バンドって、何がいるんだっけ??
洵太がバンドやりたそうにしてたし、冬兄や洵姉もなんかそんな感じしたから、オレはバンドを組むことを提案して、で、組むことになったはいいけど。
「……バンドってなにがいるの?楽器??」
オレのそのお馬鹿丸出しな発言に3人はずっこける。
「おっまえ、馬鹿なの?!」
「なんでバンド組みたいとか言ったのにさ、そんな、は??え?は?!馬鹿なの?!」
「冬兄さん、洵姉さん、春兄さんは馬鹿だよ」
「うっわ、洵太くんが1番辛辣……」
みんなしてそんな馬鹿馬鹿言わなくてもさー。
特に洵太の発言は傷ついたなぁ。
泣きそ。と、しくしくしてみる。
みんな無視する。え、切な。
「とりあえず母さんに相談してみる?」
「はいはーい!その前にバンド名決めよ!!」
「「馬鹿は黙って着いてこい」」
「ひゃい……」
冬兄と洵姉怖いんだけど。
あんなん般若じゃんか。
結局、母ちゃんに相談することになって、リビングにいた母ちゃんと、ついでに母ちゃんと一緒にいた父ちゃんにも話をしようとする。
オレ達が来たことをいち早く察知したのは可愛い愛犬の立夏だった。
「わん!!」
「ん??……あれ?お前らどうした??」
「4人揃って……。なんか欲しいものでもあるの?」
父ちゃんは「高価なものとか、命のあるものはだめだよ」と忠告する。
楽器って、高価なんじゃないだろうか……。
「あのさ、俺らでバンド組みたいんだけど、ダメかな?」
「え?バンド?ふふ。いいんじゃない??」
「僕達の子供だしいつかは音楽やりたいって言い出すと思ってたよ」
あんまりあっさり許可出たから拍子抜けした!!
「でも、洵太はまだ小学生だし、冬樹と洵菜は来年受験だから、来年、進級してからな?」
「「「「うん!!」」」」
それから、楽器はそれぞれ買ってもらうことになった。
父ちゃんが作詞した曲がまた大ヒットして、印税がガッポガッポだったんだって!
そんないきなり高価な楽器は買わないけどと、初心者向けのものを翌年、冬兄と洵姉が高1、オレが中2、洵太が中1の進級祝いにそれぞれ買ってもらった。
洵太はボーカルだけど、ギターにも興味があったから、それを。
「ボーカルレッスンは私がしてやれるし、ギターとベースは拓也と泪の夫婦に指導してもらえるって話付けといた。ドラムは灰がしてくれるから、以上それぞれがんばれ!!」
わっはっは!と機嫌よくオレ達に宣言する、母ちゃん。
母ちゃんが1番楽しそうだった。
やっぱり、音楽好きなんだな。
相棒を買ってもらったオレ達はそれぞれ先生に弟子入りする。
ーピンポーン
『はーい?』
「たのもー!!」
『あー、ハイハイ、春風な。ちょい待ち』
灰さんーー«sins»のドラマーだった人ーーの家はオレ達の家(一軒家)がある同じ地区にある一軒家で、割と出入りもよくあるからふざけていても直ぐに中に入れてくれる。
「よう、いらっしゃい」
「お邪魔します!!」
灰さんは今でも«sins»とは別のバンドのサポートでドラムを叩くらしく、家の一室にドラム部屋がある。
そこは電子ドラムと機材が置かれた防音の部屋だった。
「おお!!」
「洵達はドラムは買ってくれなかったか?」
「いんにゃ!ちっちゃい奴は買ってくれたよ。持ち運べるやつ!デカイのはどこにも置けないからって」
「あーなるへそ」
じゃあ、本物叩きたくなったらウチに来ればいいよ。
と灰さんは男らしく笑った。
「じゃあ、入り浸ろうかな!!」
「いいけど。…………嫁さんと俺の可愛い娘たちには手を出すなよ?」
「ひゃい!」
灰さんに凄まれてオレは縮み上がる。
灰さんの子供のなずなちゃん、すずなちゃん、かずなちゃんの3姉妹で、オレ達は仲がいい。
特に末っ子のかずなちゃんとは冬兄と洵姉が同い年だから今でもよく遊ぶ。
それから、接近戦で指導して貰ってたけど、なんか気になることが。
「……灰さん、なんか、くさい」
「え?!おっさん臭いか?!!」
「え!?違う!!そうじゃなくて!!」
くさいのは所謂加齢臭ではなくて、なんというか、電車の中でよく遭遇する、におい。
なんだ、これ。
「ぷはっ、あっはははは!!親父、体臭気にしすぎて香水めちゃくちゃふってるからじゃないか??」
「あ!!なずなちゃん!!」
ドラム部屋の扉の所には、灰さんの長女のなずなちゃん(19歳)が笑いを堪えながら立っていた。
あ、このにおい、香水か!!
「え、なずな、お父さん臭いか?」
「うん、臭いな」
「ガーン……」
崩れ落ちる灰さん。
そんな灰さんを後目に、なずなちゃんはオレにドラムを始めたのかと聞いてきたから、冬兄達とやるんだー!と笑うと、彼女はじゃあ、ライバルだなと楽しそうに笑った。
なずなちゃんも、幼なじみでなずなちゃんの従兄弟の雷くん、鈴ちゃんとバンドを組んでいる。
そんなオレ達を見て、灰さんは立ち上がって、部屋から出ていこうとする。
「え、灰さん??」
「くさいおっさんより若い女の子のがいいだろ」
「え、うん」
「ボク、春風は正直で好きだよ」
灰さんは昔の名残らしい、オネエ言葉を出して、「やってらんなーい!!ハニーちゃぁん、癒してぇん」と奥さんの所に逃げていった。
「まーた、オネエになったよ」
「たまになるの?」
「やってらんないときにな」
なずなちゃんはニッと笑うと座っているオレの隣に立つ。
なずなちゃんはどちらかというと男みたいな、そういえばなんか学園のイケメングランプリで優勝した事あったらしいくらい、イケメン。
なんかいい香りがした。
香水かな??
「持ち方は大丈夫?」
「えっと、こう?」
「そうそう。で、楽譜の読み方は……」
なずなちゃんは丁寧に教えてくれて、初心者のオレでもめちゃくちゃわかり易かった。
「なずなちゃん、もうすぐ引越しすんの?」
オレは灰さんから少し聞いていて気になった事をなずなちゃんに聞く。
「ああ、雷と暮らすんだ」
「え?!雷くんと?!」
雷くんはなずなちゃんの従兄弟で、2人は付き合ってるらしい。
従兄弟は近親的なアレに引っかからないのかなって思ってたら、従兄弟は大丈夫だとなずなちゃんは前に笑ってた。
「おめでたいねぇ!!」
ふと、なずなちゃんの表情が陰る。
なんか見た事のある陰り。
この前、告白してきた知らないお姉さんに似てるんだ。
そして、ちゅっ……とオレ達の唇が触れ合う。
なずなちゃんは、泣いていた。
「……なずなちゃん、悲しいの?」
「え?」
「なんで、泣いてるの??」
なずなちゃんは頬に手を伸ばす。
「え、なんで、ボク……なんで、」と繰り返すなずなちゃん。
オレはそんななずなちゃんを抱き締めるしか出来なかった。
オレは『恋愛感情』というものが希薄らしい。
どんなに可愛い女の子でも、どんなに美人なお姉さんでも、どんなにかっこいいお兄さんでも、オレは何も感じない。
『性欲』というものにも興味が出始める時期だけど、それもあまり興味がない。
だから、なずなちゃんにキスされても、知らないお姉さんに抱き締められても、オレは何も感じなかった。
ただ、この人達が幸せになったら良いのにと、思う。
ーENDー
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