貴方に溺れて死にたい

「ずっとずっと、貴方に溺れると、誓います」
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11話 打ち上げ

公開日時: 2020年9月2日(水) 12:41
文字数:3,358

11話 打ち上げ



大興奮のまま終わったライブハウスでのライブ。

興奮冷めやらぬ中、僕と雅さん、«sins»、そして«ジェミニ»の面々は24時間営業のファミレスへ打ち上げに来ていた。

僕は雅さんと«sins»メンバーとテーブルを共にし通路を挟んだテーブルでは«ジェミニ»の面々がワイワイ言いながらメニューを決めていた。


「オムライスもええけど、ハンバーグも捨て難い!!」


「はよ決めやブタ」


「ふがっ?!琉架、ブタは酷ない?!」


「いや、今のはめっちゃブタやったわwww」


「和也まで……!!」


「ぎゃはははは!」


真剣な顔でメニューを決めかねている実架さんを呆れた顔で彼女の片割れと下手ギターさんが貶し、それをキーボードさんが笑う。

『ブタ』はさすがに酷いのではと思うけど実架さんは泣き真似をしながら笑っていた。

彼らの間では当たり前のやり取りなんだろうか。

関西の人のノリがよく分からないけど春樹さん達も時折そんなやり取りをするから相手を信頼している証拠なんだとも思う。


結局、実架さんはオムライスを注文したようだった。

全員食事とドリンクバーも注文したのでそれぞれ飲み物を取りに行きまた席に着く。


「うちのうるさい奴らがすみません」


「……アホばっかや」


そんな4人を呆れながら見守っていた上手ギターさんとドラマーさんは僕達に申し訳無さそうに頭を下げる。


「いやん!いいのよう!アタシ達も似たようなものだし!」


「ありがとうございます。作詞家さんと作曲家さんには自己紹介がまだでしたね。ボク達は皆十九で、ボクは上手ギターの一条拓也です。下手ギターの双子の兄です」


物静かな常に丁寧な敬語の拓也さんに続いて実架さん以外のメンバーが順に自己紹介をしてくれる。


「俺はベースの把木琉架。前に会うたけど2人にはちゃんとした挨拶はしてなかったから一応。そこのブタの兄貴ですね」


「ブタ言う方がブタなんですー!」


「黙れブタ」


「むきー!!!」


実架さんと琉架さんは口を開く度に漫才をしていてとても楽しい兄妹だと思う。

……なんか、琉架さんは辛辣だけど。


「はーい!じゃあ、次はオ・レ!オレは一条和也!!下手ギターで拓也の弟デース!!」


拓也さんと黙っていれば全く見分けのつかない彼は和也さんと言うらしい。

物静かで硬派な拓也さんとは正反対で結構五月蝿くて軟派な人だった。


「俺はキーボードの直江樹っス!!よろしくっス!!ドラムの皐君の兄貴っスね!!」


熱血漢のような彼は樹さん。

ハキハキしていて好感を持てた。

樹さんは実架さんに対しても君付けで話していた。


「直江皐……ドラム……」


ドラムの皐さんはそう消えそうな声で短く呟くとそれきりその日は一言も話さなかった。

無口な人のようだった。


「俺は一応作曲してる玖木雅です」


「今日の曲は全て貴方が?」


「はい、まあ……」


「とても綺麗で繊細で、それでいて情熱的な曲やと思いました。ボクも作曲をしているので仲良くして頂けると嬉しいです」


「ありがとうございます。«ジェミニ・シンドローム»の曲は結構激しいから君が書いてるなんてびっくりだな………」


「良く言われます」


«ジェミニ»の作曲は拓也さんがしているのか。

丁寧な人柄の彼があんな激しい曲を書いているのかと僕はそのギャップに驚愕した。

しかし彼はそれになれているのかニコニコと人のいい笑顔を浮かべていた。

ニコニコと談笑する2人を眺めながら秋斗さんは面白くなさそうにアイスコーヒーをすすっていた。


「ぼ、僕は雅さんの従兄弟の玖木洵と言います。作詞家というか……なんというかですが……」


僕なんか作詞家なんて大それたものじゃない。

僕は«sins»の金魚のフンだ。


「お前なー、またそういう事言うだろ」


「ホントに洵は仕方ないよね」


「あの2曲結構好評だっだのよ?」


「もっと自信持てよ、な?」


「うっ……」


そんな、自分に自信の無い僕を«sins»のお姉さんお兄さんが優しく包み込んでくれる。

隣に座った春樹さんが優しく微笑んで頭を撫でてくれたけど、なんか気恥しい。


「洵くん、あれは実体験から?」


「あー、はい……」


実架さんの問いに僕が視線を落としながら答えると«ジェミニ»の皆さんもつらそうな泣きそうな顔をする。

特に、関わりの深い実架さんはもう泣きそうだった。


「まだ若いのに……ぐすん……つらすぎるやろあれは……ぐすん……」


「え!?実架さん?!」


「こいつ感受性豊かすぎるだけやから気にしたらあかんよ、洵くん」


というか泣き出してしまった。

そんな感受性豊かすぎる片割れの頭を優しく撫でながら琉架さんは彼女にハンカチを差し出す。

ああ、やっぱりなんだかんだ言いながらとても大切なんだな。


「でも、«ジェミニ»は曲調は激しめだけど歌詞は切ないの多いよね。誰が書いてんの?」


「ウチー!!まあほぼ妄想とか小説インスパイアやで!!」


泪さんの問いに嬉しそうに語る実架さん。

席が近かったら実架さんが泪さんに抱きついてそうだと思った。


あれ?琉架さんどうしたんだろう。

少しつらそうな顔をしていたような……。


気のせいかな?


そうこうしているうちに注文したものが席に運ばれてくる。

僕はカルボナーラを注文した。

割とパスタが好きなんだよな。廃棄もパスタばかり持って帰ってるし。

うん、ソースがとても濃厚でとても美味しい。


「そういや噂で秋斗君と雅君は出来てるって聞いたけどあれはほんまなんスか??」


「んぐっ!?げほっげほっ」


カツ丼を豪快に食べていた樹さんが思い出したかのようにまさかの質問をする。

雅さんは飲んでいたコーヒーで噎せる。


「……え、その噂はどこから」


「ファンの子が話してましたよ?2人がキスしてるところを見たことがあるって」


「ひゅー!」


「春樹冷やかさないで」


拓也さんの言葉に春樹さんがにやにやしながら冷やかしの口笛を吹く。

雅さんは心底やめて欲しそうだったが秋斗さんは心底楽しそうだった。


「まあ、これは暗黙の了解だからな」


「ひゃー!!じゃあホンマに付き合ってるんやぁ!!萌える!!」


あれ?実架さんさっきまでグズグズ言って無かったかな?


ファンにも周知の事だったのか。

まあ、あれだけ外でイチャイチャベタベタしてたら気づかれるよな。

決して多数派の恋じゃないのにそれでもファンが離れていかないのは«sins»が魅力的だからか。


「お前は情緒不安定なん?さっき泣いてなかったか?」


「女はこういうの好きやで!」


「わかる」


「あはははっ!わかるんかーい!」


泪さんがドリアを冷ましながら実架さんに同意すると和也さんが爆笑する。


「つーわけで、雅に手ぇ出すなよ?」


「いや、出さないでしょ……」


「「「ひゅー!!」」」


秋斗さんは雅さんを抱き寄せ(男性陣に威嚇も忘れない)、雅さんはそれを真っ赤な顔で呆れながら剥がそうとする。けど、剥がれない。

それを見て実架さん筆頭«ジェミニ»のテンション高い組が2人を冷やかす。


「まあ、恋愛なんて性別とか身分とかで制御できるもんでもないしな。そんなんで制御できたらほんまもんちゃうわ」


「貴方が言うと説得力ありますね」


「…………」


琉架さんの悲壮感。

琉架さんも同性と恋しているのだろうか。

«ジェミニ»の雰囲気が何か変わった気がする。

メンバーは『それ』を知っていて、«sins»が雅さん達を受け入れて支えているように«ジェミニ»も『そう』なのだろうか。


実架さんが、いつもの雅さんの苦悩の顔とよく似た顔をしながらオレンジジュースが入ったグラスを睨んでいた。


「まあ、確かに琉架の言う通りよね」


「珍しく馬鹿兄に同意」


「え、ルイちゃん、馬鹿兄は酷くなぁい?」


「黙れカマ野郎」


「酷い!!」


この兄妹も相変わらずだな。


「……恋愛って難しいよな。俺にはできない気がするわ。大切なやつを傷つけてばかりで幸せにできない気がする。まあ、まずこんな女を好きになる奴なんかいないけど」


「そんなこと……」


絶望にも似た表情のその春樹さんの横顔に、僕は胸が締め付けられる。


結局、恋愛の話では秋斗さんと雅さんの過激な日常についての話に発展して生き生き話す秋斗さんに気まずそうな雅さんより何故か僕がいたたまれなかった。


恋愛なんて、『嘘』しか経験してないから。




ねぇ、春樹さん。

僕じゃダメですか?

僕じゃ貴方を幸せにできませんか?

僕じゃ、貴方と釣り合わないですよね……。


貴方の笑顔が、好きなのに。



ーつづくー

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