負け。というか、死。
人生で幾度となく体験してきた負けという概念。
そして、初めての本当に殺されるかもしれないという体験。
「こいつ。さっきから手を抜いてますよ。余裕ぶってるんですかね」
俺を絶望が支配する。
おいおい、こんなときは変な声がして、何かが俺を助けて、なんとかなるって話じゃないのか?
それか俺が暴走するとかさ。どうなってんの。転生初日にこんな目に遭って。
「まるで人格が入れ替わったようだ」
こんなの。元いた世界とそう変わらない。
「そんなに涙を流して、君にも感情があったんだな。しかし」
相手は黒い炎を纏った大剣を生み出し、近づいてくる。
殺される。
そう思ったときだ。
……。
あの黒い炎は俺の記憶にある。大剣も俺の使える魔法だ。
相手は2つの魔法を、同時に使った。
その事実を見抜くことができた。
「フフ……」
「なに」
考えりゃ繋がる。相手の言った、”さっきまでの攻撃”、そして魔法の同時使用。
俺が使っていた魔法はーーーー
「ライトエアフォーク!!」
複合的な魔法!!
雷魔法で身体強化しつつ身体の重量を重くする。
「ボイドモアスパイクリズム!!」
無、刃、石魔法の、接触したモノの魔法を無効化する、棘付きの大剣を構え。
斬る。
「やっと復活か?それでこそ、殺し甲斐がある人間よ!」
相手は攻撃を受け流そうと構えている。しかし受け流そうったってそうはいなかない。
こっちの大剣は生憎棘付きだ。
「剣が……!」
相手が剣を手放した瞬間。
「ロック」
石の足場を作り、足場を蹴って相手の身体を斬る。
「はぁ……」
ズタズタにした。殺した。
しかしまあ、正当防衛だろう。
ただ安心してはいられない。
よく知りもしないおじさん数人がこちらを見て、何かを唱えているのだから。
「クッ……」
魔力を消費しすぎた。身体が動かないどころか、少し消えかかっているようにも見える。
結局死ぬかも……。でもなんか苦しくも痛くもないし、これはこれで良いかも。
人生の最後に、勝ったという実感が得られて良かった。
負け続けの人生は終わったんだ。
ーーーーーーーーーー
「はっ……!」
気付けばガラスのようなものに囲まれた中に、俺は居た。
「君は、出ちゃ駄目だよ。まだ国の、理を知らないからね」
先ほどの闘技場フィールドの中に居たおじさんの中でも、笑いながらフィールドを塞いできたおじさんだ。
恨みは無いが、今の状況の説明次第では恨みも生まれるだろうか。
「君は、転生、されてきたね。明らかに、挙動が、変わった。神様は、お隠れになった。つまり、世界は変わる」
おじさんはゆっくりとこの世界のことを話し始めた。
「君が、元々いた国が、どうか知らないが、この世界では、魔力分子というもので、満ちていてね。魔力分子を使用し、魔法という力を、行使できる。魔法は多種多様なもので、人が手でできることは、ほぼ全てできるだろうし、人が手でできないことも、ほぼできるだろう。この世界で、人は繁栄し続けた、は良いが、その途中で、生まれてはいけない魔法、も生まれてしまってな。血や無、人魔法等だ。鳥魔法のように、秘匿されてきた、魔法もある」
「……へぇ~」
俺、無魔法使ったんだけど。あれ、駄目なんだ。
「無魔法は、魔法解除の概念、がある。適切に扱えば、問題無いが、防犯の都合等、があってな。人魔法は、人を操れるし、人によるが人を造ることもできる。血魔法は、犠牲を伴う、危険な魔法だ。鳥魔法は諜報活動で重宝する」
心読まれてる……。てか笑い所?
神様みたいな人だな。
「この国の、神人と、呼ばれていてな。先導者、という国のトップから、敬語を使われる存在、とだけ、言っておこう。この国は、先導者という人間が、トップに立ち、背後者という人間たちが、先導者が、独裁にならないように、意見するという、……感じだ」
確かにどこか、天皇陛下のような存在感がある。
人権が無いとか、あるのだろうか。
「人権は、無いな。因みに、神人になるには、古代魔法の秘密を、知る、必要がある。それだけで良い。君には、まだ、教えない」
神人のおじさんは口に人差し指を当て、シーッ、のジェスチャーをした。
「この世界で君は、人魔法によって、生まれた。奇跡の存在、だ」
「!?」
「人造人間だ。身体の構成物質が、100%、魔力分子。通常の人間は、5%ほど、だ。だから、通常の人間のような、痛みを感じたり、身体に支障をきたすことを、しても、問題無かったり、まああったり。そういえば、君を創った人間、ディストルツーは、のんびり暮らしているよ。どうだい、何か、感情は湧いてくるかい?」
……?感情。何か。湧いて、くる。
「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア」
「おお、元の人格が戻ってきた」
殺シテヤル。殺シテヤル。
居場所ヲ教エロ。
「と、言いそうだから、教えないよ。ディストルツー君は、隔離されてる、とだけ教えとこうか」
勝手ニ生ミ出シヤガッテ。
俺ノ生ニナンカ意味ハネエ。
「思想が、過激だね。意味があって生まれることなんて、無いのにね。考えることは、大事、だけど、でも、そんな規模の大きいことを考えなくて、良いんだ。掌という小さな形の分だけ、意味が生まれれば、それで人類の進歩さ」
……うわ。なんだ。
一瞬記憶飛んだけど。寝てた?
「お疲れ様。君の中の人格が、目を覚ましただけ。君にはこれから、クレアジオーネ、として、魔法を開発してもらいたい。君が使える魔法は光と闇以外の魔法、全てだ。今のところね。だから色んな場所を、旅して、歩き回って、自由な想像力で魔法を使って欲しい」
俺の中の人格。この身体の元々の持ち主のってことか。
そんな人格があるのに、自由に歩き回って大丈夫なのか。
「大丈夫。君を消そうと思えば消せるから。私、こう見えても超、強いから」
怖すぎる。
まあ安心感すら感じるほど、ではある。
「じゃあ。そういうことで。雷か音魔法で、呼び出ししてもらえれば、いつでも駆け付けるか、無視するから」
色々伝え方あるな。
「じゃあモスキート音でご連絡します」
「無視します」
冗談も通じるときた。最高。
そう言うと神人のおじさん……陛下は消えた。
それと同時に俺を囲っていた囲いが消え、俺は人の形に戻った。
時は夜。場所は道端。
こんなところにいたら、ファンタジーの世界なら魔物とかに襲われる。
とはいえ近くの町の情報も無いし、どうしよう。
あ、そうだ生命反応が多いところに行けばいいじゃないか。
それか鳥魔法でもいけるし、草魔法と組み合わせよう。
「ファライフォーク」
魔力で一時的に作った鷹と、鷹が見つけた動物が分かる生命反応レーダーを使って付近の町を探す。ついでに魔物の群れとかも見つけられるし。
……お、あった。10km先だけど。
魔法を使えば10kmなんてへっちゃら。
「10kmか……」
普通に雷、風魔法あたりで走るのも良いけど、どうしよう何か思い浮かぶか。
土魔法で重力操作して……は行き過ぎそうだからやめておこう。
獣や虫魔法もまあ、ありではある。
思い浮かばない。想像力の敗北。
先が思いやられてむしゃくしゃする。
仕方がないので獣魔法、”タオエナジー”で自分の身体を強化。
石魔法、”ピラー”で柱を作る。
柱を町の方向へ、振りかぶって……。
投げる。
跳躍、柱の上に飛び乗る。
後は快適な空の旅だ。
ーーーーーーーーーー
「おいおい何肩ぶつけてきちゃってるわけ?んーーーーー???」
「ごめんなさい……」
「お前の家、魔法開発してるらしいよなあ。その研究成果。横取りしても良いよなあ」
「それは良くないです……」
「アァ!?」
往来の真ん中のやりとりのすぐ横に、石柱飛来。
「……」
「……」
呆然とする2人の横に飛来したのが。
俺クレア。
「すいません。片付けます」
石柱を消滅させ、魔力分子に戻す。
抉れた地面も戻す。
「片付け、終わりました。ところで、お二人はどういうご関係で」
「……」
あまりにもイラっときたのか、はたまた会話ができないと判断したのか、男は構える。
「ドラグエナジー!!」
「!!」
ドラグエナジーは恐らくドラゴンの力を借りる獣魔法。そのドラゴンは鹿、ラクダ、みずち、兎、牛、蛇、鯉、鷹、虎(諸説あり)の部位を合わせたものと聞いたので、かなりの獣魔法の使い手と思っていいだろう。なんでドラゴンエナジーじゃないんだろ。
……って。
「両手だけか。しかもそれ……まあいいか」
「煽ってんのか?これを完成させることが一族の悲願なんだ!」
なるほど。一族に伝わる魔法とかあるのか。
でも両手って虎と鷹の要素だけだな。
あれ、鷹の爪だけなら鳥魔法じゃなくても出せるんだ。
「じゃあ俺も。ナーガエナジー」
龍には龍。蛇だけど。
ナーガは頭が多ければ多いほど強いらしいけど、腕に使って腕の本数を増やして蛇にした。人間の頭が増えたら怖いので。
「なんだそれ。いや構わねえ!いくぞおらぁッ!」
「こいやおらぁ!」
「……帰らなきゃ」
責められていた男の子は帰ってしまった。
雄姿を見てくれよ。無理強いしないけど。
男は右手で突きの構え。爪が長い分、リーチがある。
しかしこちらは数の暴力、かつ、噛めば毒がおまけで付いていく。
この勝負……。
先に動いた方が負ける!
(先に動いた方が負ける!)
ーーー5時間後ーーー
……。
(……)
「お前……我慢強いじゃねぇか」
「ありがとうございます。あなたもですが」
「……話し合いといかねぇか」
「あなたが良いなら良いですよ。負けたのはあなたということになりますが」
「てめぇ……」
「周囲の奇異の視線に負けるのが先か、魔力が尽きるのが先か、我慢比べも良いですね」
魔力が体内に5%しかない人間に、100%の人間が負けるわけがない。
空気中の魔力分子は呼吸とともに身体に取り込まれる。人間と人造人間でそう変わりはないだろう。予測だけど。
だから魔法発動中の体内の魔力量は増減するが、トータルで言えば少しづつ減少していくわけだから、体内を構成している内の5%の魔力を失えば、何かしら症状が出てくるはず。脱水症状なら5%とかだったような。
俺は5%身体が無くなったところでなんともない。
この勝負、勝ちの確定している勝負。
「俺の名前はスモック・ポルスカ。お前……名前は」
「クレアジオーネです」
「その名前、よぉく覚えといてや、る……」
魔法が解け倒れ込むスモックを抱きかかえる。
魔力、分けといてやるか。敬意を表して。
恵魔法。
「マジックキュール」
どこに置いたらいいんだこいつ。
宿屋にでも置いとくか。
宿屋っぽい看板を探し、入る。
「あ」
「あ」
スモックに絡まれていた男の子だ。宿屋の店番だったのか。
「すいません。部屋を2つお借りしたいんですが。いくらですか」
「200スケールです」
まずい。高いのか安いのか分からない。
ま、安いだろ。スモックの財布に2,000くらい入ってたし。
「これで」
「え、あ、はい。頂きます。奥から2つ、105、104の部屋になります。それでは良い夜を」
鍵を貰い、礼を言って部屋に向かう。
気のせいであってほしいけど、ぼったくられた、とか無いよな。
”あ、払うんだ”って感じの反応だったけど。
スモックが結構大物で、それを相手にしたことで問題が発生するとか無いよなハハハ。
ーーーー翌朝ーーーー
「後悔した……」
スモックが帰ってこないことでスモックの両親が心配し、この宿屋に泊まっていると聞きつけ、押しかけて来た。
「君は一体何者だい?少なくともスモックは、この町で魔力量は一番あるはずなんだが」
「いえ……あの……はい……クレアジオーネと言いまして、他の町から昨晩着いたんですが、スモック君が宿屋の店番の子と揉めてましt」
「なに!?おい叩き起こしてこい」
話している間にスモックの親は兵士に命じた。
隣の部屋からバタバタと音がする。
スモックが部屋にやってくる。
「親父!?お袋!?」
「お前、減点だ。帰るぞ」
「……ッ!ライトドラグエナジーf」
スモックは身体強化をーーーー
「無駄だ。獣魔法の複合魔法は詠唱が長いからな」
スモックの父親が、右手で一瞬の内にスモックの口を塞いだ。
「外で問題を起こすくらいなら、獣魔法を磨け。他のことはそれからでいい。でなければ、お前を生んだ意味が無い」
「……」
プッツン。
キレた。
俺が。
「あぁ?……なんだ君は何故動ける?」
気が付けばスモックの父親の右手を掴んでいた。
「僕のこの手、何に見えます?蟷螂の斧くらい小さく見えます?」
そう俺が言うと、スモックの父親は手を急いで引っ込めた。
恐らく獣魔法で周囲に威嚇をしているのだろうが、その魔力量なら全然効かない。
「なんだその手は」
「これは秘密です」
人魔法なので。巨人の力を借りたとは言えない。
「息子さん、お借りしますよ」
「なに!?おい勝手なことを」
「息子さん、鍛えてきます」
それだけ言い残して宿屋を去った。
担がれてるスモックが一言。
「え、俺ヒロイン?」
この野郎。
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