機械の町。最高。
魔法を自動出力するように鉱石を使用したり、魔法を使わせる仕組みが使われていたり。発見だらけだ。
相当な実力者か、多人数が集まって組んだのか、どちらにしても人類の一歩を感じる文明の利器に涙が止まらない。
知らないことを知るその瞬間、予想を裏切るその瞬間のために生きていると言っても過言ではない。
まあ魔法開発のために生きてる、というか生かされているんだけど。
生かされる、より、生きてるの方がポジティブだろう。
「スモック!この町の一番の見所教えてくれ!」
「興奮で呼び捨てになってんぞ。この町と言ったら、創造を司ると言われるハンマーが展示されてるからそれだな。何気に見に行ったこと無いんだよな」
「行こう」
物の歴史は魔法の歴史。見に行くしかない。
少し歩いただけで、さほど遠くない場所にあった。
博物館か。良いねえ。こういうのが見たいんだよ。
中に入ると、入場料は無料のようだった。
風除室ならぬ魔法除室を抜け、展示室に入る。
うおお。
目玉のハンマーではないが、機械の部品等が展示されている。
これくらいなら俺にも作れるだろうか。強度も大事だよな。強度を担保するためにはどうしたら良いんだろう。
大体同じ魔法を撃てば同じ強度にはなるだろうが、大体では駄目だ。
複製……?一人が撃った魔法に対して発動すれば、その人間の発動した魔法と同じものが出来るかもしれない。
複製魔法自体の強弱は本人で、魔法を掛けられた対象依存で物の強度が担保されると考えた方が無難だから、それを覚えられれば、魔法開発に役立つかも。
精密さにおいても問題解消だろ。
博物館ということもあり、小声で”最高”とスモックに伝える。
”楽しそうで良かったよ”と言っている。楽しいだろこれは。
いやでもしかし、機械の職人と、それを複製できるだけの魔法を唱えられる人間がいてこその所業。
会ってみたいもんだけど、ルーチェさんに教わる約束してるからな~。
あまり女性を待たせることもできないし、1泊くらいまでの間で教わることはできない。
ま、気が向いたら来ればいいし。
次は目玉のハンマーをば。
「おお……」
創造を司ると言われるハンマーを見つけた。
なんの魔法が掛けられてるんだろう。
恐らく魔法があまり使えない人間向けに魔法を付与した道具が開発された、とみていいのではないか。説明書読むか。
「有、の魔法……?アリトアラユルモノ?」
おいおい。初めて聞くし、有という属性があるというよりは様々な魔法が掛けられた道具という感じだ。
火、水、氷、雷、石、刃、音、風、草、光……。
10の魔法が掛けられているのか。具体的に何が出来るとは書かれてないけど、この町を作るにあたって使われたらしいということが書かれている。
神々しい。こういう物を見てると自分の悩みなんて無くなるよな。
無くならないけど。
「よし、出るか」
「あっさりだな」
博物館を出る。もう夕方だ。適当なところに泊まろう。
「やべ、スモック君お金ある?」
「てめえに取られた200スケールを除いて、1,795スケールあるぜ」
「一般的な宿屋の相場っていくら?」
「分からん。2人で50スケールくらいじゃね」
おいおい。いつかあの200スケールの宿屋潰しに行くか。
「飯食べて宿屋で休もう。糖分欲しいし」
「いいな。俺もタンパク質が欲しい」
ーーーーーーーーーー
美味い美味い!身体に染みる……思えばこの世界に来てから何も食べてなかった……!
よく生きてたな俺。
よくそれに付き合ったなスモック。
「昼食べた屋台のケバブ並みにうめえ」
こいつ、知らんところで飯食ってやがった。
まあいい。人間は食べなさい。食べなさい。
魔力分子のみの身体、栄養が欲しい感覚はあるけど、腹が減ったって感覚は無いんだよな。休めば脳の働きもなんとかなるし、人間の身体よりも良いかも。
「兄ちゃんたち、良い食いっぷりだねぇ」
「この町最高なんで。当然っすね!」
見知らぬおじさんも声を掛けてくる。
「嬉しいこと言ってくれるね。働き甲斐があるよ」
「あ!ここで働いてらっしゃるんですか?」
「あぁ。この町の工場でな。40年よ」
「すげぇ!普段どんな魔法を使われているんですか?」
「兄ちゃん~。それを言ったら仕事できなくなっちまうよ!」
「あそりゃそうか」
2人でガハハと笑う。
「兄ちゃんには、運命的な何かを感じるな。刃の精霊様が憑いてるなんて、珍しい人間だ」
「精霊様?」
「ああ。刃の精霊、ケンゴワン様が笑ってらっしゃる。その格好、旅してんだろ?道端でときどき刃の欠片みたいなのが見つかるはずだから、それに語り掛ければいい」
「なるほど。すると精霊と話せるわけですか。ありがとうございます!」
精霊と話ができるなんて楽しみだ。無病息災でもお願いするか。
「じゃあな。俺はここで。また会えるのを楽しみにしてるよ」
「ありがとうございました。僕も楽しみにしてます」
不思議なおじさんだ。精霊と話せる方法なんてあるんだな。てか精霊なんていたんだな。
刃の欠片……で刃の精霊と話せるってなると、光の精霊なんて至る所にーーーー
ーーーーうっ。
窓の外。なんだあれ。めっちゃこっち見てるやつがいる。
明らかに人間じゃないというか、生物じゃない。
ハハ。あれが光の精霊様なんてことは……。
「……(コクン)」
「……どうも」
(あなたには光の素質があります。しかし常に心が闇と共にあります。私の姿が見えているということは、光が差しているということです。しかしあなたには光も闇も要りません。クレアジワ……。クレアジオーネ。良い名前です。いつか、良き話相手になってくださいね)
頭に語り掛けてくる。
でも。
内容が分かんねえ。どういうこと。前半は分かる。で、恐らくスモックが仲間になったことによって今、俺の心に光が差してるってこともまあギリ分かる。
光も闇も要らない。どういう意味だ。
光魔法は空間の概念。闇魔法は死の概念らしい。記憶によると。単純に使っても強力だし、応用しても強力だし。何でだろ。
他の魔法が全て使える、からか?
それとも、何か別の原因が。
後、良き話相手って。一番分からん。
精霊語学者、頼む。
「……グゥ」
考えても分からんし、寝てるスモック担いで宿屋行くか。
ーーーー翌朝ーーーー
飯を食って寝る。
こんな単純なことができない生物がいたらしい。
昔の俺。とかいう。
あまりにも快眠過ぎて、昔の俺に対してヘイトが向くね。
「行こう」
「行くか」
宿屋を出て町の出入り口へ。
「ハロー。よく眠れた?」
ルーチェさんだ。
「よく眠れましたよ。良い刺激も受けました」
「なんかよく分からんすけどおはようございます」
「おはようございます!それは結構。じゃあこの町を出る前に、最後に見せましょう。星魔法をね」
星魔法!?
ルーチェさんは一呼吸置いた。
「スペースフリー」
突如として空間が変わる。
まるで空気のある宇宙にいるかのような感覚だ。
「本当なら重力とか温度とか空気とかで死んじゃうんだけど、今回は見た目だけ。火、水、氷、石、土、風、草、光の8つによる複合魔法を勝手に星魔法って言ってるだけなんだ~」
「すげぇ……」
あの創造を司るハンマーで10種類の魔法。恐らく1人でできた偉業ではない。
そのハンマーに、たった1人で8種類というところまで迫ったのか。
「ほら色々な星があるでしょ。これは私の居た世界の宇宙を再現してるんだけど、あの星とか綺麗でしょ。動物の心臓って言われてるんだ。……それとこれ」
ルーチェさんが胸の辺りから光を取り出す。
「私の魔力を一部あげちゃう。多分身体に変化が起きるかもだけど、我慢してね」
「はい!ありがとうございます」
光を手に取る。
どうしていいのか分からなかったので、ルーチェさんが胸から取り出したということは胸に入れるもんだと解釈。
胸にぶち込む。
あぁ、力が漲る。
と同時に。
胸が膨らんだ。
「!?」
「あら。両性具有みたいになっちゃったね。でもこれで今までの1.5倍以上の力は出せると思うから。頑張って」
え、えぇ~。
頑張れる?これ。力は漲るけど、漲るけどさぁ。
……でも一回女の子になってみたさはあった。良い経験と思うことにするか。
「なんか複雑ですが、ありがとうございます……」
「じゃ、魔法解くね」
通常の空間に戻る。
わ、とスモックが驚く。
……なんか目のやり場に困ってないか。そんな反応されても嫌なんだが。
「そんなわけで、また会える日を楽しみにしてますので」
「ありがとうございました。また来ます」
「僕も、なんかありがとうございます」
お前は別に良いよスモック。
マジで、胸への視線って分かるんだな。
読み終わったら、ポイントを付けましょう!