暖かい家庭を築こう
「冬樹、洵菜、パパ起こしてきて!」
「「はーい!!」」
3月のまだ少し肌寒い、休日の朝。
玖木家のキッチンでは春樹が1歳11ヶ月の次男の春風(はるか)を抱っこ紐で抱きながら朝ごはんを作り終えようとしていて、長男の冬樹(ふゆき)と長女の洵菜(じゅんな)という3歳5ヶ月の双子に、パパ、つまりは洵を起こしてくるように伝える。
双子は元気よく返事をして、寝室へ。
リビングの使い込まれたゆりかごの中には5ヶ月の三男、洵太(じゅんた)がすやすや眠っていた。
双子はそろーっと寝室に入り、ベッドによじ登り、布団に包まり寝ている洵の上に、ニヤァと笑いながら、ドスンッ!!と飛び乗る。
「ぐぇっ……」
「「パパおはよー!!」」
洵は見事に変な声を出す。
しかし双子は楽しそうにニコニコしながら、「はぁー」と顔を押えながらため息を吐く父の腹に乗り続け、あまつさえその上でぴょんぴょんと跳ねたりする。
洵はたまったもんじゃない。
「……冬樹、洵菜、頼むから普通に起して……てか、人の腹の上で跳ねないで」
「パパがおねぼうさんだからいけないんだー!」
「そーだよ!パパがいけないの!!」
キャッキャウフフと楽しそうな双子に、洵は、「ふーん?そんなこと言うの?」と悪い顔をする。
「そんなこと言う悪い子はこうだよ!!」
「「きゃー!!やだー!!パパ、おヒゲくすぐったいー!!」」
起き上がって双子を抱きしめてから、寝起きで伸びた髭をジョリジョリと双子の頬に触れさせると双子はきゃあきゃあ言って楽しそうに暴れる。
ああ、僕の息子と娘は可愛い子達だと、幸せを感じる。
「ママが待ってるからリビング行こうね」
「「うん!」」
洵は、今、ずっと働いているCDショップの正社員をしながら、作詞家という仕事もしている。
«sins»が活動休止……というか、ほぼ引退をしてから書き溜めていた詞を2年前になんとなく雅に渡して、雅が作曲した曲と合わせてある人気アーティストの新曲として出してみたら大ヒットしてしまい、洵もその年の音楽賞で作詞賞を取る。
そして、あの天才作曲家の従兄弟だと知れ渡ると一躍注目の的になる。
しかし、天才型の雅とは違って洵は努力型なので、そんなにホイホイ詞が浮かんでくることもなく、作詞だけでは家族を養えないので、仕方なしに2足のわらじというわけだ。
自分の出生を知られたくないから、あまり有名になりたくなかったが仕方ない。後の祭りだ。
「「ママー!パパ起きたよ!!」」
「おう、サンキュー!!パパおはよう!」
「うん、ママおはよう」
リビングでは、春樹が朝食をダイニングテーブルにセッティングし終わった所だった。
お互いにお互いの頬に口付けをする両親を見て双子が、「ぼくも!」「わたしも!」とせがむので、洵は冬樹と洵菜の頬に優しく口付けてやる。
「あー!!うー!!だーだ!!」
「春風は今日も元気だね」
「春風もおはようって言ってんだよな?」
春樹の腕の中の元気にお喋りする春風の頭を優しく撫でる洵。
すると春風はまたきゃあきゃあと楽しそうに笑う。
洵は顔を洗いに行く。
そして、戻ってきてから末っ子が寝ているゆりかごを覗く。
「春風とは正反対で洵太は今日も静かだなぁ」
「1番下が1番いい子だわ」
元気な年子の兄とは違い、静かにすやすや眠っている三男。
大抵、寝ているか、じっと天井を見つめているような子なので、1番手がかからなかった。
ちなみにやはり春風が1番手がかかる。
「えー?ぼくいい子だよー?」
「わたしもだよー?」
「あー!だー!!」
そんな洵太の兄達は自分達もいい子だと両親に主張しながら、冬樹と洵菜は椅子に座り、春風は抱っこ紐を外されて春樹の膝の上に座る。
洵太はまだすやすや寝ていたので後で食事を与えることにした。
「はいはい。じゃあご飯食べような」
「「いただきまーす!!」」
「いただきます」
今日はフレンチトーストとソーセージ、スクランブルエッグ、コンソメスープ、付け合せにプチトマトを乗せた。
幸い、洵と春樹の子供達は食べ物の好き嫌いが全くなく、なんでも素直に食べる。
しかし、双子が静かに食べることはない。
「あー!!ふゆきがわたしのトマトたべたー!!」
「じゅんながぼくのタマゴたべたからじゃん!!」
いつもこうだ。
どちらかがどちらかのものを食べて、また食べられたほうが逆襲して、揉める。
「はいはい、冬樹には僕のスクランブルエッグあげるから」
「洵菜、ほら、トマトやるから機嫌直せな?」
その度に大人たちは自分たちのものをそれぞれ分けてやる羽目になる。
しかし、大概それで事は収まる。
「ママのごはんすき!!」
「ぼくも!!」
「僕も好きだなぁ」
「パパまでなんだよw」
お互いを『パパ』『ママ』と呼び、可愛い子供達と過ごす毎日を、洵も春樹もずっと大切にしようと思った。
食べ終えてからは、冬樹と洵菜に春風を見てもらい、洵が皿洗いをしている間に、春樹が洵太に食事を与える。
最近離乳食を始め、少しずつミルクだけでなく離乳食も与えている。
やはり食事でも洵太はお利口で、兄弟のどの子よりも世話がかからなかった。
そんなモーニングルーティンを済ませ、玖木一家は出かける準備。
今日は、あのアパレルショップの店長をしている春樹も休みだし、洵もどちらの仕事も大丈夫なので、近くの水族館に行く。
春風を春樹が抱っこ紐で抱いて、洵太を洵が抱っこ紐で抱く。
そして、春樹の手に冬樹が手を繋いで、洵の手に洵菜が手を繋ぐ。
そして、洵と春樹は空いたお互いの手を絡ませる。
洵太の首が座ってからはこのスタイルが主だった。
電車に乗り、ある都市型水族館に着く。
洵は春樹と手を離し、その手に洵菜の手を握らせて自分は家族みんなのチケットを買う。
そして、また春樹と洵菜の手を自分に繋ぎ、玖木一家は館内にはいる。
双子はペンギンがお好きのようで、ペンギンのいる水槽から離れようとしないし、春風は「あー!!だー!!うーあー!!」と元気におしゃべり。洵太はやっぱりすやすや気持ちよさげに寝ていた。
「あれ?春樹!洵!!」
しばらく歩いていると秋斗と雅、彼らの元で暮らしている兄弟の萩と藤の一家と遭遇する。
「「おじたーん!!」」
双子は叔父と、父の従兄弟のお兄さんによく懐いていた。父と母から手を離し、冬樹は雅の膝に、洵菜は秋斗の膝に抱きつく。
「あはは。元気にしてた?」
「うん!!」
「どうした??なんでこっちに??」
秋斗と雅の一家は今大阪で暮らしている。
同性カップルが里親になれるのは現在大阪市のみで、萩と藤と暮らすにはそうするしかなかった。
「俺の仕事が昨日までこっちであってさ。どうせ今日学校も休みだし観光しようって秋斗達も昨日こっちきたんだよ」
よいしょっと、と冬樹を抱き上げながら雅は答える。
「なるほど。……あれ?萩くんまた背伸びた?僕完全抜かされたよ」
「俺はまだ伸びますよ、洵さん」
「藤にもそのうち抜かされそうだな」
「おげぇ」
男性の平均身長より少し高い程度の洵は18歳の少年に軽々と背を抜かされる。
13歳の弟も、歳の割に高い方だから将来有望だ。
それから2家族はお互いの家庭が暖かい事を微笑ましく思いながら一緒に水族館をまわったのだった。
ーENDー
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