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お前はどんな風にヤキモチを妬くのだろう?

公開日時: 2020年9月2日(水) 13:18
文字数:1,987

お前はどんな風にヤキモチを妬くのだろう?



「ボク達3人で、バンドを組まないか?」


ボク、荒木なずなが従兄弟の一条雷(らい)、鈴(れい)兄妹にそう提案したのは、ボクが中3、雷が中2、鈴が中1の夏だった。


近所に住む年子の従兄弟に暑い最中に呼び出されて何を言われるのかと、身構えていた2人は脱力する。


「なずなちゃん、いきなりなんですか」


妹の鈴は可愛らしい。

母親の泪さんに似てとても可愛い。

でも話し方は父親の拓也さん譲りだ。


怪訝な顔をしながらオレンジジュースを啜る。


ちなみにボクの性別は女である。

限りなく男に近い風貌だけど。


兄の雷はというと、何かを考えながら黙っている。


「俺は鈴がボーカルならやる」


「もちろん、ボクもそれを推している。ちなみにボクはドラム志望だ」


「俺はギターやりたい」


だと思ってた。

雷は父である«ジェミニ・シンドローム»のギタリスト、拓也さんを尊敬していることをボクは知っていた。


ボクは«sins»というバンドのドラマーだった父を尊敬している。


そして、


「私の意見は聞かないのですか。まあ、いいです。私もベースとボーカル、やってみたかったんですよね」


鈴は«sins»のベーシストの母と、ボーカルの春樹さんを痛く尊敬していた。

彼らがあのバンドマンたちを崇拝レベルで尊敬していた事を、ボクは知っていたから、この3人でバンドが組みたかった。


後々彼らにそういうと「音楽性の一致って大切だしね」と笑われた。


それから、雷と鈴がいる共学での華の王子様期を過ごしたボクは、高校卒業時に数多の告白を振り、ある男子の元へ走る。


「雷!!」


「なずな、呼び出しって、なに?」


「ふふ、決まっているだろう?」


ボクは制服の第2ボタンを雷に差し出す。


「……もらって、くれないか?」


「……俺は女じゃないから可愛くないぞ」


「まだ、根に持ってるのか?」


「あれは傷ついたなぁ」


そう笑いながらも雷はボクの第2ボタンを受け取る。

昔、ボクは1度、雷の告白を振っている。

しかも、『女の子みたいに可愛くないから』と。


それをまだ根に持ってるみたいだ。

男らしくない。


そして、力強くボクを抱きしめる。


ああ、この従兄弟は男になったんだと、ここまで求められるのは自分だけだと思う反面、何か虚しくなる自分がいた。



それから数年して、雷とはもうすぐ同棲を始めようという引越し準備時期に、おもしろ可愛いおもちゃを、ボクは見つける。


近くに住む幼なじみで、«sins»ボーカルの春樹さんの子供、春風。


今年からドラムを始めたみたいで、おっさん臭い親父に教えられるより、男勝りだが可憐なボクに教えられる方が嬉しそうだった。


「なずなちゃん、もうすぐ引越しすんの?」


「ああ、雷と暮らすんだ」


「え?!雷くんと?!」


おめでたいねぇとニコニコする春風にどうしようもなくいじめたくなる。

キスしたら、どんな反応するのだろう。


恋人がいるのに、とボクを嫌うのだろうか。


ふと、好奇心が勝る。


ちゅっ……と防音のドラム部屋にリップ音が消える。


今、ボクはどんな顔をしているだろう。


「……なずなちゃん、悲しいの?」


「え?」


「なんで、泣いてるの??」


どうしてボクは5歳も年下の男の子に心配されてしまったのだろう。


頬は確かに、濡れていた。




全てが手に入っている世界で、まだ手に入れたいものがある。


雷のヤキモチ顔だ。

長い間、そばに居るがヤキモチ顔だけは知らない。


ああ、お前はどんな風にヤキモチを妬くのだろう。




「……雷、昨日ボクは春風とキスをしたんだ」


「………………はぁ?」


引越してきた部屋の片付け中。

明らかに不機嫌な低音。

ゾクゾク。私の中の被虐的な何かが熱を持つ。


「なに?あのガキに無理やり?」


「いや、ボクからした」


ーダンッ!!


「……っ!!」


ボクはダブルベッドに押し付けられる。


ゾクゾクゾクゾク。


これからの行為に興奮する僕は、とんでもないマゾヒストだと思う。


「ふっざけんな!!なんで!!俺がどんだけお前を!!……くっそ、もうどうでもいい。もう知らねぇ」


泣いても喚いてもやめてやらねぇから。と切羽詰まった表情の雷。


それからはボクは手荒に服を脱がされ激しく暴かれる。


だけど、ボクは嬉しかった。


それだけ、雷がボクを想ってくれてて、嬉しかったんだ。


「……ごめん」


「なにが?」


「めちゃくちゃ激しくした」


「確かに腹とか腰とか痛くて動けないねぇ」


気だるくて動けずベッドに寝転ぶボクに、申し訳なさそうにベッドに背中を預け、ボクに背を向ける雷。


僕がくすくす笑うと、雷は「はぁ……」とため息。


「……なんで春風にキスなんかしたんだよ」


「お前にヤキモチを妬いて欲しかったからかな」


「はぁ?!」


振り向いた雷の耳元で、「たまには今日みたいに激しく抱いてよ?ねぇ?ダーリン?」とボクは甘く囁いた。


アイツは馬鹿みたいに赤面してたから、どうしようもなく、愛おしくなった。



ボクは、お前だけだよ?


ずっと、ずっとね。




ーENDー

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